第53-2(1)話:模擬戦
真っ二つになったドラゴンを『
檻に入れたブラストを監視するために、エリクの護衛のうち2人が荷物用の馬車に乗ることになった。2人が乗っていたノーコーンには、ジークの護衛たちが乗る。
まあ、バーンや女子の護衛を使う訳にはいかないからな。ジークの護衛を選んだのは、消去法だけど。
その後は襲撃もなく。時速80kmで滑走したら、14時前に別荘に到着した。普通の馬なら丸1日掛かる距離だけど、さすがはノーコーンってところか。
王家の別荘は森に囲まれた湖畔にある。王家が使う別荘だから、別荘と言うよりも小ぶりの城だけど。
「エリク殿下、皆さま、お待ちしておりました」
別荘の管理を任されているのは、ジェフリー・バレンティンという年配の騎士爵。灰色の髪と髭を整えたナイスミドルって感じだ。
他にも10人ほどの侍女と使用人たちが、俺たちを出迎える。
勿論、こいつらは只の侍女や使用人じゃない。ジェフリーを含めて、王家に仕える兼任の護衛だ。荒事専門じゃないから、そこまでレベルは高くないけど。
別荘で遅めの昼飯を食べてから、みんなで散策に出掛ける。エリクが旅行に来た目的は、ヨルダン公爵を誘き出すことだけど。みんなが旅行を楽しめるように、予定が組まれている。
別荘の周りにあるのは湖と森だけ。他に人もいない。別荘がある王家の直轄地には、一般人は入れないからな。
「ねえ、あそこにリスがいるわよ!」
「え! どこですの?」
「あの大きな木の幹のところね」
「あ、本当ですわ……可愛いです!」
王都暮らしの3人の女子は、森の散策を楽しんでいる。
俺の『
別荘周辺の森には普通の小動物もいるし。いきなり襲い掛かって来る凶暴な魔物はいない。
それにしても、この別荘がある環境って、完全に『襲ってくれ』と言っているようなモノだよな。森が遮蔽物になるから、潜伏するのは簡単だし。
他に人がいないから、一般人に見つかって襲撃がバレることもない。しかも別荘の一面が湖に面しているから、こっちの退路は限られる。
俺が襲撃するなら、どうするか。考えられる可能性を、頭の中でシミュレートする。
エリクや諜報部の連中も、色々と想定しているだろうけど。俺も冒険者になってからの8年間、ダンジョンの攻略だけをしていた訳じゃない。
「なあ、親友。ちょっと付き合ってくれよ」
散策を終えて別荘に戻ると、バーンに模擬戦に誘われる。
旅行の行き先が王家の別荘ってことは、エリクから予め聞いていたからな。俺は事前に別荘に潜入――いや、訪れて、周囲の環境は確認済みだ。
散策したときに、俺が訪れたときとの差異も確認したし。効果範囲が半径5km以上ある『
俺とバーンは別荘の中庭に移動する。バーンの2人の護衛も一緒だ。
バーンの護衛は小柄で細身の方がジャンで、長身でガタイの良い方がガトウ。2人ともグランブレイド帝国の騎士だ。
ジャンもガトウも100レベルを余裕で超えた実力者だ。だから旅行に行く前に、バーンが剣術を教えてくれと言ったとき。俺は2人に頼めば良いと応えたんだけど。
バーンは剣技大会のときと同じ装備を身につけている。黒鉄色のプレートアーマーに、グランブレイド帝国の紋章が入った盾と幅広の長剣だ。
ちなみに俺は、シャツ一枚にズボンという普段の格好で。2本の剣は市販品だ。
「じゃあ、遠慮なく行かせて貰うぜ!」
バーンは間合いを測るように、ゆっくりと距離を詰める。そして自分の間合いに入ると、いつものバーンなら、力に任せに全力で剣を叩き込んで来るところだけど。今日のバーンは違った。
盾を構えて、俺の右の剣を警戒しながら、八分ほどの力で剣を振るう。これなら相手が何か仕掛けて来ても、対応できるだろう。
俺は左の剣でバーンの剣を受けて、右の剣で盾ごとバーンの身体を押し戻す。今のバーンは力みがないから、これくらいじゃ体勢を崩さない。
バーンは盾を正面に構えて身を守りながら、強引に突っ込んで来る。だけどそれはブラフで、俺が盾のないところに突きを入れると、大きく跳んで躱した。
「バーン、少しは解って来たみたいだな」
俺の言葉に、バーンが嬉しそうに笑う。
「だろう、親友。俺だって成長しているんだぜ!」
バーンが見せた一瞬の隙に、俺は2本の剣を叩き込んで。バーンの剣と盾を同時に跳ね飛ばす。
剣と盾は高々と空中に舞い上がって、地面に落ちる。
「だけど、まだ基本ができていないな。バーンはステータスに頼り過ぎなんだよ」
悔しそうな顔をするバーン。ちょっと可哀そうだけど、これくらいで調子に乗らせるのは良くないからな。
「それでもこの数日で、バーンは何か掴んだみたいだな」
「ああ。ジャンとガトウに、散々ボコボコにされたぜ」
バーンがステータスに頼る強引な戦い方をするのは、鍛錬の相手をする護衛のジャンとガトウが忖度して。バーンが気持ち良く打ち込めるように、手加減していたからだと思っていたけど。
「アリウス卿。プライドの高いバーン殿下に頭を下げられて、我々も考えを改めたんです」
ジャンが苦く笑う。
「バーン殿下の本気を感じました。アリウス卿、ありがとうございます」
ガトウが深々と頭を下げる。
護衛の2人にボコボコにされて、バーンはようやく自分の本当の実力に気づいたようだな。格上相手だとステータスに頼るバーンの剣は、全く通用しない。
「バーン。考え方を改めたなら、あとは徹底的に鍛錬するだけだ。きちんと鍛錬すれば、おまえは強くなると思うよ」
『
「ああ、親友。俺だって一朝一夕に強くなれるなんて、甘く考えていないぜ。ジャン、ガトウ。これからも本気で俺を鍛えてくれよ」
バーンは悔しそうだけど、晴れやかな顔をしていた。
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