第51-2(2)話:闇落ちした竜騎士


 襲撃して来た赤いドラゴンを、焔のブレスごと真っ二つにした。だけど本命はドラゴンじゃない。

 ドラゴンの背中に乗っていた奴は、俺がドラゴンを両断する前に飛び降りた。


「てめえがアリウス・ジルベルトか? 随分と好き勝手にやってくれるじゃねえか。天然のドラゴンは貴重なんだぜ。この俺を怒らせたことを、後悔させてやる!」


 真っ赤なフルプレートを纏う髭面の巨漢が空中に浮かぶ。まあ、『飛行』くらい当然発動しているよな。

 身長は2mを余裕で超えていて、横幅は俺の倍以上ある。巨漢は無骨な両刃の戦斧を、両手に1本ずつ構える。


「俺の名前を知っているとか。『掃除屋スイーパー』の間で、俺も有名になったみたいだな。おまえは『闇落ちした竜騎士』ブラスト・ガーランドだな」


 俺は父親のダリウスから諜報部が集めた情報を聞いているし。情報収集は冒険者の基本だからな。俺はこいつのことを知っている。

 元S級冒険者の『掃除人』ブラスト・ガーランド。パーティーの仲間を皆殺しにして冒険者資格を剥奪されたとか、相当凶暴な奴だって話だ。


「てめえの方こそ、俺を知っているとは関心じゃねえか。ご褒美として、苦まないように殺してやるぜ!」


 ブラストは戦斧を軽々と振り回しながら、襲い掛かって来た。

 俺はブラストの動きに合わせて、2本の剣で受け止める。金属同士がぶつかる甲高い音が響く。


「ほう……その細い腕で、俺の攻撃を受け止めるか。アリウス、てめえの噂も眉唾じゃねえみてえだな!」


 ブラストは続けざまに、戦斧を叩き込んで来る。魔力を込めた攻撃は速くて重い。

鑑定アプレイズ』したから解ってるけど。ブラストは500レベルを余裕で超えている。俺は2本の剣で、ブラストの攻撃を受け続ける。

 地上にいるエリクの護衛たちは馬を止めて、俺たちが戦う様子を窺っている。


「アリウス。てめえも、なかなかやるな」


 ブラストが獰猛に笑う。


「だが防戦一方じゃねえか。ここからはギアを上げるぜ!」


 ブラストは2本の戦斧を繋げて、上下に巨大な刃が付いた1本の槍のようにすると。大量の魔力を注ぎ込んで、扇風機のように高速回転させる。

 こんな攻撃を下手に受ければ、剣を弾き飛ばされて。身体を切り刻まれるだろう――S級以下の冒険者ならな。


 俺は魔力を集束させた剣を、高速回転する戦斧に突き入れる。俺の剣に触れた瞬間、ブラストの戦斧は、木っ端微塵に砕け散る。


「な、なんだと……俺の戦斧は高難易度ハイクラスダンジョン燦のマジックアイテムだぞ!」


 今、俺が使っている剣は普通の市販品だ。だけど魔力操作の精度が上がれば、普通の剣でも十分戦える。


「御託を言う暇があるなら、攻撃して来いよ。ブラスト、おまえは魔法の方が・・・・・得意なんだろう?」


 ブラストは如何にも武闘派ってスタイルだけど。戦斧の攻撃はブラフで、ずっと魔法を放つタイミングを狙っていたからな。


「アリウス、てめえ……そこまで知っていながら、俺が魔法を放つのを止めねえのか? 舐めやがって……良いぜ、俺の最強の魔法で葬ってやる――『獄炎焦土ヘルズエクスプロード』!」


 『獄炎焦土』は複合属性第10界層魔法だ。自分を中心に広がる黒い地獄の炎が、全てを焼き尽くすと言われているけど――


「なあ、ブラスト。おまえの魔法って、こんなものか?」


 俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を発動して『獄炎焦土』を防ぐ。ブラストの『獄炎焦土』の威力だと、俺の『絶対防壁』はノーダメージだ。


「なんだと……だったら、もう一度――」


 俺は一瞬で距離を詰めると、ブラストを殴りつける。

 ブラストの巨体は地面に落下。背中から激突して、地面が陥没する。


「それはもう見たからな。そんなこと、させる筈がないだろう」


 俺は地上に降りて、ブラストの様子を確認する。全身血まみれで、意識を失っているけど。とりあえず、まだ生きているな。

 まあ、エリクに飼い主を殺さないでくれと頼まれたから。ブラストを殺さないように、力を加減したんだよ。


 やろうと思えば、俺はブラストを一撃で倒せた。だけど相手の攻撃を躱さないで、わざと受けるような。全く俺らしくないやり方をしたのには、2つの理由がある。


 1つは、周りにいる護衛たちと諜報部の連中に、今回の敵がどの程度の力を持つか測らせること。もう1つは、俺も手の内を晒したくないからで。ブラストじゃなくて、どこかで見ている奴・・・・・・・・・に対して。


 単騎で襲撃するとか、戦力を消耗するだけだから。普通に考えたら、あり得ないだろう。考えられるのはブラストを使って、こっちの戦力を品定めをしたってことだ。


 まあ、ブラストが勝手に独断専行した可能性もあるけど。前者だとしたら、ブラスト程度・・を消耗しても問題ないくらいに、相手・・には十分な戦力があるってことだ。


 俺はブラストに手錠と足枷を付けて、拘束する。これは勇者パーティーのクリスにも使った最難関トップクラスダンジョン産の魔力を封じる魔導具だ。

 ブラストの魔力を封じれば、エリクの護衛たちでも抑えられるからな。


「アリウス、ありがとう。良くやってくれたね。おかげでこっちの被害はゼロだし。敵の実力が解るような戦い方をしてくれて、助かるよ。後のことは僕に任せてくれるかな」


 俺がらしくない戦い方をしたことの意図に、エリクは気づいているようだな。ブラストの襲撃もエリクにとっては、想定の範囲・・・・・だろう。


 護衛たちがブラストを荷物用の馬車に連れて行く。荷物用の馬車には、魔道具の檻が積まれていた。『鑑定』してみると、S級冒険者でも破壊できないほど頑丈な奴だ。用意周到なエリクは、俺と同じような用意をしていたってことだ。


 さらには2人の騎士が同乗して監視するらしいから、魔力を封じたブラストが脱出するのは不可能だろう。


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