第50-2(3)話:出発

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 午後の授業も終わって、放課後になると。俺が向かう先は――2つ目の最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』だ。


 俺は1つ目の最難関ダンジョン『太古の神々の遺跡』を、ソロで完全攻略したんだから。直ぐに次のダンジョンに挑むのは当然だろう。


 『魔神の牢獄』に出現する魔物は、悪魔じゃなくて魔神だ。正確に言えば『偽神デミフィーンド』と呼ばれる下級の魔神だけど。


 1階層に出現する『焔の偽神フレイム・デミフィーンド』は、山羊の角と蝙蝠の翼が生えた美丈夫イケメンの姿だ。身長は20mを余裕で超えているけど。


 黒い地獄の業火ヘルズフレイムを纏っているから、近づくだけでHPが削られるし。奴の攻撃が直撃すれば、俺のHPでも半分近く持っていかれる。

 おまけに獄炎のブレスまで吐いて来るし。炎のブレスなのに『天上竜ヘヴンズドラゴン』の光のブレス並みに速いのは、どういうことだよ?


 単純に比較すると『太古の神々の砦』のラスボス『究極のアルティメット騎士ナイト』の方が、『焔の偽神』よりも強い。

 だけど『究極の騎士』は1体なのに、『焔の偽神』は1,000体以上同時に出現するからな。


 まあ、強い敵と戦うのは、堪らなく楽しいけど。ソロだと攻撃も防御も完全にパワーが足りなんだよ。

 グレイとセレナと一緒に攻略したときは、普通にクリアしたけど。1人だとスキルと魔法を常に全開するしかないから、どうしても継続戦闘能力が落ちる。つまりMPが足りなくなるってことだ。


 まあ、新しい階層に初めて挑むときは、いつもギリギリだから。生き残ることを最優先に考えながら、戦闘に集中する。一度攻略したことのあるダンジョンだから、俺がもっと強くなればクリアできることは解っている。一瞬でも気を抜けば、死に直結する戦いを続けることで。自分が強くなっていくことが実感できる。


 自分の限界を見極めて、撤退するタイミングを選択する。判断を間違えれば確実に死ぬし、見極めが甘いと強くなれない。

 撤退するのも簡単じゃない。階層全体を俯瞰する感覚と、目の前の敵の動きを同時に捉えながら、攻撃と回避の最適解をコンマ1秒毎に導き出す。それができないと、生き残れないからな。


※ ※ ※ ※


 そして金曜日になって。俺たちはエリクと王家の別荘へ旅行に行く。

 勿論、それは名目で。本当の目的は、ヨルダン公爵を誘き寄せるためだ。

 勿論、こんなイベントはゲームにはなかった。


 まあ、本音を言えば、俺は今週末も『魔神の牢獄』を攻略したい。だけどヨルダン公爵の戦力は、決して侮れないからな。さすがに放置するわけにはいかないだろう。


「今回は郊外に行くからね。大型の馬車を用意したよ。荷物用の馬車もあるから、そっちも使ってくれるかな」


 エリクが用意したのは、金で装飾された白塗りの馬車。荷物用の馬車も同じデザインだ。

 みんなが乗る方の馬車は、大型バスのようなサイズだ。中は二重構造になっていて、外側の廊下の部分が、侍女や護衛が待機するスペースだ。


 内側の部屋の部分は、柔らかいカーペットが全面に敷かれている。その上にテーブルを囲んで、5人は座れそうな革張りのソファーが2脚に、肘掛け椅子が4脚。小ぶりな広間が、そのまま移動する感じだ。


 派手なのは馬車だけじゃない。馬車を引くのは4頭の白馬だ。

 しかも普通の馬じゃない。俺は『鑑定アプレイズ』したから解るけど、ユニコーンの血が混じったノーコーンという名前の半分魔物だ。


 旅行に同行するのは、みんなに事情を全部話した上で。本人が決めることにしたけど。結局、全員参加することになった。

 バーンが参加することは事前に聞いていたし。ソフィアはエリクの婚約者で、ジークもロナウディア王国の王子だから、同行するのは解る。ジークの婚約者のサーシャも、ジークが同行するならってことだろう。


「ミリアは、なんで参加するんだよ? ダンジョン実習のときよりも、たぶん強い敵が来るから。俺は同行するのを勧めないって言ったよな」


「それでもアリウスがいるから、問題ないでしょう? 本当に危ないと思うなら、アリウスは止めるわよね」


 確かに、この人数なら守り切れると俺は思っているし。エリクが用意した戦力に不足はないけど。だからってミリアが参加する理由にはならないだろう。


「私もヨルダン公爵のやり方が気に入らないし。私1人だけ安全な場所で、待っていたくないのよ。アリウスには迷惑かも知れないけど」


 ミリアは申し訳なさそうな顔をする。


「いや、ミリアが1人増えたところで、大差ないからな。ミリアが決めたことなら、俺は構わないよ」


「アリウス……ありがとう」


 俺たちと馬車に同乗するのは、ソフィアとサーシャの侍女を兼ねた護衛が2人ずつ。バーンとジークも護衛を2人ずつ連れている。あとはエリクの侍女兼護衛のベラとイーシャの計10人だ。


外の護衛は騎馬を駆る10人の騎士と、御者席に座る2人の騎士の計12人。全員白銀の鎧を纏っていて、騎士が乗る馬も全部ノーコーンだ。

 ダンジョン実習で教師として俺たちの引率役をしたオスカーや、最下層に一緒に転移したターナ、ジール、ジェリド、ガイアの4人もちゃっかりいる。


 だけど護衛の本命は騎士じゃない。今も『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を併用して隠れている諜報部の奴らだ。そいつらが馬に乗っていないのは、自分で移動した方が速いからだ。


 ノーコーンは普通に時速80km以上出るから、前世の車並みのスピードで街道を走り抜ける。こんな速度で走ると振動が凄そうだけど。そこは魔法がある世界だからな。

 馬車自体が一種の魔導具で、僅かに空中に浮かんでいる。だから全く振動がないんだよ。滅茶苦茶目立っているけど。


「えっと……なんでボクが呼ばれたのかな? いや、呼んでくれたこと自体は嬉しいんだけど」


 マルスが居心地悪そうに、肘掛け椅子に座っている。ちなみに護衛は連れて来ていない。


「ルイス・パトリエ枢機卿猊下から、話は聞いているよね。マルス卿が望んでいるように、僕は君と親交を深めようと思ってね」


 エリクがいつもの爽やかな笑みで応えるけど、絶対に嘘だな。

 エリクの交渉相手は、マルスじゃなくて。父親のルイス・パトリエ枢機卿自身だから。

 何か取引をしたんだろうけど。俺にはマルスが売られて行く子牛に見えるよ。


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