第46-2(14)話:小さな来客

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 午後の授業も終わって、放課後になる。

 これから俺は、ソフィアたちと遊びに行く予定だ。


 ミリアに私服で遊びに行くと言われたから、一旦寮の部屋に戻ることにする。

 俺の『収納庫ストレージ』にも私服は入っているけど、外で着替える訳にもいかないからな。


 寮に戻ると、俺の部屋の前に小さな銀髪のが2人いた。


「アリウス兄様、お帰りなさい! えへへ……来ちゃったわ!」


「アリウス兄様、突然来てごめんなさい。だけどアリシアが、どうしてもアリウス兄様のところに行きたいって言うから……」


 アリシアとシリウスは、今年9歳になる俺の双子の妹と弟だ。まあ、だいたいの状況は理解したけど。

 ちなみに『兄様』という呼び方は、2人が社交界にデビューして憶えたらしい。どこかの貴族の影響を受けたんだろう。


「だって、アリウス兄様が、全然家に帰って来ないから……それにシリウスはズルいわよ。シリウスだって、アリウス兄様に会いたいって言っていたじゃない!」


「いや、僕はそんなことは……言ったけど……」


 俺はこれからソフィアたちと遊びに行く約束をしているけど。弟と妹にこんなことを言われたら、用事があるからと追い返す訳にもいかないだろう。


 俺は転生する前の世界で、兄弟がいなかったし。この世界に転生してからも、冒険者として世界中を巡っていたから。

 アリシアとシリウスには、毎年2人の誕生日に会うくらいで。イマイチ兄弟という感覚が解らないけど。


「アリシア、シリウス。誰かに出掛けるって言って来たのか?」


「……お手紙は置いて来たわ」


「……」


 2人は勝手に家を抜け出して来たってことだな。

 俺も子供の頃、父親のダリウスと母親のレイアがいないときに、家を抜け出して魔物を狩っていたから。偉そうなことは言えないけど。


「勝手に出掛けると、みんなが心配するだろう。今日のところは俺からマイアさんに『伝言メッセージ』を送っておくけど。今度から俺のところに来るときは、必ず誰かに言ってからにしろよ」


 マイアは俺の実家であるジルベルト家の侍女長で。ダリウスとレイアが不在のときは家の管理を任せている。

 マイアは元冒険者で、魔法が使えるから。俺も用事があるときに『伝言』で何度かやり取りしたことがある。


 『伝言』でアリシアとシリウスが俺のところにいることを伝えると、マイアから直ぐに返事が返って来た。


 内容は、アリシアとシリウスが勝手に出掛けることを止められなかったことの謝罪と。2人を午後5時までに家に帰して欲しいが、それがご無理なら帰る時間を教えて欲しいというものだ。


 事務的な書き方だけど、俺はマイアの性格を知っているからな。2人を心配していることと、責任を感じていることが解る。


「マイアさんは、おまえたちのことを心配しているみたいだぞ」


「アリウス兄様、ごめんなさい……」


「僕も……ごめんなさい」


「2人が反省したなら、俺は構わなけど。あとでマイアさんに謝っておけよ。それにしても、おまえたちは、どうやって俺の部屋まで来たんだ?」


 学院の寮はそれなりに警備が厳重で、部外者が勝手に入ることはできないし。学院の敷地は広いからな。俺は寮の場所を教えていないし、アリシアとシリウスがここに辿り着くのは難しいだろう。


「僕たちが名前を言って、アリウス兄様のところに行きたいって言ったら。門番の人が案内してくれたんだよ」


「ええ。門番の人は私とシリウスのことを知ってるみたいで。父様と母様にはお世話になっていますって、言っていたわ。

 ここに来たら、管理人室で待っているように言われたけど、断ったの。だってアリウス兄様が帰って来たときに、お部屋の前にいて、ビックリさせたかったから」


 つまり学院の門番が、王国宰相夫妻に忖度したってことか。だけど家族だからって、部屋を勝手に教えるのはどうかと思うよ。おかげでアリシアとシリウスが迷子にならなかったから、文句を言うつもりはないけど。


「俺はこれから約束があるけど。おまえたちも一緒に来るか?」


「「え……良いの?」」


 アリシアとシリウスの期待に満ちたつぶらな瞳。


「ああ、構わないよ。俺は急いで着替えて来るから、ここで少し待っていてくれ」


 俺は部屋に入ってドアを閉めると、『即時脱着クイックチェンジ』を発動して一瞬で着替える。


 『即時脱着』は『収納庫』を応用した空間属性魔法で。武器でも防具でも何でも、自分が身に付けている装備を、『収納庫』の中にある装備と瞬時に交換できる。


 ちなみに『即時脱着』は、俺の師匠のセレナが開発したオリジナル魔法で。どんな魔法の本にも載っていない。使用用途が限定されるし、そこまで需要はないだろうけど。


「え……アリウス兄様、もう着替えたの?」


 直ぐに戻ると、アリシアとシリウスが驚いているけど。


「ああ、人を待たせているからな。急いで着替えたんだよ」


 俺はおもむろに、アリウスとシリウスを左右の腕に抱き抱えた。


「「え……アリウス兄様?」」


「おまえたち、しっかり掴まっていろよ」


 俺は2人を抱えて走り出す。俺のステータスなら、2人を抱えて走るなんて余裕だからな。


「ねえ、アリウス様よ!」


「「「「「アリウス様!」」」」」


 擦れ違う女子たちが、黄色い声を上げる。


「だけど……一緒にいるあの子供は誰かしら?」


「そうね……アリウス様に似ているけど……」


「あら、貴方たちは知らないのかしら? アリウス様の弟と妹のシリウス様とアリシア様よ!」


 わざわざ解説している女子がいる。


「ア、アリウス兄様……恥ずかしいわ!」


「そ、そうだよ……僕たちはもう子供じゃいんだから!」


 アリシアとシリウスは、周りの目を気にして真っ赤になる。


「じゃあ、もっと速く走って、直ぐに終わらせるからな」


「「え……ちょっと、アリウス兄様!」」


 俺は一気に加速して、待ち合わせの場所まで1分で到着する。

 アリシアとシリウスは完全に引いていたけど。


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ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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