第46-2(2)話:剣技大会当日


 次の週の火曜日。今日は3学年合同の剣技大会が行われる。


 剣技大会には学院の生徒なら、希望すれば誰でも参加できるけど。参加者の人数が決まっているから、剣術と魔法実技の成績で足切りがある。

 今年の参加者は1年生と2年生が30人ずつで、3年生が4人らしい。


 学院の生徒は3年生になると、特に家督を継ぐような貴族の生徒は、家の仕事に関わることが増えて。授業を欠席することが多くなる。その影響で剣術大会に出る3年生は元々少ないけど。


 学院の授業はそれなりに厳しいから、上級生の方が強いのは当然と見做されている。だから3年生の参加者は勝って当然で、敗けたら評判がガタ落ちになるから。参加する3年生は余計に少なくなる。


 昨年の優勝者であるキース・ヨルダンも、今年の剣技大会に参加するつもりはなかっただろう。ゲームのときは参加しなかったからな。

 だけどエリクの要請で、参加せざるを得なくなった。


 エリクがキースを参加させる目的は、キースが1年生に敗けることで、評判をガタ落ちにして。キースの父親で、ダンジョン実習の襲撃事件における本当の黒幕、ヨルダン公爵を煽ることだ。


 たかが息子の評判と、思うかも知れないけど。特に派閥を率いる貴族にとって、面子は重要で。キースはヨルダン公爵の嫡男で、反国王派貴族の次世代の中心人物と見做されているから。キースの評判が落ちることで、ヨルダン公爵が受けるダメージは少なくない。


 エリクはこの機会に反国王派の貴族を一掃するつもりで。ヨルダン公爵を追い詰めようと、様々な画策をしている。今回の件もエリクの仕掛けの1つだ。


 剣技大会が行われるのは、学院の施設内にある競技場。

 観客席に囲まれた広いスペースに、正方形に線引きされた試合場が4つ設置されて。試合はトーナメント形式で、2回戦までは4試合ずつ同時に行う。


 試合では本物の武器を使って、スキルも魔法も何でもありの実戦形式だけど。魔法実技の授業と同じように『特殊結界ユニークシールド』の中で行う。


 『特殊結界』はダメージの無効化と数値化の効果があって。相手に与える筈だったダメージがポイントとして空中に表示される。

 

 だけど魔法実技の授業と違うのは、100ポイント先取制じゃなくて。相手が負けを認めるか、ダメージの蓄積で『特殊結界』が破れるまで試合を行う点だ。


 まあ、一方的にポイントを奪われたら、恥を晒すだけだからな。接戦じゃなければ、普通は『特殊結界』が敗れる前に、負けを認めるけど。


「アリウス。今日はよろしく頼むよ」


 エリクが試合場で、いつもの爽やかな笑みを浮かべる。

 俺は剣技大会に参加することを保留していたけど。結局、参加することにした。理由はトーナメントの組み合わせだ。


 俺の知り合いの中で、剣技大会に参加するのは、エリク、バーン、ミリア、ジークの4人。あとは一応、枢機卿の息子のマルスも参加するけど。

 順当に勝ち上がると、キース・ヨルダンの2回戦の相手はジークで、3回戦がバーン、4回戦がミリア。準決勝が俺で、決勝戦がエリク。完全にエリクが仕組んだような組み合わせだな。


 剣技大会は学院の一大イベントで、アルベルト国王や、王国宰相で俺の父親のダリウス、ヨルダン公爵を含めた三大公爵も観戦するから、下手なことはできないだろうけど。事故・・が起こる可能性はあるからな。


 まあ、今回もエリクが教師たちの中に護衛たちを紛れ込ませているし。諜報部の連中も動いているからな。キースについては・・・・・・・・、そこまで警戒している訳じゃない。

 だけど出場者として参加しないと、試合場を自由に出入りすることができないからな。


 観客席は試合に出場しない生徒たちが溢れている。個室のように区切られた来賓席にいるのは、アルベルト国王と招かれた貴族たちだ。


 アルベルト国王の挨拶が終わると、まずは1回戦だ。

 1年生は1回戦で、必ず上級生と対戦する。組み合わせのおかげで、実力のない1年生が2回戦に進むことを防ぐためだ。


 俺は第2試合場の最初の試合に出場する。対戦相手は、2年生のロッド・スカーレット。

 ヨルダン公爵の派閥に所属するスカーレット伯爵家の息子で、今回の剣術大会の優勝候補の1人だ。


「おまえがアリウス・ジルベルトか。1年の中じゃ目立っているようだが、所詮は1年ってことを教えてやる!」


 ロッドはハルバードに、フルプレートというスタイルで。『身体強化フィジカルビルド』に『加速ブースト』と強化系魔法を発動すると。加速しながら、ハルバードを振り回して突っ込んで来る。


 ロッドは2年生の中でも優勝候補に挙げられるだけあって、実力は本物だ。まあ、あくまでも学院の生徒としてはってレベルだけど。


 ちなみに今の俺は、今回の剣術大会に出場するために買った市販品のハーフプレートと長剣ロングソードを装備している。

 俺が普段使っている最難関トップクラスダンジョン産のマジックアイテムを使うのは、さすがに反則だからな。


「そんな剣で、俺の攻撃を受け止められる筈がないだろう!」


 ロッドが放つ横凪ぎの一撃を、俺は左の剣で受け止めると。そのままロッドの身体ごと弾き飛ばす。


「な、なんだと!」


 ポイントを表示する前に『特殊結界』が消滅して、ロッドのハルバードは粉々に砕け散る。

 だけどロッド自身は無傷だ。俺がHPを削らないように、ダメージを調整したからな。


「ロッド先輩。まだ続けるなら、予備の武器を持って来るまで待つよ。次は武器だけじゃ済ませないけど」


「……俺の負けだ」


 青い顔で俯くロッド。観客席の生徒たちから歓声が上がる。

 手加減すると変な癖がつくし。剣技大会に出場する以上、目立つのは仕方ないだろう。


「「「アリウス様ー!」」」


 黄色い声が上がるのも、もう慣れたからな。


「1回戦から派手な勝ち方ね。ホント、アリウスらしいわ」


 試合場の周りに置かれた出場者たちが控える席に戻ると、ミリアが呆れた顔をする。


「俺は別に派手なことをするのが好きな訳じゃないけどな」


「これは俺も負けてられねえな。アリウス、次は俺の番だ。行って来るぜ」


 バーンが立ち上がって、試合場に向かう。

 1回戦は全部で32試合で、4つの試合場で8試合ずつ行われる。

 ミリアの出番はまだみたいだからな。一緒にバーンの試合を観戦するか。

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