第45-2話:アリサの本音


「ジル……おっと! アリウスはんを家名で呼ぶのは、ご法度やったな。最近、忘れっぽくてあかんな。アリウスはん、堪忍やで!」


 アリサは、俺がロナウディア王国の宰相の息子アリウス・ジルベルトだと知っていて。それをネタに、揺さぶりを掛けるつもりみたいだけど。


「おまえの好きにしろよ。俺はどんな呼び方でも、構わないからな」


 貴族だとバレると他の国に行ったときに、いちいち挨拶に来いとか。社交界に顔を出せとか言われて、時間を無駄したくなかったんだけど。

 今の俺は毎日最難関トップクラスダンジョンに直行しているから。カーネルの街以外に、他の国の奴に関わることなんてないし。


 今後のことを考えれば、他の国と関わることがあると思うけど。貴族だとバレて面倒なことになったら、ジルベルトの名前を捨てれば良いだけの話だ。俺は貴族の身分なんて、正直どうでも良いし。王国宰相の地位を継ぎたい訳じゃないからな。


「なあ、アリサ。おまえが俺について知っていることを、ここで全部話しても構わないからな」


 アリサは意味深な笑みを浮かべる。


「アリウスはん、気分を害したなら堪忍やで。うちはアリウスはんに興味があるだけで、別に他意はないで」


「良く言うよ。おまえは揺さぶりを掛けて、俺の反応を探っているんだろう。だけど俺は腹の探り合いをするつもりはないからな。おまえたちは謝るためだけに来た訳じゃないだろう。さっさと本題に入れよ」


「そんなに目くじら立てんといてや。アリウスはんが言うたように、うちにはまだ用件があるんやけど。その前に、うちのパーティーのメンバーを紹介するわ」


 アリサが4人を紹介する。黒髪で眼鏡の男がリョウ・キサラギ。こいつは名前も見た目も日本人みたいだな。腰に下げている武器も剣じゃなくて刀だ。

 『鑑定アプレイズ』したから解っているけど。こいつは物理系アタッカーで、アリサの次にレベルが高い。


 金髪のエルフがフォン・リエステラ。魔法とスキル構成から、魔法系アタッカーとヒーラーを兼任しているってところか。エルフだからか、魔法の取り方か独特だけど。


 赤い髪と髭のドワーフがバスター・ハウンド。筋肉の塊のような見た目だけど。こいつは物理系アタッカーじゃなくてタンクだ。


 オレンジ色のボニーテールのグラスランナーがリンダ・ロッシュ。マルシアが気に入らないって言っていたけど。こいつはマルシアの上位互換のような斥候タイプだ。


「なあ、SSS級冒険者のアリウスはんなら、うちら5人を相手にしても勝てるんやないか?」


 アリサがしたたかな笑みを浮かべて言うと、他の4人が俺に注目する。特に黒髪眼鏡のリョウは目を細めて、俺を見定めようとしている感じだ。


「アリサ、その質問に答える必要があるのか? おまえの挑発に乗るつもりはないけど。本当に知りたいなら、実際に戦ってみるしかないだろう」


 レベルなんて強さの目安に過ぎないし。多対一なら連携の仕方次第で、自分たちよりも強い相手に勝つことは可能だ。

 俺はこいつらに敗けるつもりはないけど。戦う前に勝てるだなんて、大口を叩くつもりはない。


「アリウスはんの言う通りやな。クリスの奴を散々ボコボコにしたらしいし。史上最年少のSSS級冒険者って話やから、もっと傲慢な性格と思うとったけど。全然、そんな感じやないな。試すような真似をして悪かったわ。ホンマ、堪忍やで」


 アリサはニヤリと笑うと。


「単刀直入に言うわ。うちらの目的はクリスのアホと同じで、アリウスはんを勇者パーティーに誘いに来たんや。SSS級冒険者のアリウスはんを勇者パーティーに加えることは、勇者アベル様たっての願いでな。クリスのことを水に流して、考えてくれへんか?

 アリウスはんにとっても、決して悪い話やないで。うちらと一緒に魔王を倒して、世界を救った英雄になれば、富も名声も女も思いのままや」


 アリサが捲し立てる。だけど俺の答えは決まっているからな。


「俺は興味がないから、他を当たってくれよ」


 即答で断ると、アリサは声を立てて笑い出す。


「いや、ホンマ……さすがはアリウスはんやな」


 周りの冒険者たちが注目しているけど、そんなことはお構いなしで。突然『防音サウンドプルーフ』を発動する。

 冒険者ギルドで魔法を使うことは、基本的には禁止だけど。相手を害する魔法じゃなければ、グレイゾーンとして黙認される。


「アリウスはんなら、そう言うと思ってたわ。勝手に魔法を使ったことは堪忍やで。ここからが本音の話や。

 SSS級冒険者なら、金には困らんし。アリウスはんは二枚目やからな。女にも仰山モテるやろう。世界救う英雄なんて言われても、うちかてピンと来いへんし。ということで、うちはアリウスはんを誘うのを諦めるわ」


「ちょっと、アリサ……」


「おい、何を勝手なことを言っているんだ?」


 アリサの仲間たちが止めようとするけど。


「ええから、ここはうちに任せとき。悪いようには、せえへんから。あとな……この話をアベル様にチクッたら。どうなるか、解っとるな?」


 アリサは一睨みで仲間たちを黙らせると、再び俺に向き直る。


「アリウスはんが、勇者パーティーなんてちんけな・・・・器に納まる人やないことは良く解ったわ。うちも魔王を倒して世界を救うとか、眠たいことを本気で信じとる訳やないで。勇者アベル・・・とは、ビジネスとして付き合ってるだけや」


 突然のカミングアウト。仲間たちが動揺しているから、こいつらも初めて聞く話みたいだな。


「アリサ、そんなことを言って良いのか? 口止めしたところで、こいつらがアベルに報告するかも知れないだろう」


「何、そこは心配いらんで。誰を怒らせたら一番怖いか……あんたたちも、良く解っとるやろう?」


 冷徹な笑みを浮かべるアリサに、4人の仲間が青い顔で頷く。

 さっきも簡単に黙らせたけど、こいつらの関係が解った気がするよ。


「なあ、アリウスはん。勇者パーティーの話は抜きにして、うちと手を組まへんか? 絶対に損はさせへんで」


 また突然の話だ。アリサは何を考えているか。ホント、解らない奴だな。


「なんで俺がアリサと手を組む必要があるんだよ?」


「うちはアリウスはんの役に必ず立つ自信があるで。うちの実力は『鑑定』したアリウスはんなら解っとるやろ? 別に『鑑定』したことに、文句を言うつもりはないで。うちもアリウスはんを『鑑定』したから、お互い様やからな」


 勝手に『鑑定』すると敵対行為と捉える奴もいるけど。相手の実力を見定めるのは基本だからな。俺は会った奴全員を『鑑定』しているし。相手が『鑑定』するのも当然だと思う。


「アリウスはんはSSS級冒険者やから、レベルが高いことは解っとったけど。うちが『鑑定』してもレベルすら解らんとはな」


 アリサは別に己惚れているという訳じゃないだろう。

 『鑑定』は自分よりもレベルが低い相手のレベルやステータスを知ることができるスキルだけど。スキルレベルを上げることで、自分よりもレベルが高い相手も『鑑定』できるようになる。


 アリサのレベルはSSS級冒険者でも・・・・・・・・・通用する高さ・・・・・・だし。『鑑定』のスキルレベルも高いからな。『鑑定』すれば、大抵の奴のレベルくらいは解るだろう。


「うちにもアリウスはんの力が必要なんや。強いだけじゃなくて、この世界のことを・・・・・・・・良く解っとる・・・・・・あんたの力がな。

 まあ、要するにうちとアリウスはんは相性バッチリってことや」


 アリサは俺のことをどこまで知っているのか。どこまで本気なのかも解らないけど。


「俺が簡単に了承するとか、アリサも思ってないだろう」


「勿論。今日のところは挨拶だけや。だけどうちは狙った獲物を必ず仕留めるからな」


 アリサは突然席を立つと、俺の方に近づいて来る。

 俺は座ったままだから、視線の高さがちょうど合う。


「まあ、これからガンガンアピールするさかい。アリウスはん、覚悟しておいてや」


 アリサは俺の方に身を乗り出すと。息が掛かるほど近づいて、妖艶な笑みを浮かべる。


「うちは絶対に口説き落とす自信があるで。なにしろ、うちとアリウスはんは□□□□□のよしみやからな」


 途中に口パクだけで、声に出さない部分があったけど。アリサが何て言ったのか、俺は直ぐに解った。


 『同じ転生者』――アリサはそう言ったんだよ。

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