第43-2話:戦いで得られるモノ

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 最難関トップクラスダンジョン『太古の神々の砦』の4階層に出現する魔物は、全身に電流を纏う体長8mの巨大な虎『雷獣ライトニングビースト』。


 空中を高速で駆けて襲い掛かる『雷獣』は、近づくだけで電流によるダメージを与えるし。スパークする鋭い牙と爪は、最難関ダンジョン産の鎧すら簡単に引き裂く。さらには高圧電流のブレスまで放つ厄介な魔物だ。


 だけど今の俺にとっては、『雷獣』の動きは遅過ぎるんだよ。


 俺は音速を超える速度で、群れの中を駆け抜けながら。2本の剣で『雷獣』を次々と仕留めて行く。『絶対防壁アブソリュートシールド』が電流によるダメージを完全に防いでいる。


 俺は階層全体を『索敵サーチ』で捉えて、全ての『雷獣』の位置と動きを常に把握しながら。加速する思考で、コンマ1秒毎に最適解を導き出す。


 最初にソロで攻略を始めた頃は、ダメージを受ける前提で戦って。全方位を囲まれて死ぬ寸前に撤退なんてことを、繰り返していたけど。

 今は1,000体の『雷獣』が同時に攻撃しても、俺がダメージを受けることはない。


 毎日、魂を削るようなギリギリの戦を続けることで。俺は確実に強くなっている。

 思考速度と物理的な速さが格段に上がっているし。魔力操作の精度が上がって、『雷獣』なら魔力を集束して伸ばした刃で、纏めて薙ぎ払うことができる。


 それでも放課後だと時間が足りなくて、攻略済みの一番下の階層までは辿り着けない。 

 最難関ダンジョンは階層ごとに、1,000体以上の魔物が出現するから。1分に10体倒しても、全滅させるまでに100分掛かる。

 さらにHPが膨大でDEFが硬い階層ボスが出現するからな。1つの階層を突破するのに2時間くらい掛かることになる。


 まあ、今の俺は『太古の神々の砦』の浅い階層なら、もっと早く攻略できるけど。

 最近は寮の門限破りが常態化して、俺が寮の部屋に戻るのは午前0時くらいだ。それでダンジョン攻略に使える時間は、どんなに頑張っても8時間が限界だな。


 最難関ダンジョンに、ショートカットできる転移ポイントなんてないし。階層間は『転移阻害アンチテレポート』のせいで『転移魔法テレポート』で移動できない。だから毎日1階層から攻略を始めるから、必然的に時間が掛かる。


 最下層以外に地上に戻る転移ポイントもないから、帰り道にも魔物がリポップするマゾ仕様だけど。

 上の階層に行く転移ポイントはあるから、帰り道で魔物を全滅させる必要がないのが、唯一の救いだな。


※ ※ ※ ※


※三人称視点※


 カーネルの街の衛兵詰所の地下にある牢獄。


 カーネルの街は高難易度ハイクラスダンジョン『ギュネイの大迷宮』が近くにあるから、高レベルな冒険者も多く。牢獄が頑丈なことで有名だ。


 そんな牢獄の中でも、一番奥にある厳重に警備された部屋で。魔導具の手錠と足枷を嵌められて、足を抱えるように蹲っているのは、勇者パーティーのクリス・ブラッドだ。


 クリスはステータスが大幅に向上して、狂戦士化するスキル『勇者の心ブレイブハート』を封じられて。冒険者ギルドで好き勝手に暴れまくった狂犬のようなときとは、まるで別人のようだ。


「完全に牙を抜かれた犬やな。クリス、あんたがアホなことは、解っとったが。まさかここまでアホだったとはな」


 声を掛けられて、クリスが顔を上げると。牢獄の前で、女が嘲るように笑っている。


 年齢は20代半ばくらい。白い髪と金色の瞳に、小動物のような顔立ち。

 身体は小柄で、身長は150cmくらい。真っ赤な爬虫類系の革のローブと纏って、大きな宝石が幾つも付いた首飾りを付けている。


「アリサ、てめえ……おい、俺をここから出せ!」


「そんなん、無理に決まっとるやろ。冒険者ギルドで傷害事件を起こすのは、重罪やからな。死人が出なかっただけ、まだマシやが。あんたは当分、そこから出られんで」


「俺たちは勇者パーティーだぜ。これくらいのことは許される筈だろう!」


 クリスの言葉に、アリサ呆呆れ果てた顔をする。


「ホント、クリスは救いようのないアホやな。この世界で必要とされとるのは勇者様であって、勇者パーティーのうちらやない。だから上手く立ち回らんと、直ぐに捨て駒にされるで。まあ、あんたの場合は今さらやけどな」


「おい、冗談だろう……」


 アリサに冷徹な目を向けられて、クリスは現実を悟る。


「まあ、そうは言っても。クリスもSS級冒険者やからな。アベル様が必要だと思ったら、そのうち牢獄から出してくれるやろ。

 そんなことよりも、うちが訊きたいのはSSS級冒険者のアリウスのことや。同行した兵士の話やと。クリス、あんたはアリウスに瞬殺されたそうやな?」


「いや、そんなことは……アリウスの奴が不意打ちしやがって……」


 クリスの言い訳を、アリサは聞き流す。


 クリスに同行して、牢獄の別部屋な拘束されている兵士から、大よそのことは聞いているし。自分に都合の良いことしか言わないクリスの性格は解っているから、多少でも情報の裏が取れれば良いと思っただけで。


 アリサがクリスに会いに来たのは、別の目的があるからだ。


「クリス、あんたの鎧……アリウスが素手で穴を開けたという話やけど。ホンマか?」


 クリスは冒険者ギルドで拘束されたときに、武器を取り上げられたが。他の装備はそのままの状態だ。

 クリスの鎧は腹と背中の部分が、何かに貫かれたように破壊されている。


「あ、あいつは……本物の化物だぜ。あの後も、俺を散々ボコボコにしやがって……」


 アリウスにやられたときのことを思い出して、クリスは怯えている。『勇者の心』を封じられたクリスは、精神を完全へし折られていた。

 クリスの装備一式は高難易度ダンジョン『竜の王宮』産のマジックアイテムだ。それを素手で破壊するなど、普通なら考えられない。


 アリサはたとえ相手がSSS級冒険者でも、『勇者の心』でステースを底上げしたクリスなら勝てないまでも、多少は相手になると思っていた。

 しかしクリスの現状を見れば、アリウスに瞬殺されたという話は誇張ではないだろう。

(うちも認識を改める必要があるようやな……)


 もう用はないと、アリサは怯えるクリスを放置して牢獄を後にする。


 衛兵詰所の外では、4人の男女がアリサを待っていた。1人を除いて残りの3人は、人間とは違う種族だ。


「クリスの尻拭いをさせられるのは癪やけど。まあ、これも仕事のうちやからな。ほな、みんな行くで」


 アリサたちが次に向かったのは、カーネルの街の冒険者ギルドだ。


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