第42-2(1)話:剣技大会
数日後。俺は学院に行くと、話があるからとエリクに呼び出された。
昼休みにエリクのサロンに向かう。サロンに入ろうとすると、ちょうど1人の生徒が中から出て来るところだった。
短く切った明るい色の髪。身長は180cmくらい。ネクタイの色が赤だから3年生だ。
学院の生徒は学年ごとに、男はネクタイ、女子はリボンの色が違う。1年生が青で、2年生が黄色、3年生が赤だ。
3年生の生徒は擦れ違いざまに、俺を睨みつける。
俺は
「やあ、アリウス。良く来てくれたね」
エリクがいつも爽やかな笑みで迎える。侍女が前の客に出した紅茶のティーカップを、片付けている。
「エリク。ヨルダン公爵の息子と、何の話をしていたんだよ?」
さっきの3年生は、ロナウディア王国三大公爵の1人であるヨルダン公爵の嫡男キース・ヨルダンだ。
「来週、剣技大会があるだろう。昨年の優勝者のキース先輩に、是非参加して欲しいとお願いしていたんだよ」
学院では毎年5月に、3学年合同の剣技開会が開かれる。
スキルも魔法もありで実戦形式で行われるトーナメント戦で。ゲームのときはスペックの高い攻略対処たちが、1年生ながらに活躍して。
3学年合同と言っても、学院の生徒は3年生になると。特に家督を継ぐ予定の貴族の生徒たちは、家の仕事に関わることが増えて。授業を欠席することが多いから、剣技大会に出場するのは1、2年生中心だ。
キース・ヨルダンもゲームのときは、今回の剣技大会イベントに参加していない。
いや、それどころか、キースは『
エリクの2人の侍女が、俺たちの昼飯の準備をする。
藍色の髪のベラと、亜麻色の髪のイーシャ。如何にも仕事ができる女子って感じの2人は、ただの侍女じゃなくて。エリクの護衛を兼ねた懐刀ってところだ。
昼飯の準備を終えても、ベラとイーシャは部屋を出て行かないから。この2人には聞かせても構わないってことだな。
「なあ、エリク。キース・ヨルダンを剣術大会に参加させるのも、ヨルダン公爵を誘き出すための計略の1つなのか?」
「計略と言うほどじゃなくて、只の嫌がらせみたいなモノだけど。ヨルダン公爵が動かざるを得ないように、仕掛けることの1つだよ」
現ヨルダン公爵ビクトル・ヨルダンは、反国王派の貴族の筆頭で。ダンジョン実習で起きた襲撃事件の本当の黒幕だ。
証拠がないから、捕らえることはできなかったけど。今回の事件で処分された貴族たちに金を流していたとか、状況証拠なら揃っていて。王国諜報部もヨルダン公爵が黒幕だと断定している。
だけどロナウディア王国の三大公爵家の1つである大貴族を、証拠もなしに捉えることはできないから。エリクは自分の人脈と諜報部の連中を使って、色々と画策しているところだ。
「アリウスにお願いがあるんだけど。君が剣術大会に参加して、キース先輩に勝ってくれないかな?」
さっきエリクが言っていたけど、キースは前回の剣術大会で優勝している実力者で。成績も学年トップクラス。文武両道のヨルダン公爵の自慢の息子で、将来は反国王派の貴族の中心になると言われている。そんなキースが1年生に敗けたら評判はガタ落ちで、ヨルダン公爵の求心力にも影響が出るだろう。
俺がダンジョン実習で活躍したことは、エリクが噂を広めたから評判になっているけど。ダンジョン実習は学年別に行われるから、俺の評価はあくまでも『1年生にしては凄い』というレベルだ。
学院の授業は
「エリクの狙いは解るけど、俺は剣術大会に出るつもりはないからな」
面倒なことが増えるから、学院でこれ以上目立ちたくないし。SSS級冒険者の俺が剣術大会に出るなんて、反則みたいなものだろう。
「それにエリクがキースに勝った方が、効果があるんじゃないか?」
キースと擦れ違ったときに『
ゲームのエリクは、ここまで強くなかったけど。恋愛脳じゃないリアルのエリクの力は、武力という点でも決して侮れない。
「僕でもキース先輩には勝てるとは思うけど。完膚なきまでに、徹底的に叩きのめして欲しいんだよ。その方がヨルダン公爵が動く可能性が高くなるし。
これは僕が独自に調べた情報だけど、キース先輩自身もダンジョン実習のときの襲撃事件に関わっているからね。遠慮する必要はないよ」
キースが関わった証拠があるなら、それを使ってヨルダン公爵を追い詰めるだろう。だからあくまでも状況証拠だけど、エリクには確信があるんだろう。まあ、他にも何か考えていそうだし。
だけど剣技大会については、俺が出場する必然性をイマイチ感じないんだよな。ヨルダン公爵を追い詰めれば、キースを追い詰めることにもなるし。キースが何か仕掛けて来るとしても、俺が会場にいれば良いだけの話だからな。
「エリクのことだから、もう俺が出場することになっていると思うけど。出場するかどうかは保留だな。今後の状況によって、俺が必要だと判断したら、参加するってことで構わないか?」
「ああ。アリウス、僕はそれで構わないよ」
エリクはいつもの爽やかな笑みで応える。俺が勝手に出場することになっていることは、否定しないんだな。
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