第280話:ジェシカの実家とダンジョン


 みんなの家に順番に年始の挨拶に行って。最後に向かったのは、ジェシカの実家だ。

 ジェシカの両親は元冒険者だけど、ジェシカが生まれる前に引退したらしい。今はオルトワ王国という国のトリニカって街で、薬屋をやっている。


「よう、アリウス君にみんな。ジェシカも久しぶりだな。冒険者なんて自由業みたいもんなんだから、もっと頻繁に帰って来いよ」


「みんな、よく来たわね。ジェシカは念願のアリウス君を、ようやく射止めたんだから。早く子供を作って、見せに来なさいよ」


「ちょ、ちょっと! お母さん、いきなり何を言っているのよ!」


 ジェシカの父親のマークと母親のシャロンは、フレンドリーな人で。ジェシカとも、まるで友だちのように仲が良い。

 みんなとの結婚式で、マークとシャロンに初めて会ったときに。


『アリウス君。君のことはジェシカから聞いているよ。ジェシカは君に初めて会ったときに一目惚れして。君とのことを俺たちにずっと『伝言メッセージ』で相談していたんだ』


『そうよ。だから、ようやくって感じだけど。ジェシカは一途な子で、ずっとアリウス君のことを想って来たから。これからも可愛がってやってね』


 なんて暴露された。


『ちょ、ちょっと! お父さん、お母さん、何を言っているのよ! ア、アリウス……違うから!』」


 ジェシカは今日みたいに真っ赤になって、涙目で2人を睨んでいた。さすがにちょっとジェシカが可哀そうだと思ったけど。まあ、これがジェシカたち親子の関係なんだろう。


 マークとシャロンと一緒に、みんなで昼飯を食べる。ジェシカとみんなは料理を手伝っていたけど。


「グレイさんとセレナさんに憧れて、冒険者になるための練習ばかりしていたジェシカが料理をするなんて。ホント、ジェシカはアリウス君のことが好きなのね」


「だ、だから、お母さん! もう、その話は止めてよ!」


 みんなは苦笑しながら、ジェシカを慰めていた。


「お父さん、お母さん、ちょっと出掛けて来るわ。この家にいたら、また何を言われるか解らないから!」


 食事が終わると、ジェシカがこんなことを言い出した。


「おう。行って来い。アリウス君たちに、トリニカの街を案内してやれよ」


「まあ、何もない小さな街だけど。この街の人はみんな、家族みたいに良い人だから」


 ジェシカと一緒にトリニカの街を歩く。


「ジェシカ、帰って来たんだな。結婚したことはマークとシャロンに聞いたけど、そいつがジェシカの旦那か?」


「皆、綺麗な人たちね。だけどジェシカちゃんも負けてないわよ」


 マークとシャロンが言ったように、行き交う人たちが親しげに声を掛けて来る。

 トリニカは人口2,000人ほどの小さな街だけど。ここまで皆が親しげなのは、マークとシャロンの人柄のせいもあるだろう。


「私が子供の頃に、トリニカの街が魔物の大群に襲撃されたことがあって。元冒険者のうちの両親が率先して戦ったから、皆と仲良くなったのよ。誰一人犠牲者が出なかったのは、そのときに駆けつけてくれたグレイさんとセレナさんのおかげだけど」


 トリニカの街の冒険者ギルドの応援要請に、グレイとセレナは条件も訊かずに駆けつけて。魔物たちを瞬く間に殲滅したそうだ。ジェシカがグレイとセレナに憧れているのは、それが理由らしい。


 みんなとの結婚式のときに。グレイとセレナは再会したマークとシャロンのことを憶えていた。まだ幼い子供だったジェシカのことは憶えていなかったけど。自分たちが救った街がジェシカの故郷だと知って、ちょっと驚いていた。


「ねえ、この街の近くに中難易度ミドルクラスダンジョンがあるんだけど。みんなで行ってみない?」


 年が明けてから、みんなの実家に挨拶回りをしていて。全然ダンジョンに行っていないから、ジェシカはウズウズしているようだな。


 そう言えば、ジェシカとは何度か一緒にダンジョンに行っているけど。他のみんなとは学院のダンジョン実習や、その後にバーンと一緒に学院のダンジョンで訓練したくらいで。エリスとは一度も一緒に行ったことがないな。


「まあ、たまには良いんじゃない」


「アリウス君と一緒にダンジョンに行くなんて久しぶりだね」


 ジェシカの提案に乗って、みんなでダンジョンに向かう。

 俺とジェシカは『収納庫ストレージ』に装備を常に入れてあるけど。他のみんなは持って来ていないから『転移魔法テレポート』で『自由の国フリーランド』の城塞まで取りに行く。


 中難易度ダンジョンに出現する魔物は、1階層が10レベル前後で最下層で100レベル超。今のみんななら、一番レベルが低いノエルとソフィアでも100レベルを超えているから。最下層でも問題ないだろう。


「さあ、ガンガン行くわよ」


 ジェシカが嬉々として魔物を倒していく。ハーフプレートとバスタードというジェシカのスタイルは変わらないけど。SS級冒険者になったジェシカの装備はレベルアップしている。高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』産の剣は切れ味抜群で。中難易度ダンジョン最下層の魔物たちをバターのように切り裂く。


「ジェシカだけ楽しんでいるわね。私だって負けないから」


 今日はミリアも前衛役で。細身の剣で魔物たちを次々と仕留めて行く。ミリアは王国諜報部の主力クラスだからな。中難易度ダンジョンの魔物くらいは余裕だろう。


「『暗黒の渦ダークボルテックス』」


「『時空斬ディメンジョンスラッシュ』」


 後衛役のソフィアとノエルが攻撃魔法を放って、魔物を確実に仕留める。

 戦力的には、俺の出番はなさそうだけど。こういうときは一緒に楽しまないとな。俺はジェシカとミリアと並んで魔物を倒していく。


「じゃあ、私も参加しようかしら」


 エリスはそう言って前に出ると。至近距離からの無詠唱の魔法攻撃で、魔物を一瞬で仕留める。

 エリスは普段戦わないけど。セレナが認めるくらいに才能があって、ときどきセレナに鍛錬をして貰っているし。実はみんなの中で、ジェシカの次にレベルが高いんだよな。

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