第278話:ミリアの故郷


「ここが私が通っていた学校よ。田舎街の学校だから生徒が少なくて、小学校と中学校が一緒の建物だけど。ホント、懐かしいわ」


 俺たちはミリアの故郷であるシュケルの街を散策している。


 ミリアは俺と同じように、子供の頃から転生者であることを自覚していたけど。『恋学コイガク』の主人公ヒロインであるミリアを演じていた。


「子供の頃の知り合いが今の私を見たら、随分変わったって驚くんじゃないかしら」


 そんなことを話していると、フラグが立ったみたいで。


「あれ……もしかして、ミリアじゃない?」


 声を掛けて来たのは、俺たちと同じ年代の女子2人組。淡い色のセミロングの女子と、黒髪ショートの女子だ。


「え……リナとリンダ? 久しぶりね!」


 2人はミリアの中学までの同級生で。ミリアは懐かしそうに話をする。


「私、ミリアのことを誤解していたかも。ミリアって、もっとツンツンした感じだと思っていたけど。ミリアってこんな気さくな人だったのね」


「別に誤解じゃないわよ。昔の私はそんな感じだったから。リナとリンダも嫌な思いをしたかも知れないけど、今さらだけどゴメンね」


 ミリアは再会した同級生と一瞬で打ち解ける。グイグイと相手の懐に飛び込むミリアらしいな。


「それにしても……ミリア、一緒にいる人たちって、どういうメンバーなの?」


 女子5人に男が1人という構成だけなら、友だちの集まりって感じだけど。エリスとソフィアはどう見ても平民には見えないからな。


私たち・・・の夫のアリウスと、アリウスと結婚したみんなよ」


 ミリアが説明するけど。リナとリンダは訳が解らないという顔をしている。


 俺とみんなは派手な結婚式を挙げて、結婚したことを大々的に宣伝したけど。俺たちのことを知っているのは、各国の王族や貴族たちで。

 ロナウディア王国の普通の人にとっては、せいぜい『自由の国フリーランド』という国でそんなことがあったと、噂を聞いたくらいだろう。


「ええっと……つまりミリアは貴族と結婚して。そこにいるのが貴族の旦那さんってこと?」


「まあ、そんなところよ。じゃあ、みんなが待っているから、私はもう行くわ。リナ、リンダ、またね!」


 わざわざ俺たちのことを詳しく説明する必要はないし。ミリアは笑顔で同級生たちと別れる。


「ミリア。同級生と久しぶりに会ったんだから、もう少しゆっくり話をしても良かったんじゃないか?」


「リナとリンダの家は知っているから、また今度会えば良いわよ。それよりも今日はみんなを私の故郷に案内することを優先したいの。私の故郷のことなんて、みんなは興味ないかも知れないけど」


「ミリア、そんなことないわよ。ミリアの子供の頃のこととか、私は凄く興味があるわ」


「そうよ、ミリア。ミリアが学院に入学するまで、どんな風に過ごして来たか、知りたいわよ」


「そうだよ、ミリア。ミリアのうちのパンと御飯も美味しかったし。私は十分楽しんでいるからね」


 ソフィア、エリス、ノエルが応える。みんなは本当に仲が良いからな。


「ミリアって、この街にいるときから冒険者をしていたのよね? 私はそっちに興味があるわ」


 ジェシカは冒険者らしい反応をする。ミリアは学院に入学した後の生活に必要な金を貯めるために、故郷の街で冒険者をしていた。


「SS級冒険者のジェシカに、話をするようなレベルじゃないわよ」


「レベルとか関係ないわ。私も故郷の街で冒険者になったのは、14歳のときだから。ミリアが冒険者としてどう過ごしていたか、興味があるのよ」


 ジェシカの言葉に、俺たちはシュケルの街の冒険者ギルドに行くことにした。

 シュケルの街の周辺には、特に危険な魔物が生息しているという訳じゃないから。この街の冒険者ギルドに、たくさんの冒険者が所属していることはないだろう。


 実際にシュケルの街の冒険者ギルドは、ごく普通の2階建ての建物で。午後のまだ早い時間だからということもあって、数人の冒険者がいるだけだった。


「なんか懐かしい感じね。私の故郷の街の冒険者ギルドも、こんな感じだったわ」


 ジェシカも今ではSS級冒険者だけど。俺と初めて会ったときは、15歳のB級冒険者だった。

 ミリアも学院に入学した頃は、当時のジェシカほどじゃないけど。20レベル台と学院の生徒の中では結構レベルが高い方だったし、装備も整えていたから。シュケルの街にいた頃は、それなりに冒険者として活躍していたんだろう。


「……もしかして、ミリアか? 懐かしいな。俺のことを憶えているか? 何度かパーティーを組んだことがあるウォーレンだ」


 30代の髭面の冒険者が声を掛けて来る。


「ウォーレンさん。勿論、憶えているわよ。パーティーを組んだときは、お世話になったわね」


「いや、ミリアの方こそ。若いのに頑張っていたじゃないか。俺は感心していたんたぜ」


 久しぶりに会った冒険者とも、ミリアは気安く話している。冒険者ギルドの職員たちも、ミリアのことを良く憶えていた。


「ミリアは確か、王都の学院に入学したんだよな。学院を卒業して、また冒険者に戻ったのか?」


 ウォーレンはミリアと一緒にいる俺たちを訝しそうなに見る。俺とジェシカは普通に冒険者に見えるけど。他の3人はとても冒険者には見えないからな。


「いいえ、今は別の仕事をしているわ。今日は実家に挨拶に戻って来たから、みんなにシュケルの街を案内しているところよ」


 だったら俺たちはどういう関係なんだと、ウォーレンは思うだろう。別に隠すようなことじゃないし。ミリアなら上手く説明するだろうと思っていたら。


「そうか。まあ、ミリアも頑張れよ」


 ウォーレンは察しが良いのか、俺たちの関係について訊かなかった。

 『鑑定アプレイズ』したから解るけど。ウォーレンは50レベル台と、一応B級冒険者クラスだから。余計な詮索はしないという冒険者の常識を弁えているんだろう。


「ところで、ウォーレンさん。シュケルの街周辺の最近の様子はどう? うちの両親は特に何も言っていなかったけど」


「まあ、相変わらずだな。ゴブリンやコボルト、獣型の魔物が出るくらいで。そんなに物騒なことは起こっていないぜ。少しばかりゴブリンの動きが活発になってるが」


 まあ、危険な状況が発生しているなら、B級冒険者クラスのウォーレンが暇している筈がないか。

 だけどゴブリンの動きが活発になっているなら、念のために周囲の様子を探っておくとするか。シュケルの街の周りを探るくらいなら、そんなに時間は掛からないし。


「アリウスが行くなら、私も行くわよ」


 俺の反応で察したのか。ジェシカが乗り気だけど。


「いや、ジェシカ。『索敵サーチ』で周囲を探るだけだからな。俺1人で行くよ。何かあったら、そのときは声を掛けるからさ」


 ウォーレンは何の話をしているのか、訳が解らないという反応だけど。みんなは俺が何をしようとしているのか、解っているみたいだな。


 俺は冒険者ギルドを出ると。『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を発動して姿を消す。


 シュケルの街を中心に、周囲を高速移動しながら『索敵』で魔力を探る。

 今の俺の『索敵』の効果範囲は半径10kmくらいあるから、5分ほどで周辺の魔物の存在を全て把握したけど。特に問題になるレベルじゃないな。


 さすがに今の状況で、念のためにとシュケルの街周辺の魔物を掃討したら。ここの冒険者たちの仕事を奪うことになるから、止めておくか。


 俺が冒険者ギルドに戻ると、みんなが俺を待っていて。


「アリウスが何をして来たのか、大体想像がつくわ。私の故郷のことを心配してくれるのは嬉しいけど。アリウスがそこまでなくても良いわよ」


 ミリアがちょっと困った顔をする。他のみんなは俺のやることだから、仕方ないという感じだな。

 まあ、自分でも少しやり過ぎだと思うけど。用心に越したことはないからな。


「あんたたちは……いや、何でもないぜ」


 ウォーレンは何か思うところがあったみたいだけど。結局、最後まで俺たちのことを詮索しなかった。


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