第267話:これからのこと
翌朝。俺はエリクとカサンドラ、バーンに『
詳細については今度会ったときに話すけど。状況だけ伝えておけば、エリクなら必要なことは全部察してくれるだろう。
朝の鍛錬を済ませて、午前中に
フレッドが泊っている宿の部屋で。フレッドとノアとゼスタに、ジョセフ公爵と聖王ビクトルに要求した内容を伝える。
ちなみに今日もミリアが一緒に来ているけど。ミリアは来る前に、他のみんなと何か約束したらしい。内容までは知らないけど。
「ロザリア副団長から、フレッド様の訓練を中止するようにと『
ゼスタは訝しそうな顔をするけど、ノアは当然という顔をしている。それにしてもロザリアは仕事が早いな。
「フレッドたちを守れなかったら、俺がブリスデン聖王国を滅ぼすって言ったんだよ。勿論、俺が消滅させるのはブリスデン聖王国という国の中枢だけで。一般人まで巻き込むつもりはないからな」
ブリスデン聖王国という国が本当に消滅すれば、大きな混乱が起きるし、様々な支障が出るだろう。だけどそれを含めて、ジョセフ公爵と聖王ビクトルには責任を取らせるし。俺も自分がしたことの責任は、自分で取るつもりだ。
「アリウス陛下は、どこまで本気で言っているんですか?」
「俺は全部本気だよ。ブリスデン聖王国が勇者の力を利用しようとしたのは、これで2度目だし。大量の人間を殺そうとしたんだからな。フレッドたちのことがなかったら、ジョセフ公爵と聖王ビクトルを殺して、聖都ブリスタを壊滅させているよ」
ゼスタは俺が戦うところを見たことがないから、こんなことを言っても信じないだろう。だけど俺が本気だということは、伝わったみたいだな。
「まあ、フレッドはこれからの方が大変かも知れないけど」
フレッドが勇者だってことは『RPGの神』によって、広く知られることになるだろう。
ブリスデン聖王国が動きを止めたくらいで、『RPGの神』が諦めるとは思わないからな。他の奴らを使って、フレッドに勇者のスキルを使わせようとするだろう。
ブリスデン聖王国には、他にも勇者の力を利用しようと考える奴がいるし。他の国や東方教会、『奈落』も動く可能性がある。
ジョセフ公爵が約束通りに、フレッドたちを守るとしても。とても安心できる状況じゃないな。
「スケールが大き過ぎて、俺は自分が本当の意味で理解したとは思わないけど。アリウス、大体の状況は解ったよ」
フレッドは真っ直ぐに俺を見ると。
「アリウス、本当にありがとう。俺の方から頼んだとはいえ、ここまでしてくれて」
深く頭を下げる。
「フレッド。そういうのは、まだ早いだろう。むしろフレッドにとっては、敵が増えたようなモノだし。ジョセフたちがどこまで約束を守るか解らないからな」
「いや、そんなことはない。アリウスは俺のために、ブリスデン聖王国を敵に回すようなことをしてくれたんだ。だけど正直に言ってくれ。アリウスの力を疑う訳じゃないけど。こんなことをして、本当に大丈夫なのか?」
この状況で俺のことを心配するなんて。フレッドはやっぱり良い奴だよな。
「まあ、俺にとってブリスデン聖王国は、元々敵みたいなモノだからな。今回は俺の方から喧嘩を売っただけの話だよ。それに俺はフレッドのためだけに、やった訳じゃないからな。勇者アベルのときと同じ失敗を、繰り返したくないって言っただろう」
まだ何もしていないと、勇者アベルを放置したことで。アベルたちが魔族の領域に侵攻することを許して、魔族に犠牲者を出したからな。俺は勇者に関わることで、これ以上犠牲者を出したくないんだよ。
「それでフレッドは、これからどうするつもりだよ? アーチェリー商会に戻って、ブリスデン聖王国で交易商を続けるのが一番だとは思うけど。この前、おまえに約束したように、もっと安全な場所にアーチェリー商会の人間全員を受け入れることもできるからな」
フレッドの家族とアーチェリー商会の人間の利益と安全を、俺は保証すると約束したからな。『自由の国』に受け入れることもできるし。ロナウディア王国とグランブレイド帝国にも、受け入れて貰うための承諾は得ている。
「アリウス。そう言ってくれることは、本当にありがたいけど。家族やアーチェリー商会の人間のことを考えると、できればブリスデン聖王国に残りたいんだ。そのせいでアリウスには、余計な面倒を掛けるかも知れないけど」
フレッドが申し訳けなさそうに言う。確かにフレッドたちを守るだけなら、安全な場所に受け入れた方が守りやすい。
だけどフレッドたちがブリスデン聖王国に残ることは想定済みだからな。
「いや、フレッドがしたいようにして構わない。おまえが協力してくれたお陰で、ブリスデン聖王国が動き出す前に止められた訳だし。ジョセフ公爵と聖王ビクトルには責任を取らせる必要があるから、キッチリ働かせるよ」
ジョセフ公爵たちに丸投げするほど、信用していないから。俺自身も人を使って、フレッドたちアーチェリー商会の周辺を見張ることになるけど。フレッドを狙っている『RPGの神』の動きを探ることにもなるし。情報収集は冒険者の基本だからな。
「あの、アリウス様。とりあえず、フレッド様の件が片づいたってことは、私はアリウス様の国に行って良いんですか?」
このまで様子を窺っていたノアが、タイミングを計って言う。
ノアの実力を買って、『自由の国』に来ないかと誘ったのは俺の方で。ノアは承諾したけど、フレッドの件が片づくまでは教育係を続けて貰っていた。
「そうだな。フレッドはアーチェリー商会に戻る訳だから、教育係を続ける必要はないし。ノアの方に問題がないなら『自由の国』に来てくれよ」
「私の方は全然問題ありませんよ。これで私もアリウス様と……って、ミリアさん。軽い冗談ですって。その笑顔、無茶苦茶怖いんですけど!」
ミリアはニッコリ笑っているけど、目が全然笑っていない。
「ノア、何を言っているのよ。私は貴方のことを歓迎するわ」
ゼスタのことも『自由の国』に誘ったけど。結局、ブリスデン聖王国に残るそうだ。
まあ、ノアもゼスタも貴族だから家との関係があるし。自分だけ『自由の国』に移住する決断をしたノアの方が、貴族としてはめずらしいだろう。
話が纏まったから、そろそろ移動することになって。
「フレッド、おまえはアーチェリー商会の本社があるダグラスの街に行くのか?」
「ああ。俺の両親と兄がいるから、まずはダグラスに向かうつもりだけど。アリウスはアーチェリー商会のことに詳しいんだな」
「俺は新たな勇者になったフレッドについて調べたときに、アーチェリー商会のことも調べて、ダグラスの街に行ったことがあるからな。ダグラスに行くなら『
「いや、『転移魔法』で送るなんて気楽に言うなよ。まあ、アリウスはいつも突然現れるからな。今さらな気もするけど」
「フレッドさんも、アリウスの友だちなんだから。こんなことでイチイチ驚いていたら、身が持たないわよ」
ミリアに言われて、フレッドがちょっと照れ臭そうだ。
フレッドは『
「ノアとゼスタも聖都ブリスタに戻るなら。フレッドの後で良いなら『転移魔法』で送るよ。ノアは聖騎士団を辞めるにしても、手続きとかあるだろう」
ゼスタは聖騎士の自分が、俺の力を借りる訳にはいかないと固辞したけど。ノアのことは送って行くことになった。ゼスタはいつも不真面目なことを言う癖に、実は真面目な奴なんだよな。
俺はフレッドとノアを『転移魔法』で順番に送って。ノアが聖騎士団を脱退したら連絡を貰うために、『
まあ、フレッドのことは、まだ解決した訳じゃないし。これからも色々と、やることがあるけどな。
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