第113話:気まぐれ


「アリウスさん、ジェシカさん。今日はよろしくお願いします。ほら、みんなもキチンと自己紹介して!」


 ラウドの街で出会った初心者冒険者の4人と。俺とジェシカは低難易度ロークラスダンジョン『ガジェッタの大洞窟』に向かっている。


 ショートカット女子の名前はナナイで回復役ヒーラー

 他のメンバーはタンクのロフト。斥候のセラ。魔術士のカイル。一応『鑑定』したけど全員が2から3レベル。F級冒険者だ。


 回復役はそれなりに貴重だから。ナナイがいるなら、前衛でパーティーに入りたいって奴もいるかと思ったけど。


「私が他のパーティーに誘われることはありますけど。私たち4人は同じ村の出身なんです。だから私1人だけってのはちょっと……」


「僕は他のパーティーの人が誘ってくれるなら、ナナイだけでも経験を積んだ方が良いって言ったんですよ」


「ロフト、そんなこと言わないでよ。私は4人一緒が良いって言ってるでしょ!」


 初心者のくせに、仲間を気にする余裕があるのかとか。お友だちゴッコをしながらやれるほど、冒険者は甘くないとか。そんなことを言う奴もいると思うけど。それも含めて、こいつらの選択だからな。


「ナナイたちは、ダンジョンに挑んだことはあるのか?」


「何度か挑戦してみましたけど。その……恥ずかしい話ですが。魔物モンスターの数が多くて、直ぐに逃げ出しました」


 低難易度ダンジョンの1階層でも、普通に3~5体の魔物が出現する。ナナイたちだと火力不足だろう。


「いや、慎重なのは恥ずかしいことじゃないよ。冒険者は生き残ることが第一だからな」


 ギリギリの戦いばかりしてる俺が言うのも何だけど。俺だって生き残るための見極めはしている。


「今の話だと、そんなにダンジョンに行っていないみたいだけど。あんたたちも全く戦闘経験がないって訳じゃないわよね。普段はどうしてるの?」


 ジェシカもナナイたちの実力を見抜いているみたいだな。


「普段は生活費を稼ぐために、採集系の依頼を請けています。依頼の途中で魔物に遭遇することもありますので。それなりに魔物と戦っていますけど」


 単体もしくは数体の魔物を倒してるって程度で。自信を持って言えるほどじゃないってことか。

 ダンジョンよりも野外の方が、逃げやすいってのもあるだろう。


「おまえたちの状況は大体解ったよ。何度も言うようだけど、慎重なのは悪いことじゃないからな。

 とりあえず今日は、俺とジェシカがフォローするから。おまえたちは普段通りの戦い方をしろよ」


 30分ほどで『ガジェッタの大洞窟』に到着する。

 『ガジェッタの大洞窟』は名前の通りに、シンプルな洞窟型のダンジョンだ。

 扉のない自然の洞窟のような階層を歩いていると。突然魔物が出現ポップした。ゴブリンが3体だ。


「ロフト、セラ。行くわよ!」


 ナナイの指示で、魔術士のカイル以外の3人がゴブリンに向かう。

 ナナイたちのメンバー構成だと、回復役のナナイも戦わないと手数が足りない。


 タンクのロフトは重装備だし。HPが高いから壁役としては十分だ。

 斥候のセラは軽装だけど。動きが速いから避けタンクの役割もこなせる。

 ナナイは攻撃も防御も正直イマイチだけど。本来の役割は回復役だから、頑張っている方だろう。


「ナナイ、下がってくれ! 『焔弾ファイヤーボルト』!」


 カイルの魔法が1体のゴブリンを倒すと。ナナイがセラのカバーに回る。

 2人でゴブリンを倒したタイミングで、ロフトも最後の1体を倒した。


「おまえたちの連携は悪くないと思うよ。カイルが魔法を使わなくても勝てたと思うけど。その分、こっちのダメージも少なく済んだからな」


 被害はナナイとロフトが軽く怪我をした程度。ナナイが『回復魔法ヒール』で傷を癒す。

 この程度の傷なら無視する冒険者もいるけど。こういうところも慎重だな。


「次は俺とジェシカも戦うから。ナナイ、おまえが俺たちに指示を出してくれ」


「え……私がですか?」


「前衛が増えたときに、リーダーのおまえがパーティーをどう機能させるか見たいんだよ。俺たちの指示で動いても、意味がないだろう」


 次に出現したのは5体のスケルトンだ。


「アリウスさんとジェシカさんは、1体ずつお願いします。ロフトとセラも行くわよ!」


 相手が5体だからか。ナナイの指示はカイル以外の5人で総攻撃だ。

 俺とジェシカはスケルトンを瞬殺すると。ナナイたちのフォローに入って、残りの3体も倒す。


「2人とも、さすがですね」


「いや、これくらい前衛なら普通だよ。それよりもナナイ。人数が十分にいるときは、回復役のおまえはバックアップに回った方が良い。自分が戦っていると、仲間が怪我したときに直ぐにフォローできないからな」


 俺の言葉に、ナナイは真剣に耳を傾ける。


「戦闘に直接参加しなくても、支援魔法を使えば戦力の上積みができるし。敵の数だけじゃなくて、戦力を見極めないとな。まあ、その辺りは経験を積めば解って来るよ」


 それからもしばらく、俺とジェシカが戦闘に参加した。ナナイは飲み込みが早くて、直ぐに司令塔兼バックアップとして機能するようになる。


 他の3人も自分の頭で考えるタイプだから。俺やジェシカがアドバイスすると、確実に動きが良くなって行く。


「ナナイ、カイル。そろそろMPが切れるだろう。これを飲めよ」


 収納庫ストレージから出したMPポーションを2人に渡す。俺がMP切れになることはないから使わないけど。この世界には普通に存在する。


「え……良いんですか?」


 ナナイとカイルが遠慮している。初心者の金銭感覚だと、MPポーションもそれなりに高価だからな。


「俺は前衛だから滅多に使わないし。死蔵していても意味がないから使ってくれ。その代わり、今日は体力が尽きるまで頑張って貰うからな」


「そうそう。アリウスはスパルタだからね。ナナイ、カイル。遠慮なんてしなくて良いから。さっさと飲んじゃいなさいよ」


 2人が礼を言って、ポーションを飲む。こいつらのMP量ならポーション1本で十分に回復できる。


「でも……どうしてアリウスさんは、私たちに良くしてくれるんですか? アリウスさんもジェシカさんも高レベル冒険者ですよね。初心者の私たちの相手をしたって、何の得もないじゃないですか」


 当然の疑問だな。だけど関わった以上は、できることはやって置きたいんだよ。今日1日でできることなんて、限られるけど。


「ナナイ。心配しなくても、あとで高額請求とかしないからな」


「か、揶揄からかわないでください。私、こう見えて人を見る目はあるんです。アリウスさんは良い人ですよね。ジェシカさんがアリウスさんを物凄く信頼しているのが、端で見ていても解りますから」


 ナナイの言葉に、何故かジェシカが真っ赤になる。いや、ナナイはそういう・・・・意味で言ってないだろう。


「そ、それは、そうだけど……」


 ジェシカ、俺の方をチラチラ見るなよ。


「簡単に人を信用するのは、褒められたモノじゃないからな。俺がナナイたちに構うのは、只の気まぐれだよ」


「確かに、今回はたまたま予定が空いたから。アリウスの気まぐれには違いないと思うけど。アリウスは優しいから、困っている人がいたら放っておけないのよ」


「ジェシカ。それは買い被りだろう。ホント、只の気まぐれだって」


 ジェシカがそんなことを言うから。みんなは俺の言うことを信じていない。

 俺とジェシカを見ながらニマニマするとか。なあ、おまえら。あとで覚えていろよ。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 16歳

レベル:5,531

HP:58,225

MP:88,970


―――――――――――――――――――


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