第110話:動向
午前中の試験が終わって。みんなで昼飯を食べるためにエリクのサロンに集まった。
久しぶりに学食に行ってみたい気もするけど。サロンの方が他の奴に邪魔されないで、ゆっくり話ができる。
「アリウス。私はまだ怒っていますから」
正面の席に座るソフィアが俺を睨んでいる。
「アリウスは強くなることに、集中したいって言いましたけど。本当は私たちを傷つけないために、距離を置こうとしたんですよね。
貴方の気遣いは嬉しいです。だけどそれって、貴方の勝手な思い込みですよ!」
ソフィアがいきなり捲し立てる。
「ソフィアはずっと想いを溜め込んでいたのよ。アリウスがいなくなってから、ずっとね」
エリスがクスリと笑う。
「ソフィア、悪かったよ。だけど強くなることに集中したかったのも本当だからな」
「でも距離を置こうとしたことは認めるんですね」
碧の瞳が問い詰める。今日のソフィアは迫力があるな。
「……ああ、そうだな」
「アリウスは私たちを、見くびっていますよ。アリウスが想いに応えてくれなくても、会いたくないなんて思いませんよ」
「そうよ、アリウス! 私は貴方の隣にいたいって言ったじゃない!」
ミリアが頬を膨らませる。
「私はアリウスに会えない方が嫌なの。それくらい解りなさいよ!」
「そ、そうだよ。ア、アリウス君は全然解ってないんだから……」
ノエルにも言われた。みんなは怒っているみたいだけど。みんなの温かい気持ちが伝わって来る。
みんなを傷つけないためとか。距離を置いた俺が、間違っていたみたいだな。
「みんな、悪かったよ」
「そうよ、アリウス。思いきり反省してよね」
ミリアが思いきり睨んでいる。
「ああ、ミリア。本当に、ごめんな」
俺は素直に反省したけど。
「……ちょっと! そこまで真面目に反応しないでよ……調子が狂うじゃない」
ミリアが顔を赤くして顔を背ける。
「とりあえず、そろそろ食事にしましょう。ジークとサーシャが会話に入れなくて、困っているみたいだから」
エリスの言葉にみんなが視線を向けると。
「よ、よう、アリウス……久しぶりだな」
「ア、アリウス……お久しぶりです」
2人だけ空気が違うのも、ちょっと懐かしく思う。ジークは相変わらず……いや、ちょっと雰囲気が変わったな。
みんなの前に料理が運ばれて来る。だけど俺だけメニューが違った
「アリウスの分は私が作ったのよ。貴方が来るのは解っていたから。アリウス、いっぱい食べてね」
エリスが悪戯っぽく笑う。
「エリス殿下、抜け駆けするなんてズルいですよ!」
「ミリア、ごめんなさいね。だけど情報戦を制するのは戦いの基本よ」
ミリアが思わずうなると。
「あの……アリウス。私も……その……」
ソフィアが顔を赤くして。俺に差し出したのはクッキーだ。
「こんなものしか、用意できなかったんですけど……」
「ソフィアが作ったのか。ありがとう……うん、旨いな」
「そう言って貰えると……嬉しいです」
ソフィアが口元を緩める。
「ソフィアまで……アリウス、今度は私もお弁当を作って来るからね!」
「ア、アリウス君。わ、私もだよ!」
こんな感じで騒がしく始まった昼飯の時間。7ヶ月ぶりだけど、全然違和感なんてなくて。みんなと一緒にいるのが自然な感じだ。
やっぱり俺が考え過ぎていたのか。時間が経って、落ち着いたってのもあるだろう。
「なあ、親友。おまえ、ちょっと変わったよな」
バーンがまじまじと俺を見る。
「そうか? 特に自覚ないけど」
「いや。なんか落ち着いたっていうか。ちょっと大人っぽくなったと思うぜ」
俺はこの7ヶ月間。
5番目の最難関ダンジョン『精霊界の門』まで、ソロで攻略したことの達成感はある。
あとは戦いに集中し続けたことで。かえって自分のことを客観的に見つめ直すことができたってのはあるな。
「バーン、おまえも強くなったよな」
「アリウスの前じゃ自慢にならないけどな。俺も魔力操作って奴が、少し解るようになって来たぜ」
バーンの言葉は謙遜だな。レベルは確実に上がっているし。魔力操作が上達したことも、魔力の動きを見れば解る。
「そう言えば、エリクは俺に話があるんだよな」
「うん。だけどちょっと長くなるから。僕の話は放課後にしないか」
エリクは久しぶりに会ったみんなに、気を遣っているんだろう。
まあ、エリクの話は2人きりで聞いた方が良さそうだしな。
※ ※ ※ ※
「なあ、エリク。学年末の試験だけは絶対に受けろって言ったのは、まだ俺を宰相にすることを諦めていないってことか?
だけど俺を呼び出したいなら。特例で進級できる話を先にした方が良かったんじゃないか」
午後の試験も終わって。俺は再びエリクのサロンに来た。
部屋にいるのは俺とエリクだけだ。
「特例の話を伝えても、アリウスは興味がないと思ったからね、それよりも理由を伝えない方が、君は僕が何か企んでいると考えて。興味を持つと思ったんだよ」
まあ、その通りだけど。俺の思考はエリクに見透かされているってことか。
「あとはアリウスに来て貰った理由だけど。君を宰相にすることは、さすがに僕も諦めたよ。だけど未来は誰にも解らないからね。アリウスが家督を継げる可能性を残しておこうと思っただけで。君を縛りつけるつもりはない。
それに試験のことは、半分は口実みたいなものだからね」
エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべる。
「アリウスをみんなに会わせたかったこともあるけど。一番の理由は、
まあ、予想はしていたけど。勇者アベルがとうとう動き出したからな。
ダンジョンに挑んでいる間も、俺は伝手を使って世界中の情報を集めていた。だから2ヶ月ほど前に、勇者アベル率いるイシュトバル王国軍が、魔族の領域に侵攻したことは知っている。
「だけど、まだ前哨戦って段階だよな。魔族の領域に接した国に、特に被害が出たって話も聞かないし。ロナウディア王国もグランブレイド帝国も、勇者たちの侵攻に関わっていないだろう」
勇者アベルの件は俺も気になっていたからな。アベルたちが侵攻を開始した直後。俺は魔王アラニスに
アラニスの話だと。アベルたちが侵攻したのは、魔族でも血の気の多い武闘派が支配する地域で。アラニスが支配する魔族の国ガーディアルから、離れていることもあって。アラニスはしばらく傍観するそうだ。まあ、魔族も一枚岩じゃないってことだな。
「アリウスは勇者の情報に詳しいみたいだね。話が早くて助かるよ。僕が気になっているのは、周辺諸国の動きだ。勇者たちが侵攻を始めてから、金と兵力がイシュトバル王国に急速に集まっているんだ。
だからもっと本格的に侵攻が始まるのは、そんなに先のことじゃないと思うよ。それにロナウディア王国とグランブレイド帝国も、この件に無関係って訳じゃないからね。両国の貴族の一部が、イシュトバルに金を流しているんだよ」
魔族の領域には豊富な資源が眠っている。その利権を得ることが勇者たちと、彼らに協力する国の本当の目的だ。
「金を出すのも戦争協力になるからね。情報が洩れれば、ロナウディア王国とグランブレイド帝国も勇者と魔王の戦いに巻き込まれる可能性がある。
王国に関しては、すでに手を打ったけど。グランブレイド帝国は旧ドミニク皇太子派の貴族が水面下で動いていて。なかなか尻尾を掴めない状況なんだよ」
カサンドラと結婚したことで。帝国の情報もエリクに筒抜けみたいだな。
「だけどエリク。帝国貴族の件について、俺が役に立てるとは思わないけど。諜報活動に関しては、エリクの方が上手だろう」
「アリウスにお願いしたいのは、君独自の人脈からの情報だよ。僕じゃ絶対に知り合いになれない相手と、アリウスは知り合いじゃないかと思ってね」
魔王アラニスやアリサたちのことを言っているんだろう。エリクがどこまで知っているか解らないけど。それなりには調べがついているってことだな。
「僕はロナウディア王国とグランブレイド帝国を、勇者と魔王の戦いに巻き込みたくないんだよ。戦いに加担しても、利がないどころかマイナスだからね。僕は
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 16歳
レベル:5,483
HP:57,710
MP:88,175
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