第70話:魔王
艶やかな黒髪と漆黒の瞳の美女。魔王アラニス・ジャスティアは興味津々な顔をする。
「その年齢で
ハッタリじゃなければ、アラニスは俺を『鑑定』したってことだな。
まあ、アラニスのレベルは少なくとも俺以上だから。『鑑定』できても不思議じゃない。
「良く言うよ。魔王に覚醒してから大した時間も経っていないのに。俺よりもレベルが高いおまえの方が異常だろう」
魔王が復活したのは半年ほど前だ。半年で今のレベルってことは、魔王は初めからレベルが高いってことか。
「ああ。
アラニス曰く。300年ほど前に勇者によって滅ぼされたと言われる魔王がアラニスで、実は生きていたらしい。
だけどアラニスが言っていることが本当だとしたら、魔王が姿を隠していた理由は何なんだよ?
「単純な話だよ。勇者を殺したから、魔王でいる必要がなくなったんだ。魔王とは
俺の思考を見透かしたように、アラニスは笑う。
300年前の勇者は魔王を滅ぼすと同時に死んだと言われている。だったら相討ちだろうって思っていたけど、そもそも話が違うってことか。
「300年前の戦いで勝ったのが本当は魔王で。勇者は魔王を滅ぼすために現れたって言われているけど、それも逆だってことか」
「そういうことになるね。
確かに今まで聞いていたことと真逆の話だけどな。
「まあ、あんたが言っていることが本当だとしても。俺は勇者と魔王の話なんて興味ないからな」
勝ったのが勇者でも魔王でも、所詮は300年前の話だし。どっちが正義でどっちが悪とかも立場次第で変わるからな。当事者同士の問題点だろう。
「俺にとって重要なのは、これから起きる勇者と魔王の争いに、俺の知り合いが巻き込まれないことだな」
知り合い以外については、巻き込まれた奴をどうするかは状況次第だ。世界を守るとか、俺はそこまで自惚れていないからな。
「あともう1つ重要なことは。アラニス、おまえみたいに強い奴がいるって解ったことだな」
俺がこの世界に転生してから、たった15年しか経っていないんだ。だから俺より強い奴なんて幾らでもいると思っていたけど。やっぱりいたんだな。
「これだから戦闘狂は……」
アラニスは呆れた顔をする。
「いや、すまない。アリウス、私は君に興味があってね。ああ、誤解しないで欲しいんだけど、私が興味があるのは君の強さだからね」
「いや、別に誤解なんてしないって。俺もアラニスの強さに興味があるからな」
「私ほどの美人に興味がないなんて、男としてそれもどうかと思うよ」
アラニスは
「だけどアリウスと私では興味の方向が違うんじゃないかな。私は君だけじゃなくて、世界中の強者を調べているんだ。勇者と戦うときに、私の敵になるか味方になるかという観点からね。
私は自分から争うつもりはないけど。勇者って奴は争い好きな――いや、強欲な生き物だからね。勇者が軍勢を率いて
あとは抗うための戦力は多いに越したことはないからね。『降り掛かる火の粉は徹底的に叩き潰す』という私の志に同調してくれる強者を探しているんだ。
同調してくれた強者の1人が、シュタインヘルトだよ」
ここまでシュタインヘルトは、俺とアラニスの話を黙って聞いていた。全然シュタインヘルトらしくないけどな。
「俺はアラニスに剣を捧げた。勇者の悪意に抗うアラニスの正義と志に惹かれたからだ。俺はアラニスの剣として、さらなる高みを目指す」
シュタインヘルトは自分の力を証明するために戦いを挑んで来る迷惑な奴だけど。正義感は強いからな。
シュタインヘルトが戦いを挑むのは自分よりも強いと言われる奴だけで。弱者のことは身体を張って守る。そういう奴なんだよ。
「だげどアラニスの方がシュタインヘルトよりも明らかに強いよな。なんでアラニスと勝負しないんだよ?」
「無論、俺はアラニスに挑んだ。そしてアラニスが遥か高みにいることを知った。だからアラニスと共に高みを目指すことにしたんだ」
なんだよそれって話だけど。要するにシュタインヘルトはアラニスに懐柔されたってことだろう。
こんな性格のシュタインヘルトを手懐けるとか。アラニスは食えない奴だな。
「アラニス。一応言っておくけど、俺はおまえに同調するつもりはないからな」
「そんなことは解っているよ。アリウスも君の2人の師匠も、戦うことが全ての戦闘狂だからね。勇者と魔王の戦いに関わるつもりはないだろう」
そこまで言われると心外だけど。否定はできないからな。
「俺の知り合いを巻き込んだら、黙っていないけどな。まあ、シュタインヘルトも知り合いには違いないけど。こいつは自分の意志でやっているから関係ないよ」
「シュタインヘルト
「だから解っているって。俺たちに関わらない限りは好きにやれよ。無茶苦茶やるなら、そのときは考えるけどさ」
このとき。俺の『
効果範囲ギリギリの距離だけど。魔力の強さは無視できないレベルだ。
「どうやら、私の部下が無粋な真似をしたようだね――」
アラニスが『
「じゃあ、話も済んだことだし。私たちは退散するよ。アリウス、先に言っておくけど。これから起きることに他意はないからね」
俺の『索敵』に再び反応があった。今度の魔力も大きいけど、さっきの奴らとは明らかに性質が違う。
大きな魔力を持つ存在は急速に近づいて来る。
そして姿を現したのは、青黒い鱗の40m級の巨大なドラゴン――バハムートだ。
バハムートは『
「シュタインヘルトが『
「アラニス、それについては何度も謝っただろう。だが魔法で移動するなど、俺の性に合わないのだから仕方がないだろう」
「シュタインヘルトは全然反省していないね。まあ、そういうところも君の個性だと受け止めているけど」
シュタインヘルトは剣を捧げたって言ったけど。2人の関係は、主君と配下という感じじゃないな。
まあ、そんなことより。俺はバハムートすら従えるアラニスの力の方に興味があるけどな。
「なあ、アラニス。1つ訊いて良いか。おまえは俺の居場所をどうやって知ったんだよ?」
アラニスの『索敵』なら俺よりも効果範囲が広そうだけど。魔族の領域は世界の反対側にあるからな。
SSS級冒険者のアリウスがアリウス・ジルベルトだって情報を掴んでいるのなら解るけど。シュタインヘルトが知っていたのは『俺が王都にいる』って漠然とした情報だったからな。
「できれば手の内は晒しくないんだけど。今回はシュタインヘルトがアリウスに迷惑を掛けたからね。仕方ない、教えてあげるよ。
私は世界中の強者の居場所が解るんだよ。そこまで正確な情報じゃなくて。大きな魔力を持つ者が、大体この辺りにいるというイメージだけどね」
素直に教えてくれるとは思っていなかったけど。アラニスは答えてくれた。
まあ、本当のことかどうかは解らないけど。これなら話の辻褄は合う。
だけど世界中のどこにいても解るとか。チート過ぎる能力だよな。
アラニスとシュタインヘルトは、バハムートに乗って立ち去った。
『認識阻害』を発動していたから、バハムートに気づく奴はそうはいないだろうけど。
王都の近くに巨大な
余計な面倒に巻き込まれたくないからな。俺も『認識阻害』と『
それにしても――やっぱり、俺より強い奴なんて幾らでもいるんだな。
強い奴がたくさんいると思うと、何ていうか……楽しくなって来るよ。
俺も2つ目の
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 15歳
レベル:2,165
HP:22,624
MP:34,554
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