第64話:弱点


 バーンが食事から戻って来たので。転位テレポートポイントでショートカットして5階層に直行する。


「ミリア、MPにまだ余裕はあるか?」


「ええ、とりあえずはね。MPが減ってきたら、帰り道の分を確保した状態でアリウスに教えるわよ」


 鑑定でミリアのMP残量は解っているけど。本人の認識を確認することも重要だからな。


「5階層か。ようやく、歯ごたえのある奴と戦えるぜ」


 バーンは余裕こいているけど。5階層に出現する魔物モンスターは18~20レベルと、それなりに高いんだよ。

 バーンとミリアの方がまだレベルは高いけど、俺たちの人数は3人だからな。

 俺が2人と同レベル帯だとしたら、安全マージンはゼロに近いってところだろう。


「バーン、先に言っておくけど。俺は敵の半分を倒すけど。それ以上のことはしないからな」


 人数割りだと1/3になるけど。ミリアは回復役ヒーラーメインだから、妥当なところだな。


「ああ、アリウス。それだけ倒してくれれば十分だぜ」


 俺とミリアは視線を合わせて頷き合う。バーンが要注意だってことは、ミリアも解っているみたいだな。


 ジャイアントにゴーレムにキメラに、ドラゴン。さらに下の階層に出現する魔物に比べればレベルは低いけど、RPGで強敵と呼ばれるような魔物が次々と出現する。


「うぉぉぉぉ!」


 バーンがファイヤージャイアントを一撃で仕留める。

 バーンは剣のスキルレベルが高いから攻撃力はある。だけど防御力の方は装備の性能とステータス任せだからな。

 ある程度ダメージは防げるけど、確実にHPを削られていく。


 まあ、HPを削られるだけなら、優秀な回復役ヒーラーがいれば何とかなるけど。それでも回復役がミリアじゃなかったら、もうMPがジリ貧だろうな。


「バーン、おまえはもっと回避することを考えて戦えよ」


「アリウス。これくらいのダメージなら、俺には余裕だぜ!」


 ああ。やっはりバーンは何も解ってないな。これは痛い目に合って貰うしかないか。


 しばらく戦闘を繰り返すと。次の玄室に出現した魔物は、バーンとミリアにも見覚がある奴だった。


 銀色の堅い鱗に覆われた翼のある悪魔――シルヴァンデーモン。

 ダンジョン実習のときに1階層に召喚された魔物。それが6体だ。


「バーン、油断するなよ」


 俺は部屋に飛び込むと、3体のシルヴァンデーモンを瞬殺する。


「こいつは魔法を撃たせる前に仕留めれば良いんだろう。『破岩剣ストーンブレイク』!」


 バーンは残り3体の直中に突っ込んでいく。自分が使える最強のスキルを発動して、シルヴァンデーモンに剣を叩き込む。

 魔力を帯びた剣がシルヴァンデーモンの堅い鱗を貫通して、一撃で仕留めた。


 バーンが突っ込んだことで、シルヴァンデーモンの攻撃がバーンに集中する。

 これで範囲攻撃魔法を撃たれても、ミリアを巻き込まないからな。ここまでのバーンの行動は間違いじゃない。


 残りの2体のシルヴァンデーモンが第4界層魔法『氷嵐アイスストーム』を放つ。

 『氷嵐』はそれなりに威力がある魔法だけど。装備とステータスがダメージを軽減するから、バーンのHPなら十分耐えられる。


 だけどバーンの『破岩剣』はタメが必要だからな。連続発動できないんだよ。

 案の定、バーンは次の攻撃で2体目のシルヴァンデーモンを仕留めきれなかった。


 2体のシルヴァンデーモンは、今度は鉤爪でバーンを攻撃する。

 ダメージ的にはそこまでじゃないから、これもバーンなら耐え切れるだろうな。


 バーンもそう思っていたんだろう。攻撃を受けながら、不敵な笑みを浮かべているけど――その笑みが突然凍りついた。


 シルヴァンデーモンの攻撃で1番面倒なのは、実は魔法攻撃じゃなくて。状態異常効果のある鉤爪なんだよ。


 バーンの身体は麻痺して完全に動かなくなった。無防備のバーンに、2体のシルヴァンデーモンが襲い掛かる。


「『輝きの矢シャイニングアロー』!」


 バーンがダメージを与えた1体を、ミリアが放った5本の光の矢が仕留める。もう1体は俺がバスタードソードで片づけた。


「『麻痺解除キュアパラライズ』! 『高治癒ハイヒール』!」


 ミリアは続けざまに魔法を発動して、バーンを回復させる。

 戦闘直後に別の魔物に襲撃されることもあるからな。これが正解だな。


「バーン。シルヴァンデーモンは戦闘が長引くと仲間を召喚するんだよ。麻痺したままなぶり殺しにされることも、めずらしくないからな」


「ああ、助かったぜ。俺としたことがシルヴァンデーモン如きに油断したな」


「いや、バーン。全然解っていないだろう。

今のおまえがシルヴァンデーモンと戦ったら、同じことの繰り返しになるからな」


 ダメージを受けること前提のバーンの戦い方だと、3体以上のシルヴァンデーモンに勝つのは難しいだろう。


「別にシルヴァンデーモンだけの話じゃないからな。もっと弱い魔物でも、状態異常攻撃がある奴が数で来たら、おまえはたぶん負けるよ。たとえば2階層に出現するグールでも、10体以上だと厳しいだろうな」


 グールは6レベルの魔物で。麻痺攻撃をするだけで、攻撃力も防御力も低い。


「おい、アリウス。さすがにそれはないだろう。グールくらい、俺は何体でも倒してみせるぜ」


 ああ。これは重症だな。


「だったら、これから試してみるか。ミリア、悪いけど。今日の攻略はここで終わりにしても構わないか?」


「ええ、良いわよ。バーン殿下とは、このダンジョンをしばらく一緒に攻略することになるのよね」


 バーンとパーティーを組むなら、これはミリアの問題でもあるからな。


「ああ。そういうことだな。じゃあ、2階層に戻るか」


 俺たちはバーンをグールと戦わせるために、2階層に戻って来た。


 だけど2階層に出現する魔物モンスターは最大で6体だからな。モンスターパレードでもやらないと、10体以上のグールを集めることなんてできない。


 だけど俺は世界中のダンジョンを攻略したからな。アンデッドを召喚できるドロップアイテムくらい持っているんだよ。


「これは『死霊の宝玉ゴーストジュエル』って使い捨てのマジックアイテムで。グールからレイスまでのアンデッドモンスターをランダムで召喚できるんだよ。

 レベルが低い魔物の方が多く召喚できるから、グールなら10体は余裕だな」


 こんなアイテムがあるのに2階層に戻った理由は、グールを召喚中に別の魔物に襲われる可能性があるからだ。

 安全を考えれば1階層で召喚した方が良いけど。1階層だと、たまたま学院のダンジョンに来た奴を巻き込む可能性もあるからな。


「じゃあ、召喚するからな――なんだ、ハズレか」


 『死霊の宝玉』が召喚した4体のレイスを俺は瞬殺する。

 その後もワイト、レイス、ワイトと4回連続でハズレを引いたけど。


「よし。今度は当たりだな」


 召喚された16体のグールが一斉に襲い掛かって来る。

 バーンの邪魔をしないように、俺とミリアは結界の中に避難する。


「じゃあ、バーン。頑張って戦ってくれよ」


「ああ。これくらい余裕だぜ――『火焔球ファイヤーボール』!」


 バーンはただの脳筋じゃない。魔法実技の授業でもAクラスに入れるレベルだからな。

 第3界層攻撃魔法がグールの数を減らす。


 それでも11体残ったからな。数としては十分だろう。グールに取り囲まれたバーンは、もう範囲攻撃魔法を使えないからな。


 6体目のグールを倒したところで、バーンは麻痺して動けなくなった。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る