第63話:バーンのやり方


 学院の低難易度ロークラスダンジョン1階層。

 バーンは宣言したように、魔物モンスターを全部1人で片づけた。


 まあ、バーンは28レベルだからな。1階層くらい余裕なのは解っているけど。

 これじゃ連携の確認ができないし。大したダメージじゃないけど、バーンのHPは削られているからな。


「バーン殿下。回復魔法を使いますから、待ってください」


「ミリア、こんなものは掠り傷だ。回復魔法なんて必要ないぜ」


「『治癒ヒール』! 殿下、失礼しました。あとで本当に回復が必要なかったと解りましたら、そのときに文句を言ってくださいね」


 ミリアは有無を言わせずに魔法を使ったな。

 まあ、ミリアのMPにはまだ余裕があるし。俺たちは人数が少ないんだから、万全の状態で次の階層に行くのが正解だな。


 2階層に出現するのは6~8レベルの魔物だ。学院のダンジョンは10階層で一気に魔物のレベルが上がるからな。それまでは階層が変わっても、魔物のレベルに大きな差はないんだよ。


 だけど8レベルの魔物になると、威力は弱いけど範囲攻撃をするようになるからな。HPを削られる頻度が増えるし、後衛にもダメージが出やすくなる。


「ここからは俺とバーンが前衛。ミリアは回復役ヒーラーメインで、状況に応じて剣と攻撃魔法を使ってくれよ」


「アリウス、了解だ」


「うん。解ったわ」


 ミリアにも戦う機会を作るけど。臨機応変に対応することも、ダンジョンで生き残るためには必要だからな。

 俺はベルトに差していたジェシカに貰ったバスタードソードを抜く。


「アリウスがバスタードソード? どういう風の吹き回しだよ」


 バーンが早速突っ込んで来たな。


「俺はバスタードソードを使ったことがないからな。今回、使い勝手を試すつもりなんだよ。まあ、本当にヤバいときはいつもの剣を使うけどな」


 学院のダンジョンだからと、タカを括るつもりはないよ。

 ダンジョンの中は人目に付きにくいし、隠れる場所が沢山あるからな。ダンジョン実習のときのように、犯罪者に襲われる可能性だってあるんだよ。


 バスタードソードを片手で使うときは、逆の手に小型の盾を持つのが基本だからな。とりあえず俺も収納庫ストレージから盾を出す。


 盾を使うのは冒険者になる前に、グレイとセレナに魔物狩りをさせられたとき以来だな。初めの頃は剣と盾のシンプルなスタイルも試したんだよ。


 まあ、学院のダンジョンだとバスタードソードの使い勝手を試すと言っても。片手で使おうが両手で使おうが、全部オーバーキルだけどな。

 それでも片手と両手で使った場合の可動域の違いを確認したり。威力の違いは自分を鑑定して確認する。


 俺が魔物を倒し過ぎないように調整しながら、4階層まで攻略した。

 バーンは下の階層に進む度に、HPを削られる頻度と量が確実に増えている。

 まあ、バーン本人が全然気にしていないことが1番の問題だけどな。


「とりあえず、そろそろ昼だからな。飯を食べに、いったん外に出るか」


 最難関トップクラス以外のダンジョンは、転位ポイントでショートカットできるからな。まあ、最難関ダンジョンが異常に厳しいんだけど。


 地上に戻ると、バーンの護衛のジャンとガトウが待っていた。


「なあ、バーン。ミリアが弁当を作ってくれたんだよ。ミリア、バーンの分もあるんだろう?」


「え……ええ、勿論よ。バーン殿下、お弁当を作り過ぎてしまいまして。よろしければ如何ですか?」


 バーンは俺とミリアの顔を交互に見る。


「ミリア、せっかくだけど悪いな。俺はこいつらと飯を食べに行く約束をしているんだ。アリウス、1時間くらいで戻るからな」


 バーンは俺の肩を叩いてニヤリと笑うと、ジャンとガトウを連れて街の方に歩いていく。


「まあ、約束があるなら仕方ないよな。ミリア、俺たちだけで食べるか」


「うん。そうよね、仕方ないわよ」


 何故かミリアが嬉しそうな気がするんだけど。


 レジャーシートのように地面に布を広げて、その上に座る。

 ミリアが収納庫ストレージから出したのは大きなバスケットで――ミリアも空間属性魔法の収納庫が使えるんだよな。使えた方が何かと便利だからって、学院に入る前に習得したそうだ。


 バスケットの中には色々な具を挟んだサンドイッチと、唐揚げに卵焼きと果物がギッシリと詰まっている。


「アリウスなら、いっぱい食べると思ったけど。ちょっと多過ぎるわよね」


「いや、バーンの分も考えたら全然多くないだろう……うん、旨い! ミリアは料理が上手いんだな」


「本当! そう言ってくれると、嬉しいわよ。アリウス、沢山食べてね!」


 水筒から2人分のカップにお茶を注ぐ。ミリアは本当に嬉しそうだな。


「ああ。これだけ旨いなら、いくらでも食べられるよ」


 ミリアは多過ぎるって言ったけど。これくらいの量は余裕だからな。むしろ、バーンがいたら足りなかったんじゃないのか。


「ミリア、旨かったよ。ごちそうさま」


 弁当を全部平らげて、ミリアに再びお茶を注いで貰う。


「本当に全部食べてくれたのね。これだけ食べてくれると、作った甲斐があるわ」


 それから2人で他愛のない話をした。

 今度の試験のこととか。俺が授業をサボり捲っていることを、ミリアに文句を言われたりとか。


「この前ノエルとも同じような話をしたな」


「ノエルって、アリウスがたまに話題に出すけど。アリウスの友だちなのよね?」


 みんなとノエルはあまり接点がないんだよな。ソフィアの取り巻きと学食で揉めたことを、ソフィアがノエルに謝ったくらいか。


「ああ。ノエルとはお互い図書室に良く行くから知り合いになって。俺が学院に入って初めて友だちになったのがノエルなんだよ。良い奴だからみんなにも紹介したいけど。ノエルは人見知りだからな」


「もしかして、少し前にアリウスが図書室で勉強を教えていた子がノエルなの?」


 ああ、そう言えば。ミリアと初めて会ったとき、俺はノエルと一緒に図書室にいたんだよな。


「でも……そうか。あの子・・・はアリウスの友だち・・・だったんだ」


 ミリアが『友だち』という言葉を強調して、何故かちょっと嬉しそうだ。


「ねえ、アリウス。アリウスの友だちなら、私もノエルと友だちになりたいわ。今度会わせてくれない?」


「だけどミリアがいつもの調子で行くと、ノエルは引くと思うよ」


「ああ、ノエルは人見知りなのよね。でも大丈夫よ。私だって相手に合わせることくらいできるわ」


 まあ、ミリアが良い奴なのは解っているし。ミリアが相手の懐へ躊躇ためらわずに飛び込むのは、相手と本音で話すためだからな。


「そうだな。ノエルに訊いてみるよ。ミリアならノエルと友だちになれそうだしな」


「うん。アリウス、良い返事を楽しみにしてるわ」


 ノエルにもみんなと仲良くなって欲しいからな。

 こういうとき、ミリアがいると助かるよな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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