第35話:言い訳はしない


「ねえ……エリク殿下にアリウス。さっきの魔物モンスターとか、仮面の人たちのこととか。そろそろキチンと説明してくれない?」


 ミリアが俺を睨んで、他のみんなも注目している。だけど今回の件は俺は手を貸しただけだからな。


「なあ、エリク。おまえが説明した方が良いんじゃないのか?」


「うん、そうだね。みんな、先延ばしにして悪かったね。仮面の彼らは『掃除屋スイーパー』と呼ばれる殺し屋で、1階層で襲って来たデーモンも掃除屋が召喚したんだよ。彼らを雇ったのは反国王派の貴族、目的は僕たちを殺すことだ」


 エリクはいつもの爽やかな笑みを浮かべて説明を始めた。

 反国王派の貴族が学院関係者と頻繁に接触しており、同じタイミングで高レベルの掃除屋が何人も王都に潜入したこと。学院関係者の手引きにより掃除屋が学院のダンジョンに侵入したこと。


 反国王派の貴族の中には、エリクとジークを始末したいと思っている奴らがいる。後継者である第1王子と第2王子がいなくなれば王家の求心力は衰えるし、他の王位継承権を持つ者に国王になるチャンスが巡って来る。


 エリクとジークの婚約者であるソフィアとサーシャ、そして王国宰相の息子である俺を始末することも王家の弱体化に繋がる。

 将来の王家を支える者たちを失い、王家と3つの大貴族の繋がりを断つことになるからだ。


「王家と王家に纏わる僕たち5人を同時に殺すことができるチャンスだから、今回のダンジョン実習で仕掛けて来ることは容易に想像できた。

 だから他の生徒を巻き込まないためと守りやすいという理由から、僕たち5人を同じグループにして、引率の教師の中に護衛を紛れ込ませておいたんだよ」


 バーンとマルスまで同じグループにしたのは、2人を巻き添えにして殺すことで王家に責任を負わせようとする可能性を考えたからだ。

 一緒に行動することで狙われる可能性は高まるけど、守りやすくもなる。


 ミリアについては彼女自身が狙われる可能性は低いけど、結局同じグループにしたのは人質にされる可能性を考えたからだ。


「状況は理解しましたけど、だったらどうして先に教えてくれなかったんですか?」


 ミリアが納得できない顔をする。事前に知っていれば自分たちにも対処の仕方があったって言いたそうだな。


「エリク殿下、私もミリアと同じ意見です。殿下とアリウスは襲撃を予測していたんですよね。その上で黙っていたのには何か理由があるんですか?」


 ソフィアは真っ直ぐに俺とエリクを見る。真意が知りたいってところだな。


「俺もその辺を訊きてえな。巻き添えにされる可能性があったのに、何も知らされてなかったんだからな」


「兄貴、俺にも教えてくれないか。兄貴はいつも誰にも相談しないで決めるし、それは全部背負う覚悟があるからだってことは解っているつもりだ。だけど今回ばかりは理由くらい説明してくれても良いだろう」


 バーンとジークもエリクに迫る。


「私は難しいことは解りませんが……エリク殿下が全部承知の上でジーク殿下を危険に晒したのなら……許せません!」


 不敬なことは覚悟の上でサーシャがエリクを睨む。その肩をミリアとソフィアが支える。

 答えを待っているみんなに、エリクはいつもと変わらない爽やかな笑顔で応える。


「みんなに黙っていたことは申し訳ないけど、理由は簡単だよ。君たちに教えたら警戒するだろう。

 君たちが警戒した態度を取れば、相手も警戒して襲撃を中止する可能性があったからね。僕としては危険な芽を確実に摘んでおきたかったんだよ」


「それって……私たちが信用できないってことですか?」


「いや、そうじゃなくてね。みんなは僕みたいに性格が悪くないから、態度があからさまに変わるだろう。

 それだけで相手が警戒するには十分だからね。だけど敵を誘い出すためにみんなを餌として使ったことは事実だからね。そこは謝るしかないかな」


 エリクは言葉を飾らずに非を認める。だけど決して悪びれることはなく、自分のしたことを後悔していないって感じだ。


「だけどよ、それって結局エリク殿下がアリウスだけは信用して話したってことには変わりねえだろう。アリウスだけが事前に知ってたんだからな」


「バーン殿下、それは誤解だよ。僕はアリウスにも何も話していない。アリウスは王国宰相である彼の父親からの情報で独自に動いていたんだよ」


「ああ。俺もエリクが動いていることには気づいてたけどな。別に協調して動いた訳じゃない」


 俺1人ならもっと上手くやった自信はある。だけど今回の件は俺だけの問題じゃないからな。


「あと、こう言っては何だけど。ジークとマルス卿には文句を言われたくないかな。ジークもロナウディア王国の王族なんだから、やろうと思えば僕と同じことができた筈だ。

 それにマルス卿は僕と同じように情報を掴んでいながら、相手の実力を見誤って上手く対処できなかったんだからね」


 エリクの言葉に、みんなの視線がマルスに集まる。


「いや……教会の情報網はそこまで確実なものじゃないんだ。それにボクが動かせる戦力は、エリク殿下ほどじゃないしね……」


 言い訳じみた台詞を吐きながら、マルスは悔しそうな顔をする。今回のことでマルスはエリクとの実力差を見せつけられたようなものだからな。


「俺は……兄貴みたいには……」


「できるかできないかという話じゃないんだ。王家としての務めだからね。僕に説明を求める前に、ジークは自分で考えて行動すべきだと思うよ」


 突き放すような言い方にも、どこか優しさを感じる。

 みんなはまだ納得していないみたいだけど、エリクは理解を求めている訳じゃない。

 質問されたから答えただけで、誰に何と言われようが自分のやり方を変えるつもりはない。


「とりあえず、そろそろ戻ろうか。まだやることが残っているからね」


 1階層に潜んでいた奴らを、残った連中で片づけたか確認する必要があるし、捕らえた掃除屋から情報を引き出す必要もある。

 犯罪者から得た情報がどこまで証拠として役に立つのか、そういう問題もある。

 まあ、その辺はエリクのお手並み拝見というところだな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

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