1章 冒険者アリウス
第1話:乙女ゲーの世界なんて興味ないから
俺は乙女ゲー『恋愛魔法学院』、通称『
攻略対象の1人、ロナウディア王国宰相の息子アリウス・ジルベルトとしてだ。
だけどさ、乙女ゲーなんて興味ないんだよ。『恋学』だけは幼馴染に無理矢理付き合わされて全ルートクリアしたけど、恋愛のことしか頭にない連中なんて理解できないからな。
それでもダンジョン攻略イベントだけは楽しめたな。『恋学』の舞台はタイトルに『魔法』とあるようにファンタジー世界だから、魔法やモンスターやダンジョンが普通に存在する。幼馴染みに聞いた話だと、オーソドックス過ぎて没になったRPGのシステムと設定を流用しているそうだ。
だから『恋学』のキャラには乙女ゲーに関係ないHPやSTRなどのステータスとレベルが設定されていて、イベントでモンスターを倒すと普通にレベルが上がる。レベルアップしてもゲームの攻略には一切関係ないけどな。
でも……そうか。乙女ゲーの世界に転生したからって、恋愛脳の奴らに付き合う必要なんてない。普通にRPGの世界として楽しめば良いんだよな。
『恋学』の攻略対象は無駄にスペックが高いからな。せっかく異世界に転生したんだし、最強を目指してみるか。
生まれたばかりの
魔力で負荷を掛けることで身体を鍛える。魔力も使うことで増えるから一石二鳥だ。
赤ん坊が身体を鍛えてどうするんだって話だけど、鍛えれば成長が早くなると思ったんだよ。結果はその通りで、俺が歩けるようになるまでにそれほど時間は掛からなかった。
「あの……剣術と魔法を教えて欲しいんだけど」
3ヶ月で歩けるようになり、いきなり喋り出した俺に両親は唖然とした。
だけど化物扱いされることもなく、うちの子は天才だと喜んで望むままに何でも教えてくれた……完全に親馬鹿だよな。
父親である王国宰相ダリウスも母親のレイアもアリウスの親らしくハイスペックで、解りやすく教えてくれるから、剣術と魔法の基礎は直ぐに身に着いた。
力試しをするために両親がいないタイミングで家を抜け出す。俺は魔力を感じることができるから、
森の中で見つけたのは猪の魔物ワイルドボアだ。突進して来るワイルドボアに、俺は冷静に『
直径20cmほどの炎の塊はワイルドボアに直撃すると爆発して、灼熱の炎が魔物を焼き尽くした。
なんか呆気なく勝てたけど、それだけ
最初の獲物に獣型の魔物を選んだ理由は、人型を殺すより罪悪感が少ないからで。『火焔球』を使ったのは、消し炭にしないと赤ん坊には死体の処理が難しいからだ。
それからも俺は度々家を抜け出して、鍛練の成果を試した。
剣術については最初のうちは身体の成長が追いつかないから、イメージトレーニングで理に適った動きを憶えた。理屈を理解したから身体が成長すれば上達するのは早かった。
魔法の方は特に苦労することはなかったな。魔力操作で魔力を増やしながら手当たり次第に魔法を憶えて、5歳になる頃には第5界層魔法まで一通り使えるようになった。
『恋学』のイベントで使った魔法はせいぜい第4界層までだから、すでに
だけど比較対象が両親しかいないからイマイチ良く解らない。ダリウスもレイアも第5界層魔法なんて余裕で使えるからな。
まあ、俺の能力を両親は認めてくれたらしく、剣と魔法を教える家庭教師を雇ってくれることになった。スペック的には両親でも俺に教えられるけど、王国宰相と宰相夫人は多忙だから時間的に制約があるからな。
「なあ、ダリウス。おまえたちは子供ができたら親馬鹿になると思っていたが……まさかこれほどとはな」
顎髭を生やした20代後半の
「全くよ。自分の子供が天才だなんて良く言えたモノね。その上、私たちに家庭教師をしろだなんて舐めてるでしょ」
女の方は黒髪に黒い瞳のミステリアスな感じの美人で、20代半ばくらいに見える。高級そうな赤いローブを纏っていて、如何にも魔術士って感じだな。
「グレイもセレナもそんなこと言うなよ。まあ、俺が親馬鹿なことは認めるけどな」
「そうね。私も自分が親馬鹿だって自覚はあるわ。だけどアリウスが天才なのは本当のことよ」
ちなみに父親のダリウスは銀髪碧眼の
「レイアまで……まあ、良いわ。今日くらい昔のよしみで2人の親馬鹿に付き合ってあげるわよ。王国宰相なんて堅苦しい仕事に就いてるダリウスは可哀そうだし。レイアも社交界の付き合いにウンザリしてるでしょうから」
「そうだな。子供ができちまったら、昔みたいに一緒に冒険に行こうなんて誘っても無理だからな。子供の自慢話くらいは聞いてやるよ」
なるほど、4人は昔からの知り合いなのか。それにしても両親が元冒険者だなんて知らなかったな。今度、詳しく訊いてみるか。
「ふーん……随分と好き勝手に言ってくれるわね。だけどアリウスの実力を見た後も同じことが言えるかしら。ねえ、アリウス。2人に貴方の魔法を見せてあげて」
「はい、母様」
魔法を発動すると、放電現象を起こす光球が出現する。
「嘘……第5界層複合属性魔法の『
「セレナ、それくらい貴方なら解るわよね」
レイアは勝ち誇るような笑みを浮かべる。やっぱり親馬鹿だよな。
それにしても無詠唱はめずらしいのか。両親も無詠唱で魔法を発動するし、俺も初めからできたから普通だと思ってたよ。
「アリウス、次は剣術だ」
「父様、解りました」
『雷光』を消すと、今度は子供用の剣を抜く。今の俺は5歳だけど魔力で鍛えることで成長が促進されたから身長は120cmを超えているし、筋力も付いたから子供用の剣なら普通に振れる。
『
「準備ができたみたいだな。アリウス、掛かって来いよ」
グレイはニヤリと不敵に笑う。
「はい。お願いします」
俺は片手剣スキル『
足元は一番避け難い場所だし、魔法で強化したパワーとスピードは大抵の大人に負けない。だけどグレイは軽々と受けて俺を弾き飛ばした。
「へえー、結構やるじゃねえか。狙いも悪くねえが、馬鹿正直に正面から仕掛けるなよ」
俺は素早く飛び回りながら、不規則な動きで何度も攻撃を仕掛ける。使えるスキルも全て試した。だけどグレイは全部余裕で受けて、最後は俺を床に捻じ伏せる。
「ちょっと、グレイ! 子供相手に何をするのよ!」
怒りのままにレイアが発動した『雷光』は、俺が発動したモノの数倍の大きさだった。物凄い勢いで放電してるし、こんなのが直撃したら即死するな。
「おい。レイア、落ち着けって! アリウスに怪我なんてさせてねえからな。それにしても……本当に5歳かよ。アリウス、気に入ったぜ」
グレイは豪快に笑いながら俺に手を差し伸べる。
「なあ、レイア、ダリウス。馬鹿にして悪かったな。アリウスの家庭教師の話、俺は引き受けるぜ」
「私も……アリウス、貴方のことを信じなくてごめんなさいね。お詫びに私の技術の全てを教えてあげるわ」
こうしてとグレイとセレナが俺の家庭教師になった。
2人が世界屈指の冒険者だと知ったのは後の話だけどな。
※ ※ ※ ※
アリウス・ジルベルト 5歳
レベル:25
HP:255
MP:455
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