第23話 DIY

「あー。木材が余っているな……」

 俺は日曜大工ができる。いや、DIYができる。

 DIYとはDo It Yourselfドゥ イット ユアセルフの略語で、「自分でやれ」の意味である。

 自分で木材とネジを使い本棚を組み立てる。

 そのくらいは俺でもできる。

「わたし、手伝おうか?」

 一瞬躊躇ためらう。

 美羽に危険な目に遭わせるわけにはいかない。だが、彼女の気持ちを尊重するべきなのだろうか?

「分かった。手伝ってくれ」

 美羽の気持ちを尊重することにした。

 木材の大きさを測り、方眼紙に設計図を書き起こしていく。測るのは美羽と一緒に、メジャーを使って行う。

「こっち?」

「ああ。そっちを端に合わせてくれ」

「ん。分かった」

 美羽がいることでかなり簡単に測ることができた。

 木材の下には新聞紙を広げ、木材を乗せる椅子をセットする。

 設計図ができると、木材にペン入れをし、のこぎりで木材を切り出す。

 引いて押して。

「わたしもやりたい!」

「やってみるといい」

 俺はのこぎりを渡すとおぼつかない手足でのこぎりを動かす。

「前後に引いて押して、を繰り返すんだ」

「ん。分かった」

 美羽が言われた通りに動かすと、木材がどんどんと切れていく。

 さすが美羽。言葉を実際の動きに反映させるのは難しい。だが、美羽なら難なくクリアしてしまうのだ。

 さすが完璧美少女、美羽。

 ギーコーギーコーと音を立てて木材が割れる。

「おぅ。これでいい? 大輝」

「ああ。ありがとな」

 俺は美羽の頭に手を乗せて撫でる。

 嬉しそうに目を細め、だらしない笑みを浮かべる美羽。

 次いでキリで穴を空ける場所にアタリをつけていく。

 電動ドリルで穴を空けると、そこにネジを差し込んでいく。

「わたしもやる」

「気をつけろよ」

 美羽も見よう見まねでやってみるが、これが精度がいい。まるで慣れた人の腕前だ。

「さすが美羽、なんでもできてしまうんだな」

「そんなことないよ。あ! 曲がった!?」

 照れくさくなった美羽が目を離した隙にネジ穴がずれる。

「大丈夫だ。そのくらい」

 ネジを斜めに入れることになるが、幸いにも貫通はしていないし、他の場所に干渉する様子もない。

「ようし。あと少しでできる」

「けっこう簡単だね」

「材料さえあればいくらでもできるからな」

 箱のような木材をネジ止めしていく。

 工具が二つあったので、美羽も反対側からしめていく。

 できあがると、美羽は満足した様子で俺に甘えてくる。

「うまくできたよ~♪」

「そうだな。これで新刊を入れられる」

「またラノベが増えるんだ……」

 意味ありげな視線を向けてくる美羽。

「な、なんだよ……?」

「だってラノベまだ全部読めていないじゃない」

「あー。それなー。読むペースよりも買うペースが速いからどんどんたまっていくんだ。そろそろ読まないといけないのは分かっているけど……」

 俺は困ったように頭を掻く。

「まあ、書くのも好きだものね」

「ああ。そっちの趣味も捨てたくないんだ」

「ふーん」

 また意味ありげに呟く美羽。

「その時間とお金をわたしに使ってもいいのよ?」

「ふ。そんなことをしたら美羽をもっと甘やかしてしまう」

 不適な笑みを浮かべ、俺は美羽による。

「もう。だから大輝が大好き」

 そう言って抱きしめ合う俺たち。

 机に置いた電動ドリルが落ちる。

 どんっと音が鳴るとネコのチャオが、みゃーとなき猛ダッシュする。

「あ! まった!」

 先ほどのこぎりで切った後の新聞紙の上をチャオが行く。

 そこには切り崩した木材の粉塵が積もっており、チャオが行くことで舞い上がる。

 ケホケホと咳払いをし、粉塵まみれになった俺と美羽、そしてチャオ。

「まったく……」

 俺は掃除機を用意し、美羽が新聞紙をまとめる。

「なんだか、すごいことになったね」

 一通り片付けが終わると美羽は笑みを浮かべながらチャオを捕まえる。

 チャオもまた粉塵まみれなのだ。

 俺と美羽はパンパンとはたくだけで落ちたが、チャオはそうはいかない。

 お風呂場で軽く洗うと、俺はその身体をタオルで拭く。

「もう。こんなことするなよ」

 にゃー。

「分かっているのか。まあしょうがない奴だ」

 俺はガラス細工を扱うように優しい手つきで身体を拭くと、チャオは爪とぎを始める。

「むぅ。わたしにはなついてくれないのに……」

「まあ、一緒には暮らしていないからな」

「じゃあ、今夜は泊まる」

 驚きの言葉を聞いて俺はひゅっと息を呑む。

「エッチィことはなしね!」

「お、おう!」

 そこまで期待はしていなかったけど。

 でも美羽が安心して俺と付き合ってくれているのがひしひしと伝わってくる。

 まるで熟練夫婦みたいな感じがして少し嬉しいのだ。

 こうして美羽の泊まりが決まると、俺はDIYの木片を片付け始める。

 今度は何を作ろうか。

 本棚は箱組なので簡単に作れるが、もっと高度なものに挑戦するのもありかもしれない。

 でも残った木材で何が出来るか?

「うーん」

「どうしたの?」

「いや、木材で他に何が出来るかな? って思って」

「そうね。でもどうだろう?」

 美羽は木片を見て呟く。

「こんな小さな破片で何ができるの?」

「あー。木材がちっちゃいから、何ができるか、分からないなー」

 俺と美羽は悩み出すと、スマホで少し調べてみる。

「木材、破片、と」

 《木材 破片》で検索ワードを入力。検索を押すと《捨てるの待った!》という一文がみえる。

 鍋敷き、スパイスラック、キッチンラック、小さな棚といったものが作れると分かると、俺と美羽は二人して顔を見合わせる。

「じゃあ、どっちが面白いDIYができるか、勝負しよ!」

「なるほど。面白いじゃないか」

 負けず嫌いな美羽らしい。

「勝ったら、このあめ玉をプレゼント!」

 美羽はポケットから虹色の包装紙に包まれたあめ玉を取り出す。

「おお。それはラッキー☆キャンディー。伝説の宝くじ当たったとされる……!」

「そう! これをなめればその日の運勢は最強!」

「まあ、今日は残り9時間ほどだけど……」

 今は午後三時くらいだし。

 しかし、ラッキー☆キャンディーはその入手困難さからレア度の高いお菓子だ。三日三晩並んでようやく買えるという伝説があるほどだ。

「ええと。ほら、明日なめてもいいんだし……!」

「それもそうだな。じゃあ、始めるか!」

 俺は木片を集め、思案する。

 何を組み立てるのか。

 それを考えて方眼紙に設計図を書き写していく。

 いける。

 これなら美羽も驚くものができる……はず。たぶん。

 何やら美羽は設計図もなしにくみ上げていく。

 いやいや、あれでは作ることなんてできないだろう。

 勝ったな。この勝負。

 ふふと笑みを漏らす俺。

「どったの? なんで笑うの?」

「設計図、ないじゃないか」

「ん。頭の中でできた」

「え……!」

「……え?」

 これには驚いた。美羽は自分の頭の中で設計図を書き終えているらしい。

「でも中学の時の図工、技術の授業を思い出すよ」

「ああ。でもあのときはなぜか設計図が合わなかったんだよな……」

「何をミスったの?」

「なぜか本棚の右と左の線がくっつかなかった。一ミリのずれがあったんだよな」

 あのときのことは今でも忘れない。設計図だけで何時間もかかった。

 そんなことを思いながら目の前にある設計図を参考に作る。

 しばらく経ったあと。

「「できた!」」

 ほぼ同時にできて、俺と美羽はハッと顔を見合わせる。

「俺が作ったのはスパイスラックだ。美羽が欲しいって言っていたからな」

「ん。わたしはブックスタンド。大輝がラノベ好きだからね」

 お互いを思った結果、できあがった作品だった。

 どちらもダークブラウンとブラウンのコントラストが綺麗で飾りたくなる。

「引き分けかな」

「そうか? 美羽の方がいいだろ」

「えー。そんなこと言ったら大輝の方が素敵だよ」

 いやいや、

 いやいやいや、

 そんなやりとりがお互いに続き、結局うやむやになった。

 さすが俺の彼女である。大工もできるとは。

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