第22話 ネット通販

「ネコの餌、購入、と……!」

 俺はパソコンを操作し、ネット通販〝甘村あまそん〟でネコのチャオの餌を購入する。

 これで二日後には届くのだからありがたいサービスだ。

「ん。それも買おう?」

 美羽が身を乗り出し、オススメの欄にある猫用のマタタビやおもちゃを指差す。

「えー。でも高いしなー」

 バイトをしているとはいえ、学生の身。そんな高額なものは買えない。

「じゃあ安いのを探してみよう」

 この一言に俺は折れて検索をかける。

 甘村では様々な猫グッズがおいてある。その数はなんと500を超える。

 これだけのものを一個一個確認するわけもなく、ついているレビューや評価で選ぶ。

「すごい数だな」

「この〝ぬるぬるニャンゴロ先生〟ってなに?」

 美羽は純真無垢な顔で見つめる。

 絵を見る限りギャルゲーかエロゲーっぽい。

「さあ、なんだろうなー」

 棒読みでそう答えると俺はページを飛ばそうとする。

「ニャンゴロ先生を調べてみて」

「いや、でも……」

「いいから」

 こうなったら聞かない。頑固な一面が見えていた。

 渋々俺は〝るぬるぬニャンゴロ先生〟をクリックする。

「ゲームなんだ……。え……」

 そこに映る参考写真を見て硬直する美羽。

「なんてものを見せるのよ!?」

 赤い顔で怒りをあらわにする美羽。

「いやクリックしろって言ったのは美羽だけど!?」

 やつあたりをされてはかなわん。

 俺も反論するが、美羽は顔を赤くしたまま、ブラウザバック。

「ちゃんと探すわよ」

「あ、ああ……」

 そこまでして猫用品を求めるか。

 俺は諦めて美羽の言う通り買い物を続ける。

「やっぱりマタタビよ。マタタビがいいわ」

 美羽はそう言いマタタビを購入しようとする。

「待て。落ち着け。なんでそれが必要なんだ?」

「だって。チャオってば、わたしに見向きもしないんだもの」

 チャオとは俺が飼っている猫の名前だ。

 種類はアメリカンカールで年齢は7歳。体格といい貫禄のある猫だ。

 ちなみにチャオは実家から連れてきた家族でもある。

 そのチャオに好かれていない美羽はどうしても振り向かせたいのだ。

「懐かれると顔をペロペロしてくるんだがな……」

「それ! わたしにはしてくれないの」

 悲しそうに目を伏せる美羽。

 完璧美少女も、猫にはかたなしか。

 それにしても、チャオはキャットタワーでのんびりと寝ている。

 こっちの気も知らずに。

「これも買って」

 美羽はカートに入れると、今度は別のものを探し始める。

 〝っと〟というブランド商品を調べ始めたじゃないか。

「〝愚っと〟の新作のカバン、可愛いぃ〜」

「買わないぞ?」

 ニンマリと笑みを浮かべる美羽。

「いや買わないって……」

 目を潤ませてじっとこっちを見る美羽。

「いや、その………………。分かった、安いのだぞ」

「ありがと! 大輝! 愛している!」

 安っぽい愛だな!

 たった3万かよ!

 呪いの言葉を封印して満更でもない笑みを浮かべる。

「おかいもの、おかいもの〜♪」

 今度は購入履歴からどんなものを買っているのか検索をかける美羽。

 米やトイレットペーパー、猫の餌、ラノベなどなど。

 ありきたりなものが多い。

「むぅ。つまんないの」

 美羽は検索欄にラノベと打ち込むと、様々なラノベが表示される。

 その中から可愛い絵柄の作品をピックアップしていく。

「可愛い女の子たち、ぐへへへ」

「美羽はおっさんっぽいところ、あるよな」

 それは完璧美少女でない一面。それもまた可愛いのだが、褒め言葉にはなっていないと気づく。

「わるい?」

「いいや、全然。むしろ好きだな」

「そうでしょうそうでしょう……!」

 一拍置いて、美羽の顔がハテナマークになる。

「ん? もう一度言って?」

「むしろ好きだな」

「かっあああああ――!」

 よくわからない奇声を発し美羽はパソコンから離れる。

 良かった。俺が操作できる。

「いやいや! なに? なんで好きになる要素があったの? 大輝のそういうところ心配になる」

 美羽は大きく声を荒げ、リンゴみたいに赤くなった顔を背ける。

「あー。はいはい。美羽は可愛いよ」

 そう言って俺は新曲のチェックを始める。

「雑に褒めないでよ」

「いいじゃないか。事実可愛いんだし」

「もう、もう! なんでそうなるのよ!」

 美羽は耳まで真っ赤にし面映ゆい顔を浮かべる。

「来月の新刊は……『高報酬の佐々木くん』『魔剣使いのブレイド・アート・ワールド』か」

 二窓……ブラウザを2つ開き、片方で新曲を、片方でラノベのチェックをする。

「わたし、この『魔剣使いのブレイド・アート・ワールド』が気になっているのよ」

「世界的にも有名だからな」

 落ち着きの取り戻した美羽が、がっつくような話題を振ってよかった。

 魔剣使いのブレイド・アート・ワールドは、デスゲームの世界に閉じ込められた主人公が、魔剣を使い、聖剣の乙女たちと一緒に加速世界を生き抜く――という重厚な世界観のラノベだ。

 どこかで聞いたことがあるかもしれないが、それは別の話。

「でもわたしは大輝の書いたラノベも好き」

「な、なんだよ。急に……」

 俺は驚いて顔をしかめる。

「だって、わたしの理想が詰まっているもの」

 そう言ってそっと手を重ねてくる美羽。

「好き、なの……!」

「ああ。俺も美羽が好きだ」

「ん。もっと言って」

「好きだ。好きだ。好きだ!」

 俺は思いの丈を、つたない言葉にする。

 これで小説を書いているなんて、おかしな話だ。

 でも結局伝えるのってシンプルな言葉に置き換わるのかもしれない。

 俺はそう思い、言葉にする。

「もう、くすぐったい」

 ギュッと抱きしめあった俺たちはそっと離れる。

「でも大輝は巨乳が好きなんでしょ? ラノベのキャラも巨乳ばかりじゃない」

「なんど言えばわかる。俺は貧乳が好きだ。ひんのある乳、つまり品乳が好きなんだ」

 俺はガッツポーズで上げて見せる。

「ふーん。でもラノベのキャラたちはかなりの巨乳だけど?」

 ラノベの中には貧乳と言ってもなぜか胸があるキャラが多いのだ。

 とは言うものの、美羽もわずかに膨らんでいるように思えるが……。

「やっぱり貧乳は豚小屋行きなのよ!」

 おいおいと泣き崩れる美羽姫。

「そんなことないって。貧乳は貴重価値だ。ダイヤだ、トパーズだ!」

「ホント?」

 しおらしくなった美羽は目をくしくしとし、涙を拭う。

「ああ、間違いないね」

 そのタイミングでスマホがポップアップを示す。

《巨乳好き、集まれ〜》

 メッセが一件。武雄からだ。

(あいつ〜!)

 俺が心の中で武雄に怒りの念を送る。

「やっぱり巨乳が好きなんじゃない!」

「待て誤解だ!」

「五回も! サイテー!」

「何を勘違いしている! 俺は潔白だ! 無実を証明する」

 そう言って武雄に返信を返す。

《貧乳好きだ! バカ》

《そうだったな。わりぃわりぃ》

 そのやりとりを見た美羽は少し安堵したのか、嘆息を漏らす。

「そっか。良かった」

 そのあとも二、三言葉をかわし、無実であることを証明した。

 いや誤認逮捕にならなくて良かった。あれは家庭を壊すものだからな。

 芽吹いた種はすぐに刈り取らないと。

 しかし、貧乳が好きなのに、なぜか動画とかだとロリコン扱いされるんだよな。

 俺はそんな不服の気持ちを持ちながら、買い物の続きを再開する。

「この〝ロリコン王子と姉さん姫〟も面白そうね」

「あー。タイトルは良さげだな」

 タイトルに引っかかりを覚える作品やタイトルで作品を説明している作品は覚えるのが早いし、間違うことがないと思う。

 だけど、昔みたいに短いタイトルで伝えるのも面白いんだけどな。最近見ないからな。

「よし。このくらいで買い物を終えよう」

「えー。もっと見る」

「お金が、ないんだ……」

「むー。分かったよ」

 美羽はそう言い買い物を終える。

 買い物で夢中になっていたが、肩の触れ合う距離で恋人と一緒にモニターを見る。悪くないと思う。

 幸せを噛み締めながらパソコンを落とすのだった。

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