第4話 ひつじとひつじの餌

「ふぅ、お腹いっぱいだねっ!」


 璃里りりは牛乳とミルクラーメンで満たされたようだ。


「あ、顔洗ったりしてこよっかなあ、牛乳かかって拭いただけだしっ」


「そうだな、トイレとかも行っておかないと混んできて並ぶの嫌だしな」


 おれと璃里はトイレの前で別れる。


「私、お化粧なおしで時間かかると思うから、りょう君はお土産のところとか見といてねっ」


「わかったよ」


『そんなに厚化粧じゃないのに時間かかるんだ』


 女性は大変だなあ。と思いながらお土産を見てまわる。


『ここは、りりにとって楽園だな!』


 お土産のお菓子売場は、試食できるように小さくした商品が透明のケースに入っている。味見し放題だ。


 ミルククッキー、ミルクチョコレート、バームクーヘン、キャラメル、サブレなんてのもある。


『昼食べたばっかりだし、今はまずいな』


 おれはトイレへ走って戻った。少し待っていると璃里がトイレから出てくる。


「りょう君どうしたの? お土産は?」


「あぁ、あとから2人で見たらいいかなって。トイレも中で混んでたからさ」


「そっか、これからどうしよっか、バター体験まで少し時間あるし、一緒にお土産見る?」


『まずいな』


 周囲に目を配る。


「あ、あれやりに行こうよ、ひつじの餌やり!」


 おれはとっさに看板を見つけた。


「いいね~、私たちもお昼ご飯食べたところだから、ひつじさんもお腹すいてるかもだねっ!」


 何故か璃里のテンションがあがって上手くいった。


 ひつじの牧場で餌を買う。五百円と引き換えにせんべいを4枚ずつもらった。


「りょう君、これひつじさんの大好物なんだって。絶対美味しいよね」


璃里の目がキラキラしてる。


『そういうことか』


「それはりりの食べるものじゃないだろ」


「ちょっと味見ぐらいならさ~」


「だめだよっ、ひつじさんに怒られるぞ」


「メェ~、メェ~♪」


 璃里がひつじのマネをして口を開けている。


「りり、何してんの?」


「ひつじになったら、りょう君がせんべいくれるかなって」


『やばい、可愛いすぎるだろっ』


「そんなことしてもダメなものはダメ! さあ、せんべいあげに行くぞ」


 おれは顔が赤くなったような気がして、璃里から顔を背けた。


「りょう君待ってよ~」


「ほら、早くしないとバター作り体験に遅れるから」


「わかったよ~っ」


 ひつじは眼を輝かせて、せんべいを待っていた。

これはまずいと感じ、おれは手を後ろにしてせんべいを隠す。


「ちょっと待ってよ~っ、りょう君助けて~っ」


 璃里はすでにひつじに囲まれていた。


「りり落ちついて。せんべい割って少しずつひつじの口にもってけ」


「ひょぁゃあ」


 ひつじに手を舐められ、璃里からなんか変な声が出た。


「こっちだよ」


 おれは璃里に近づき、ひつじたちにせんべいを見せる。


 ひつじたちがおれのほうに集まる。手を舐められたくないから、せんべいを割って地面に散らす。


「大丈夫か、りり」


「ビックリしたぁ、ひつじさんの舌の感触がなんか凄かったの」


「変なやらしい声出てたな」


「そんな声じゃないしっ」


 またポカポカ叩かれた。


「でも、せんべい食べてたらりりの口舐められたかもしれないぞ?」


「いただきますっ!しなくてよかったぁ」

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