彼女の食事風景に飲み込まれた結果、おれは人生を狂わされる「G’sこえけん」応募作

宗像 緑(むなかた みどり)

第1話 カレーライス

 携帯が鳴った。


「今日の夜ご飯は何にするの?」


「あ~、今日はカレーかなぁ~」


「わかったわ。ちゃんとりょう君がカレーを食べる時間までにこっちも用意しとくね」


「あぁ」


 毎日の定時連絡だ。


……



 璃里りりとは、友人同士が主催した食事会で出会い、付きあってもう一年になる。


 付きあい出してすぐに転勤させられ、おれは璃里りりと引き離された。世間でいう遠距離恋愛ってやつだ。


 おれは、もとから一人暮らしだしネクラタイプだったこともあり、めんどくさくなって食事をしないことが多々あった。


 まあ、そんな生活をしてたから、ある時栄養不足で倒れてしまい、入院するはめに。


「りょう君は、なんでちゃんとご飯もたべれないかなあ。私もう仕事辞めてこっちに来ちゃおうか? なら、ちゃんと身体にいい食事も作ってあげれるし、家事だって楽になるでしょ? ねぇ、本当にそっちのほうが良くない?」

 璃里は急遽仕事を休み、看病にきてくれた。


「いやいや、いいよ。これからはちゃんと食べるって」


『深夜のゲーム時間とかバレたらヤバそうだなぁ……でも、今めちゃくちゃいいところなんだよっ』


「なんでそんなに食べないの?」


「いや、なんか一人で食べるって食事っていうよりも、餌を食べてるみたいな感覚になるんだよなぁ。

ただ、黙々と栄養をとるだけみたいな?」


「まあ、わからないことはないけど、ちゃんと食べないとだめだよ」


「あ、じゃあ、こうしない? 私もなるべく同じ食べ物を選ぶようにするよ。それで同じ時間に動画繋ぎながら一緒に食べようよ。なら、一人で食べてる感じはなくなるでしょ? うんっ、名案っ!」


「まあ、それはそうだけど」


「じゃあ、決まりねっ」


ってなことがあり、最低毎日一食は時間を合わせることになった。


……


 そろそろ時間か。


「お~い。りょう君はどんなカレーにしたの~?」


「おれは、スーパーの『ゴロゴロ牛肉と夏野菜のカレー』にしたよ」


「その名前美味しそうだね~。私は『牛肉と野菜を全部形がなくなるまでじっくり煮込んだカレー』にしたよ」


「そっちも美味しそうだな。で、それだけじゃないんだろ?」


「うんっ! そこにハーフトンカツとアジフライをトッピングに選んだよ。ほら見て、カレーの上に両方のせて、トンカツにはソース、アジフライには、タルタルだよ~」


 そう璃里は、見た目は痩せているほうだがまあまあ食べる。


「じゃあ~、一緒に~」


「「いただきますっ!」」


 二人ともスプーンを手にもつ。

 おれは先には食べず、いつも璃里の食べているところをまず見る。


「う~ん、いいにおい~。さあ、どこからいこうかなあ? やっぱり最初はノーマルでライスとカレーのところからだよね~」


 めちゃくちゃうれしそうだ。


「そう、ここ、ここ」


『アムッ』


「うんうん、この味。野菜の甘味と肉のコクがしっかりしてて、辛さがそれをまとめてるって感じ。やっぱ美味しい~っ」

ほっぺたに手を当てている。


「じゃあ、次はトンカツとカレーライスで」


『アムッ』


「やっぱりカツが入ると味に重厚感でるよね~。衣は上がサクサクなのに下はカレーでしっとりしてるから、この食感も素敵っ! トンカツの油も少し辛さをまろやかにしつつ、いい感じ」


「まじで、いつもよくそんな旨そうに食えるよな。まあ、おかげでこっちも腹減ってきたよ」


 そういって、おれもカレーを食べた。


「どう? どう? りょう君のはどんな感じ?」


「どんな感じって、辛くて美味しいよ」


「んもうっ! いっつも美味しいとかだけだよねっ! もっと、りょう君のはどんな感じのカレーか知りたいのに~」


「ま、まあ、いいじゃないか、その辺は旨いってことで」


「仕方ないわね。あ、次アジフライのとこいっちゃおっかなあ。どうしよ? 少し切ってカレーとライスをまとめて、そうそう、これこれ」


『アムッ』


「タルタルがおもくなくて、むしろカレーをまろやかにしていい感じ~、このアジフライもしっかり身も厚いし、ソースとは真逆でこれもありだね~」


『食べ方も綺麗だから、なんか可愛いんだよなあ』


「りょう君のやつのその野菜のところ、どんな感じなの? それズッキーニだよね? たぶん、バター・塩コショウで炒めてるよ。ちょっと食べてみて」


「う、うん」


『アムッ』


「うん、そう言われるとバターの味がするような気はするな」


「でしょ? てことは多分カレーにはバター使わず、お肉の良さを際立たせてる感じだよね? 美味しそう~」


「う、まあ、美味しいよ」


「またそれ~?」


「でも、野菜入ってるのはヘルシーだよねっ!」


「りりのは油ギトギトだろ?」


「そんなことないよっ! ちゃんとサクサクしてたもんっ!」


「お前なあ~っ。そういう問題じゃないだろ?」


「いいのいいの、私はそんな太らない体質なんだしっ!」


 いつもこんな感じで食事をするのが俺たち2人の日課になった。


「「ごちそうさまでしたっ!」」

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