第21話 ラスボスとの決着
「パパ…!?」
「パパ…!?」
「パパ…!?」
私たちは次々に同じ言葉を繰り返してバッとロドディアスを振り返る。でも何より驚いたような雰囲気だったのは当のロドディアスのようで、
「ローディ!?」
と言いながら元の優し気な茶髪の紳士の姿に戻って、あっけに取られる私たちの横を走り通ってドレス姿の女の子を抱きしめた。
「なぜここにいるんだい?パパはしばらく出かけるから家で待ってるんだよって言っていただろう?」
「だってだって、パパはダンジョンで人間を苦しめに来てるんでしょ?私だってパパのお手伝いできるもの!」
「パパは強いから一人でできるって言っていただろう?パパはそんなに弱いと思ったのかい?ローディ?んん?」
ロドディアスはそう言いながらローディと呼ばれた女の子を抱きしめながら額に自分の額を合わせる。
すると外から馬のひづめのような音と叫び声が聞こえ、どんどんと近づいてくる。
「姫様ぁー!いけません、今は冒険者が…!」
滑りこむように薄くスライドされた鉄の扉を通って飛び込んできたのはあの長い通路で出会った謎の黒い騎士だ。
黒い騎士はロドディアスの姿を見つけ、慌てて骨だけの馬から飛び降りて地面に膝をつくと、頭と顔を覆っていた冑(かぶと)を取った。
冑の下からはやはり人間としか見て取れない、オレンジ色のツンツンと逆立った髪とバツの悪そうな顔をした若者の姿が現れる。
「…グラン」
グランとは黒の騎士の名前?
ロドディアスに名前を呼ばれたグランという黒い騎士は一瞬ビクッと肩を動かして地面を見ていたけど、観念したように口を開いた。
「申し訳ありません、姫様にどうしてもと言われ、断り切れず冒険者のいない時に何度もここに連れてきていました…!」
絞り出すようにグランは謝罪している。
「重ね重ね、まこと申し訳ない!ロドディアス王!」
轟音が聞こえたと思ったら、ドスドスと足音が聞こえて身なりのでかい鎧を着た男が現れる。
その男は中ボスのランディだ。
思わず身構えて杖を向けるけど、ランディは私たちに目もくれないで足を折り膝をつけて冑を取った。
そこにはオレンジ色のビンビンと跳ねた髪の毛の、グランと呼ばれた黒い騎士がもっと大人になったような顔が現れる。
その顔も人間と同じような顔だ。
「うちの息子がいらんことをしでかしたらしい!あと勇者御一行に負けちまった!本当、重ね重ね申し訳ない!」
ランディはグランの頭を大きい手で一掴みすると、薄くスライスされた元・鉄の扉に頭をゴンゴンと打ち付ける。
「他にもグランにはパパのお手伝いをさせたのよ」
このローディという女の子のためにグランという若い騎士が父親だというランディに頭を鉄に打ち付けられながら謝っているのに、当のローディはご機嫌で父の首に甘えるように手を回す。
「最近ね、ここから下流のスライムがいる塔に冒険者がいっぱいいってるみたいなの。だからこっちに冒険者がいっぱい来るようにあっちのスライムの塔の魔族に別の場所に移動しなさいって命令を出してるのよ」
「お前かー!」
思わず幼いローディに向かって指を差しながら叫んだ。
それでも何が「お前か」なのか自分でも意味が分からなくて、黙り込む。むしろ叫んだら頭が余計痛くなってきた…。
ロドディアスは呆れたような顔をしてローディの頭を撫でて、グランに視線を移した。
「まさか…毒のあるモンスターをそちらの方にけしかけていないだろうね?」
その言葉にグランが硬直し、ロドディアスは難しい顔をした。
「もしかしてそれは…地上には居ないものかい?」
額から血を流しながらグランは絶叫した。
「重ね重ね、自分の失態です!」
グランの言い分はこんなものだった。
幼いローディ姫は父が人間界に行ってしまったから父の元に行きたいと日ごろから言っていた。
でも誰も良いと言わない。だからローディは騎士であるグランに連れていけと命令をくだした。
グランも断ったらしい。でも王家に仕える騎士のくせに姫の命令を断るとは何事だとなじられて、立場的に無理に断れず冒険者が居ないところを見計らってローディをこの古城に連れてきていた。
でもいつも誰もいない時を見計らって連れてきているせいか、冒険者が一切この父の城にいないとローディは思ったみたいで、
「私だって王家の娘よ。パパのお手伝いで冒険者を倒したいのに出来ないわ」
とグランに訴えた。
無断でここに姫を連れてくるのだけでもとんでもないことなのに、姫を人間と戦わせるなんて言語道断、仮にそのせいで傷を負ってしまったら…。
そう考えたグランは、
「下流の方に新しいダンジョンが建ったから、冒険者の足が中々こちらに向かないようですね」
とりあえずそう言って誤魔化した。スライムの塔のラスボスがどんな魔族か知らないけど、下流に新しくダンジョンが建ったのは噂で聞いていたから。
するとローディは烈火のごとく怒りだした。
「だったらその新しいダンジョンの主に手紙を書くわ!ダンジョンを撤去し、その場から立ち去りなさいと!グランは私の書いた手紙をしっかりとその主に送るのよ、いいわね!」
姫は御(おん)自ら何通も手紙を書いた。
それでもグランはその手紙をはいはい、と受け取るだけで手元に保管していた。地上にダンジョンを持つほど力のある魔族との折り合いが悪くなって主のロドディアス王が後々困ることになったら大変だと思っていたから。
でも目ざといローディに保管していた手紙の束を見つけられた。
「グラン、あなたは私に逆らうつもり!?私に逆らうという事は王家に反逆を起こすと同じことよ!」
ローディに責めよられ、そうなっては逃げられず、申し訳ないと思いつつスライムの塔の主宛てに手紙を送り続けた。
でもあまりに一方的な内容だからスライムの塔の主も無視をする。
それに対してもローディは怒って余計に手紙は増え、そしてある日、ローディ姫は魔界に一度戻って人間界にやってきた際、いきなり城の脇にある川に飛び込んだ。
「それか…」
ロドディアスは渋い顔で深いため息を吐く。
「それって?」
アレンが聞くといてみると、ロドディアスはローディを抱いたままこちらに向き直る。
「ローディは触れた水と一体化できる。そして触れた水が仮に魔界の川だったとしよう。魔界の川には人間界にはいない生物がたくさんいるだろうから魔界の水を体に含ませたまま人間界の川に入ったとしたら…」
「魔界のクソ汚ねえ水で川が汚染された。ってことは、あの水みてえな這いずり回りるあれはそこのガキが魔界から連れて来た新種のモンスターってことか」
魔界のクソ汚ねえ水、そこのガキの部分でローディとグランはムッとした顔でサードを睨みつけた。
「パパ!あいつらやっつけちゃおう!私も手助けするわ!私、あいつらがお城に入って来た時からずっと見張ってたんだから!」
「ずっと?」
聞き返すと、ローディはパッと自慢げな顔になってフフン、と鼻を鳴らし、
「そうよ!このお城は全体に水路が通ってるから、あなたたちの行動なんて全部筒抜けだったんだから!けど倒された騎士は組み立ててももう動かないのね。せっかくグランに直させたのに」
とつまらなそうな顔になる。
「なぜ冒険者がいるのに連れて帰らなかった!」
ランディ卿がグランに怒鳴りかかると、グランはもう消え入りそうな声で、
「捕まえようとするたびに水に紛れ消えてしまい、そうされては自分には捕まえる術(すべ)もなく…。入口までこいつらが来たので一旦入口を閉めて姫を連れ戻そうと何度もしたのです」
とうなだれている。
今までの謎がすべて解明された。
最初に城の入口を閉めたのはこのグラン。
夜中にパタパタと走り回り帰らない!と声が聞こえたのはローディがグランに連れ戻されそうになったから。
騎士が組み立てられ階段に立てかけられていたのはローディの命令でグランが組み立て直したから。
そしてこの女の子が壁しかない方向に逸れて急に消えた理由は水路に逃げ込んだから。
グランが私たちを攻撃せずに去って行ったのはローディを探し回っていたから。
そしてサードの感じた視線、それはこの城をくまなく通っている水路と一体化して自分たちを見張っていたローディのものだったんだ。
「ねぇパパ、こいつら倒そう?」
ローディがねだるようにロドディアスに言うけど、ロドディアスは渋い表情のまま黙り込んでいる。
「パパ?」
不思議な表情をして見つめる娘をロドディアスは床におろして、目線を合わせて肩に手を乗せた。
「ローディ、君はやってはいけない事をしてしまった。何か分かるかい?」
ローディはきょとんとした顔でロドディアスを見つめて、少し考えてから口を開いた。
「来てはいけないと言われてたのに来てしまったこと?」
「それもだ」
ローディは厳しい表情の父を見つめ、次第に怒っているような気配を察したのか段々と脅えたような表情でグランに助けを求めるかのようにチラと見た。
でもグランは目をつぶって黙ってひざまずいている。ローディはランディに目を向けるけど、ランディも厳しい顔のまま黙ってローディを見ている。
ローディは次第に泣き出しそうな顔で私たちに視線を向けて来たけど、さっきまで戦っていた魔族の娘にそんな視線を向けられても困る。
思わず私もアレンも視線を逸らした。
「ローディ」
ロドディアスはローディの名前を呼びながら両手で自分の方へと顔を向けさせた。
「人間界に居ない生き物を勝手に魔界から連れてきてはいけないんだよ。これは違反だ。勝手にそんな事をすると、牢屋に入れられて死刑になるんだよ」
その言葉にローディの表情が一気に強ばる。
「うそ…」
「本当だ」
「だって私はスウィーンダ州の第一王女よ?」
「身分も住んでる地域も関係なく魔界で決められていることなんだよ。誰であろうと犯してはいけないことなんだ」
ブワッとローディは泣き出した。
「だってっだってっ、ただスライムの塔の魔族がっ、水飲む時にあの気持ち悪いのがねっ、混ざってたらねっ、気持ち悪いだろうって思って…!」
しゃくりあげながらローディはロドディアスの胸に飛び込む。
「パパ、私死刑になりたくない…!」
ロドディアスはやれやれといった顔つきでローディの背中をポンポンと叩いてあやす。
「分かった分かった、パパも一緒に怒られるからね。許されるか分からないが一緒に謝ろう」
「ごめんなさい、ごめんなさいパパ…!」
「うんうん」
しばらくロドディアスはローディの頭を撫で続けた。
* * *
ロドディアスはグランとランディにローディを託し、魔界に連れ帰るように指示を出してから私たちに向き直る。
「戦いの最中だったのに申し訳なかったね。私はもう戦闘する気がそがれてしまったんだが、君たちはどうだい?」
「そがれたよ、あんなやり取り見たら…」
アレンが一言いう。
私だってあんな父と娘のやり取りを見てしまった後で戦闘モードになんか入れない。それより体調がすこぶる悪い。胃はズキズキと痛むわ気持ち悪いわだし、頭もズキ…ズキ…と一定間隔で締め付けられるようで横になって休みたい。
「俺は初回特典の宝箱をもらうまで諦めねぇぞ」
でもサードは本気の顔で誰が引くものかという構えを見せている。
ロドディアスはサードの言葉に笑いながら空中から何か出した。剣かと思って身構えたけど、それは宝箱だ。
「特別だ。これをあげよう。私も娘がモンスターを勝手に連れて来た件で一旦魔界に帰らねばならなくなった」
「…本当に死刑になってしまうの?」
心配になって聞くと、ロドディアスは少し眉毛を動かしてこちらを見た。
「おや、魔族のことを心配してくれるのかい?奇特なお嬢さんだ」
魔族とはいえ、しゃくりあげながら泣いている姿はごく普通の女の子だった。あんなに小さい女の子が死刑になるのは想像もしたくない。
そんな私を見てロドディアスはふっと微笑む。
「死刑になるのは常習犯だけだよ。お咎(とが)めなしとはいかないだろうが、あの子は最近我がままが過ぎるから少し脅かしておいたんだ。グランにも申し訳ないことをした。忠義とあの子の我がままに挟まれて大変だったことだろう」
と言いながら宝箱をフワッとこちらに投げてよこし、サードの足元に宝箱が置かれる。
「待てよ、これ以外にも聞くことが色々あんだ」
サードは宝箱を足蹴にしながらロドディアスを見る。
「なんだい?」
失礼なサードの態度にもロドディアスは決して柔和な表情を変えない。
「俺たちがここに来たのは毒をもつ何かがここからきてるって情報があったからだ。実際ここの城下町はエリーと同じ症状で機能停止してる。そのうち下流の方にも同じ症状の奴らが出るかもしれねえんだ、それについてはどうしてくれんだ?」
ロドディアスは少し黙り込んで、に腰に手を当てて壁の無い部屋から遠くを眺めた。
「…そうだね、持ってくるだけ持ってきて、後はおしまいでは無責任すぎるか」
ロドディアスはそう言いながらこちらに向き直る。
「恐らくローディが持ってきてしまったのは魔界の川には普通にいる生き物だ。人間界に居ないものだから人間にどう作用するのかは分からないが、体内に入ればあまり良いことは起きないだろうね」
「けど私は外から持ち込んだ水しか飲んでないのよ?なのになんで私まで…」
「この辺りで水に触れなかったかい?」
その言葉に首を横に振りかけたけど、昨日の夜、トイレに行ったあと外から流れ込んできてた甕(かめ)の水で手を洗ったことを思い出した。
「その後にその手で食べ物を手づかみで食べたなどは?」
そうだ、朝にパンを手でむしって食べた。
「確か魔界の川には体の表面に毒の粘膜がある生き物がいたはずだ。魔界の者には何も作用しないが、人間界の者には効果があるかもしれない。ただ火や湯など、熱いものには弱かったはずだ。川辺に打ち上げられて干からびているのを見ているし、火を押しつけるとすぐに蒸発するのも見ている。
だからとりあえず熱い湯にでも入ったらどうだろう?今のところこれくらいしか考えつかないのだが」
するとロドディアスはジッと私を見て、サードに視線を移した。
「少しそのお嬢さんを借りてもいいかい?話がしたい」
サードとアレンが私を見て、私は何?とロドディアスを見返す。
「…何?」
「少しこちらに」
ロドディアスはエスコートするように私に手を差し出す。下級貴族時代でも王家のパーティーに出たことはないから男の人にこんな対応されたことが無い。
ちょっと恥ずかしく思いながらも、私だって貴族なんだからと手を乗せてサードとアレンから離れた所に移動する。
壁の取り払われた部屋のギリギリまで来ると、外から少し強めの風が吹いて来る。
ロドディアスは口を開く。
「君、忘却(ぼうきゃく)の魔法をかけられているね」
私は顔を上げた。
「恐らく嫌がらせを受けていたスライムの塔の魔族が君に私を倒すよう持ち掛けたが、自身の事をあの勇者に話されたら面倒だと忘却の魔法をかけられたんだろう。だが君の魔力の強さを少々甘く見ていたようだ。その忘却魔法は完全にかかっていないから記憶が混濁(こんだく)しているだろう?」
それを聞いて私は、そう、とロドディアスを見上げる。
「そうなの、記憶が繋がりそうで全然分からなくて…サードなんて痴呆かって言うのよ」
ロドディアスは詰まったように吹き出して私から視線を逸らして、おかしそうに笑いながら、
「どれ」
と私の頭の周りに手をかざす。
その瞬間、頭の中のモヤが全て取り払われる感覚がして、今まで思いだしそうで思い出せなかった出来事がバッと繋がった。
そうだ、そうだった!
私はラグナスにスライムの塔のボスだと言われて、アップルパイを御馳走になって、ここの城の攻略を頼まれて、小屋から出ると全てを忘れる魔法をかけたと言われながら家から押し出されて…。
全部思い出したらとてもスッキリした気分!体調はとっても悪いけど!
「気分はどうだい?」
まるで病気を気遣うような優しい言葉遣いでロドディアスは語り掛けてくる。
「体調は悪いけど、気分はいいわ。ありがとう」
「それは良かった。…さて、私もそろそろ帰らないといけないか」
ロドディアスはそう言いながらも塔の頂上からの眺めを惜しむように遠くに目を向ける。
「…あなたは百年前、魔界で行われる百年に一度の大会で優勝したらしいわね」
名残惜しそうな表情を見た私が声をかけると、ロドディアスは私に視線を向ける。
「だけど百年前は魔王が倒された年だったから、優勝してもあやふやなままで地上に来れなくて、三年前にようやく地上に来たと聞いたわ。それなのにこんな形で魔界に戻ってしまうなんて…」
ロドディアスは、おかしそうにハッハと短く笑った。
「なるほど、周りからはそう思われていたか」
「…ちがうの?」
ロドディアスを見上げると柔和な目がこちらを見ている。
「確かに百年前に大会で優勝したが、前の魔王様の影響で私の州も荒れていたからね。どうであれ人間界に来るつもりはなかったよ」
そう言いながら眼下に広がる森や広がる城下町、そして流れる川とそこから流れる滝。そのパノラマを見ながらロドディアスは目を細めて微笑んだ。
「素晴らしい眺めだろう?私の治める州も落ち着いてきたから少しの気晴らしの場所を探していたらここを見つけたんだ。だが今の現状だとまだまだ気晴らしに遊びに行くと大々的に言えないから一応ダンジョンを作ってね。…ローディの件が落ち着いたらまたこの景色を見にきたいな」
その一面の景色をキラキラした目で眺めるロドディアスを見ると、魔族でも人間と同じように綺麗な景色に心動かされるんだわと感じた。
先程のローディとの父子のやり取りを見ていても思っていたけど、そうなると魔族も人間と全然変わらない、そう、何も変わらないんだわ。
「さて」
ロドディアスは私に体を向けた。
「スライムの塔の主は少々おしゃべり好きのようだ。確か若い女の子だったね?この前の大会でスライムで優勝に輝いた奇才だ」
「ええ。ちょっと変わってるけど、彼女の作ったアップルパイはとても美味しかったわよ」
「そうか。…おっと、君のお仲間がしびれを切らしているようだ。そろそろ君を返そう」
と言いながらロドディアスは私の背中に手を回してサード達のいる方向へと促す。
見るとイライラしているサードとぼけーとした顔のアレンが見えた。どうやらしびれを切らしているのはサードだけみたいだけど。
戻る時もエスコートするように背中を支えながら、ロドディアスが口を開く。
「そういえば」
私はロドディアスを見上げると、ロドディアスの優しい目がこちらを見ている。
「魔界の事や人間界のことなど、あらゆる分野に詳しい魔族が人間界にいると聞いた」
空中から地図が現れて、ロドディアスはその地図を私に渡してきた。見るとスルスルと赤い線が勝手に現れてある場所を丸く囲む。
「ローディが連れて来てしまった生き物について困ったことがあればその魔族に聞いてみるといいかもしれない。私ができることはこれくらいだ」
「…重ね重ねありがとう。私今まで誤解してたけど、魔族でもあなたみたいに優しくて人間の手助けをしてくれる人もいるのね」
「…」
ロドディアスはなんとも微妙な顔で苦笑した。
「そう言ってもらえると悪い気分ではないが、魔界の王の一人として人間界の者にそう思われるのは非常に都合が悪いんだよ。君は全て思い出したらしいが、魔界やそのほかの事については誰にも何も言わないでもらえるかな?」
「…」
本当は魔族でも良い人がいると皆に教えたいけど、魔族なりに都合の悪いことがあるみたい。
でもそんなことを言われるとほんの少しの意地悪心が湧いた。
「もし私が誰彼構わず言ったらどうするつもりなの?人の口に戸は立てられないのよ」
するとロドディアスはからかうような口調で、
「おや、言うつもりなのか?君は誰が相手であれ義理堅いと思ったんだが」
つまり私は約束は守るだろうと確信して話を持ち掛けているの。魔族なのに人を騙さず、ただ信用して。
「…言わないけど」
ロドディアスは私の言葉を聞いてフッと微笑む。
「君はそういう子だと思ったよ」
私は微笑むロドディアスを見上げた。
なんとなくこのロドディアスには親近感を感じていたけど、この柔和で穏やかで誰に対しても優しい態度がお父様と似ているんだと気づいた。
約束は守ろう。絶対に。
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