第65話

 6ー2 ケアにもいろいろありまして


 ええっ?

 何ですか?

 エミリアさんは、どうしたのかって?

 うん。

 あの人は、わたしを追い出して自分がご主人様のお世話をするとかいっていたのだが1日目でご主人様と大喧嘩して介護に挫折してしまった。

 「よく、あなた、あの人の世話なんてできるわね」

 それがエミリアさんのわたしとの和解の始まりだった。

 わたしとしては、これは、予想通りの展開だった。

 わたしたち介護士は、別に、家族に介護してもらうことを求めているわけではない。

 介護において家族が求められるのは、お世話をすることそのものよりも介護される家族への精神的な支えとなることのほうが大きいとわたしは思っている。

 家族しかできないケアというものがこの世にはあるのだ。

 わたしは、エミリアさんにそのことを説明した。

 だが。

 結局は、ご主人様の要望によりエミリアさんはご主人様のケアに関してはいっさいタッチしないということになった。

 こういうことは、結構あることだ。

 家族同士とはいえ、けっして仲がいいとは限らない。

 それどころか今までの関係によっては、顔をあわせることすら難しい場合だってある。

 わたしは、家族からその方が亡くなったとき以外連絡はしないでほしいといわれたことだってあったからな。

 そういう場合は、介護者が緩衝材となることが求められることもある。

 介護者は、両方の意見をききうまい着地点を探すことも必要だったりすることがある。

 しかし、ご主人様の拒否にあった後のエミリアさんには、わたしも少し困惑していた。

 妙にわたしになついてきているような気がする。

 何かとわたしの意見をうかがったり、わたしに自分の感想を伝えてきたり、あるいは、ちょっとしたお願いをされることもある。

 まあ、別に、いいんだがな。

 クレーマーとかいうわけでもないのでわたしは、適当にあしらうことにしていた。

 まあ、はっきりいえばうっとうしいけどな。

 だが、これもまた仕事の内だと思っていた。

 ご主人様も、エミリアさんもそれほど悪人ではない。

 普通の人たちだ。

 お貴族様だからちょっと変わっているところもあるけど、なかなかいい人たちといえる。

 

 

 

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