第49話

 4ー8 君子危うきに近寄らず!


 サラさんが作ってくれたおにぎりは、最高だった。

 お米もツヤツヤに炊けているし。

 これで味噌汁があればなあ。

 それか、漬物。

 わたしがおにぎりをほうばっているのをなぜか、使用人の皆さんが揃って見守ってくれていた。

 何?

 わたしは、もぐもぐとしながら周囲を見回した。

 んん?

 なぜか、皆さん、微笑ましそうにしてるし。

 どういうこと?

 わたしが食べ終えるとジェイムズさんが話しかけてきた。

 「トガー様」

 わたしは、お茶を一口飲んでからジェイムズさんの方を見上げた。

 「えっと、なんでしょうか?」

 なんか、嫌な予感がしていた。

 ジェイムズさんは、にっこりと微笑みながらわたしに頭を下げた。

 「旦那様のこと、それにライザ様のこと、本当にありがとうございました」

 はいっ?

 わたしは、むせ込んでお茶をこぼしてしまう。

 すぐに、サラさんが布巾をもってきてくれた。

 わたしは、テーブルの上を拭きながらきいた。

 「何をあらたまって。どうかしたんですか?皆さん」

 「いえ」

 ジェイムズさんが目をうるうるさせながらわたしに告げた。

 「何というわけではないですが、ただ、お礼をいいたかたっただけでございます。お気になさらず」

 そうなの?

 わたしは、早々に部屋へと戻らせてもらった。

 こういうの苦手で!

 だって、わたしは、なんにもしてないし!

 ちょっと、仕事しただけだし!

 わたしは、精霊さんにお願いしてお湯を出してもらうと風呂に入った。

 というか、空中に浮いているお湯の中に入るのだ。

 ほんとに変な感じ!

 わたしは、ふぅっと吐息を漏らす。

 はやく風呂を作りたいな。

 ここは、給料がいいからな。

 もう少ししたら個人用のバスタブが買えるかも。

 そんなことを考えてながらお湯から出ると体を拭いて夜着に着替える。

 ベッドでは、ライザがかわいい寝息をたてている。

 よっぽど街が楽しかったんだな。

 羨ましいな。

 わたしは、気を取り直して窓辺の小さなテーブルへと向か腰かけるとため息をついた。

 二週間で手っ取り早く金をたくさん手に入れる方法は?

 わたしが悩んでいると肩の辺りからルゥの声が聞こえた。

 「この世界ならダンジョンで稼ぐっていうのが一番はやいけど」

 マジですか?

 そんな方法があったのか!

 だが。

 わたしは、それに飛び付くほど自信過剰でも若くもなかった。

 「トガーならすぐに金持ちになれるよ」

 甘い誘惑にわたしは、頭を振った。

 「そんなことして怪我でもしたらどうするんだよ!」

君子危うきに近寄らず。

 わたしは、別の方法をとることにした。

 

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