第43話
4ー2 恐怖と絶望と
「ここには、魔物との戦いで手足を失った人々が収容されている。こういった人々の中には正常な精神の状態ではないものも多いです」
ライナス先生が説明してくれた。
「あなたのような方はご存じないかもしれないが、魔物たちは非常に残虐で彼らは、生きたまま手足を引きちぎられたものが多いのです」
「なるほど」
わたしは、頷いた。
だけど、彼らが獣のように呻いたりしているのは、そのせいじゃないかもしれない。
その理由は、彼らをここの人々が人間として扱っていないからかもしれない。
どこからか、白い服を着た職員らしき男女が現れたかと思うと、部屋の中央にたらいに入った何かを置いて怒鳴った。
「食事だ!」
何人かの動ける人々が虫のようにはい寄っていってそのたらいの中のなにかに顔を直接突っ込んで食べ始める。
マジか!
わたしは、部屋の中へと入っていった。
「食事中は、近寄らないで!」
ライナス先がわたしに声をかける。
「噛みつかれることがある」
そうなの?
わたしは、部屋の壁にもたれて動こうとしない人の前に立った。
彼は、伸ばし放題の髪の毛の下から鈍く光る目でわたしを見た。
「ああ・・女神よ、お願いだから俺の望みを叶えてくれ」
「なんです?」
わたしが屈んで彼を覗き込むと彼は、わたしに告げた。
「俺を、今すぐ、殺してくれ!頼む!」
そう言うとその男は、けたたましく笑い声をあげた。
『ここは、奇妙な動物園』
誰かが歌い始めた。
それと共に、皆が合唱を始める。
『手も足もない生きものの住み処』
『見物料は極楽鳥の卵』
『払えなければ』
わたしは、ゾッとしてその場に立ちすくんだ。
『手足を置いてけ』
「やめろ!お前たち!」
職員たちが怒鳴り付ける。
中には、手にしていた棒で黙ろうとしない者を殴る者までいた。
「こっちへ!はやく!」
ライナス先生がわたしの手を掴んで部屋の外へと連れ出した。
背後で狂ったような笑い声がきこえた。
しばらく呆然としてたわたしの手をひいて、ライナス先生はこの病棟の外へと向かった。
わたしたちは、どちらも口をきくことはなかった。
あの石の扉の外に出るとライナス先生は、再び何重にも鍵をかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます