第32話

 3ー3 泣かせちまったか?


 わたしは、その子供に近づくとじろじろと全身を眺めた。

 その生意気な子供は、全身が灰色に薄汚れていて、しかもとっても臭い。

 何日も、というか生まれてから一度も風呂に入ってないといってもおかしくない感じだ。

 しかも、着ている服もぱっつんぱっつんで窮屈そうだし。

 「あんたの部屋は?」

 「なんですって?」

 「あんたの部屋はどこだって言ってるんだけど。それとも、あんたは、部屋もない居候なわけ?」

 わたしがきくとその子供は、ムッとしてわたしを睨み付ける。

 「わたしのお部屋に来たいっていうの?なら、ついてきなさい!」

 わたしは、その子供の後ろについてのんびりと歩き始めた。

 子供は、廊下の隅っこにあったドアを開いた。

 そこには、上へと続く階段があった。

 「こっちよ!」

 わたしたちは、その階段をのぼっていった。

 その先には、小さな屋根裏部屋があった。

 まるで小人の部屋のような奇妙な部屋だ。

 薄汚れていているわりに家具やおもちゃがいっぱいあるし。

 わたしは、部屋のあちこちに転がっているぬいぐるみやらなんやらを踏まないように避けながら歩いていった。

 部屋には、小さな子供が喜ぶような木馬やら人形やらが山のようにおかれていた。

 その子供は、部屋の隅におかれていたやはりサイズの小さいベッドに腰かけるとわたしを見上げる。

 「ここがわたしのお部屋よ!」

 自慢げに言っているが、なんかおかしい。

 わたしは、小首を傾げた。

 なんだろう?

 わたしは、その子供の前にしゃがみこむと訊ねた。

 「あんた、名前は?」

 「本当に失礼な女ね!人に名前をきく前に自分が名乗るべきでしょう!」

 その子供の言うことももっともだしな。

 わたしは、名乗った。

 「わたしは、トガー。で?あんたは?」

 「わたしは、ライザ。ライザ・フォン・フェブリウスよ!」

 マジですか?

 わたしは、思い出していた。

 この世界に来た時にわたしを溺れさせたあの子供のことを。

 間違いない。

 これがあのときの子供だ。

 しかし。

 一応、伯爵令嬢のはずなのになんでこんな薄汚れてやさぐれた感じなわけ?

 わたしは、ライザに訊ねた。

 「もしかして風呂に入るのが嫌いだったりする?」

 「ふろ?」

 ライザは、キョトンとしている。

 「ふろって何?」

 マジですか?

 わたしは、気を取り直して質問を続けた。

 「たまには、誰かに体を拭いたりしてもらってるんだよね?」

 ライザは、うつ向くと黙り込んでしまった。

 あっ、やばい! 

 わたしは、心の中で舌打ちをしていた。

 泣かせちまったか?

 

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