聖女なんかじゃありません！～異世界で介護始めたらなぜか伯爵様に愛でられてます～

第4話

　0ー4　異世界ホームレスですか？

　紳士は、わたしににっこりと優しく微笑んだ。

　「大丈夫です。ライザお嬢様は、ご無事でございます」

　わたしは、ほっと吐息をついた。

　もし、死んでたら寝覚めが悪いしな。

　紳士は、わたしに暖かいミルクのカップを差し出すと話し出した。

　「私は、このお屋敷にお仕えしている執事のジェイムズと申します。失礼ですが、あなた様のお名前は？」

　「わたしは」

　わたしは、答えた。

　「戸川　アリサです」

　「トガー様でございますか」

　紳士は、わたしに頭を下げる。

　「トガー様、本当にお嬢様を助けようとしてくださってありがとうございました。この屋敷の主人はわけあってご挨拶には来れませんが大変感謝され、ゆっくりと休まれるようにと仰っています」

　そしてジェイムズさんは、わたしにゆっくりと休むようにと告げると部屋から出ていった。

　去っていく後ろ姿が妙に色っぽい。

　「受け、かな・・・」

　呟くわたしの耳元で誰かが問いかけた。

　「受けって何？」

　はい？

　振り向いたわたしの目に大きな黒いデブ猫が飛び込んできた。

　「ぎぃやああぁっ！」

　いきなり飛び付かれてわたしは、悲鳴をあげた。

　ね、猫？

　いや、ちがう！

　これは、猫なんかじゃない！

　ふさふさの長い尻尾の先は、みごとに二股に割れていた。

　「ね、猫また？」

　「失礼な！僕は、この屋敷に住んでいる精霊のルゥだよ」

　猫またの精霊？

　わたしがぽっかーんとしているとルゥは、わたしの膝の上にのって来る。

　「お、重い！ちょっと、重すぎ！ギブギブ！」

　「ほんとに失礼な女だな」

　ルゥがわたしの膝の上にどかりと座り込むとふん、と鼻を鳴らした。

　「せっかくこの僕があんたの守護精霊になってやろうっていうのにさ」

　「守護精霊？」

　わたしがどんっと足でルゥを蹴り飛ばしてやったら、ルゥは、しぶしぶわたしの膝から降りてその横に陣取り毛繕いを始めた。

　「そんな態度をとってると後悔するぞ！僕がいなきゃあんたなんて、この世界で野垂れ死にだからな！」

　「そんなわけないじゃん」

　わたしは、バカにするように笑ってやる。

　「アラフォーの腐女子を舐めないでほしいな。わたしは、自力で仕事して立派に生きてるんだからな」

　「それは、もとの世界でのことだろ？」

　ルゥは、すねたようにわたしを横目で見た。

　「この世界じゃ、僕がいなきゃ言葉もわからないんだからね」

　「はい？」

　この世界？

　わたしは、さっきから感じている違和感がなんとなく理解できてきたような気がしていた。

　もしかして。

　いや、そんなわけないしな。

　わたしが頭を振るのを見ていたルゥがきいた。

　「まだ、わかってないの？」

　ルゥは、にやりとチェシャ猫のような笑み浮かべた。

　「ここは、もとの世界とは違うし。あんたは、ここじゃ異世界からきたただのホームレスだよ」

　ホームレスですと？