吸血鬼と付き合ってる

でずな

吸血鬼



「ん〜……」


 体に圧迫感を感じたので目が覚めた。

 目の前に顔がある。圧迫感の正体はリアだった。

 口の周りに赤い跡がある。私が起きたのがわかったからなのか、さっきから腰を擦りつけてきてる。


「あっおはよ。やっぱ、血は朝一番に限るわ」


 ふひっと変な声と共に手でなぞったのは私の首。


「ちょ、もしかしてまた首から飲んだんじゃないわよね……?」


「そりゃあもちろん首に決まってるじゃん。首はね、いっぱい血が通ってて一番美味しいところなんだよ」


「そんなの何回も聞いてるから知ってるわよ。……はぁ。ま、絆創膏貼ればいっか」


「ねぇねぇ。そんなことよりこれからシない?」


「私、あと一時間くらいで仕事なのよ? 日中外に出れずに、血を飲んだら発情するリアとは違って忙しいの」


「えぇ〜。そんなかたいこと言わずに、ね?」


 この日は抱きつく発情しているメスを振り払い、なんとか仕事に行くことができた。

 吸血鬼が血を飲んで発情するのは別にいいけど、ガッチリ捕まえられ仕事に行けない日があるからたちが悪い。

 

 普段、吸血鬼ことリアは動画投稿をしてお金を稼いでいる。見ないでよ! と言われているが私もチャンネル登録をしてこっそり見てる。動画の内容は血の味だったり、日光の危険なところを紹介するようなものだったりと、吸血鬼にしか需要がないようなものばかり。

 普通あんなよくわからない動画、伸びるはずがない。

 それもこれもすべて、あざとい仕草や顔のおかげ。彼女が知らない男どもに囲われるのは嫌だけど、リアの可愛さは彼女である私の自慢なので嬉しい気持ちもあ。   


 明日は休日。空は雲一つない。

 外の光は、電柱の下のスポットライトだけ。普段はこんな時間寝ているので、夜に少し興奮する。


「なんで。家に帰ろうよ……」


 私は今、引きこもりであるリアを連れて公園に来ている。


「やば。疲れた。疲れを取るには家に帰らないと」


 公園のベンチ。私の隣に座っているリアは、余程家に帰りたいのかさっきから難癖をつけて帰ろうとしている。


「リアさ……。日中は外に出れないから、こうやって夜に外でないと本物の引きこもりになっちゃうよ?」


「なぁ〜にが本物の引きこもり、だ。私はもうとっくに誰がなんと言おうとも本物の引きこもりだ!」


「なんでそんなところで張り合うのよ……」


 はぁ〜とため息をついていると、ぽてっとリアの頭が私の肩に乗った。

 「ふん。ふふふふん」と、聞いたことのない奇怪なリズムで鼻歌を歌ってる。


 さっきまで帰りたがってたのに、意外と嫌そうじゃない。


「そういえば今日、洗濯機が壊れちゃったよ」


「は?」


「いやいやいやいや。私が壊したんじゃないから! ちょぉ〜と電源が入らなかったから叩いただけで……」


「叩いたせいで壊れたに決まってるわ」


「そうかな? 私やっちゃった?」


「完全にやっちゃってる」


「うっそぉ〜。ごめんなさい」


 もしかしてあれだけ帰りたがってたのは、洗濯機が壊れたのを見せたかったから……?

 

 リアって所々抜けてるところはあるけど、こういうのはちゃんとしてるんだよね。


「ちょうど買い替え時だと思ってたし……。明日休みだから、なんかいい感じのやつ調べようかな」


「よし。それなら私は洗濯機を壊してしまった反省として、料理でも振る舞おっかな」


「リアの料理って沸騰した私の血でしょ? あれだけはもう勘弁して……。おいしいと言われ食べさせられたのは一生忘れないからね?」


「え、えぇ〜」


「二人で使うやつなんだし、一緒に調べましょ? 料理は私が食べられるものが作れるようになってからでいいから」


「ん」


 ちょっと不満そうだけど納得してくれた。


 特に喋ることもないので夜空を見上げる。

 私達のことを見守っているかのような月に、きらめく星々。普段夜に出歩かないから、こんなきれいな夜空見ることもない。もっとも、これがリアにとっては日常なのだが。


「かぷ」


「ちょ」


 突然首元を噛まれた。これは吸血。

 いきなり噛みつくなんてこの吸血鬼は、常識というものがないな……。でも、まぁいいや。


 ごくごく美味しそうに飲んだリアは、ぺろりと舌を巻き、火照った顔を向けてきた。

 最初、吸血鬼と付き合うのなんておかしいと思ってた。けど今は別にどおってことはない。

 好きな気持ちがあれば、なんだって許せる。


「そろそろ帰ろっか」


「ねぇ、ここでシない?」


 この発情吸血鬼……。

 血を飲んだから私が気を利かせて帰ろっていったのに、なぁ〜にがここでシない? だ。


「こんなところでスるわけないでしょ。早く家帰ろ? 」


「む〜……」


 無理やり手を繋いで歩き始めると、不満そうな顔をしながらついてきた。

 朝誘われるのは嫌だけど、夜は別。


「むわぁ〜」


 全く。仕方ないな……。


 街灯の明かりが届かない暗闇で、しなしなしているリアの体を抱きよせ吐息がかかるほど耳元に口を近づけて囁く。


「今夜は寝かさないからね」




 


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吸血鬼と付き合ってる でずな @Dezuna

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