第八章 疑惑と涙と ー中編ー
季武と綱は六花の家に来てチャイムを鳴らした。
「五馬ちゃん、いなかったの?」
季武と綱の表情を見た六花が訊ねた。
「六花ちゃん、
「綱さんのせいじゃないですよ。新宿駅に鬼は……」
「酒呑童子と茨木童子が待ち構えてた」
「鬼がいたのに五馬ちゃんが見付からなかったって事は……」
季武は金時達にしたのと同じ話をした。
「そっか。それなら、無事だよね」
六花が自分に言い聞かせる
綱は黙って六花を見ていた。
四天王が着く前には暇が無かったが今は十分時間が有る。
六花も
季武が
なのに守れなかった事を責めない所か困らせない
綱は貞光が
確かに
季武は
「
「うん、気を付けてね」
六花はそう言うと家の中に入っていった。
綱達は一旦自分達のマンションに集まった。
頼光は上に報告するために
「六花ちゃんの様子は?」
金時の問いに綱が六花に会いに行った時の話をした。
「別れ際の台詞が『気を付けてね』だもんなぁ。俺達の心配までしてくれて……」
「見付からねぇかもしれねぇのに、捜してとは言えねぇだろ」
綱が貞光を横目で睨んだ。
「
貞光はパソコンの画面に目を戻した。
「まぁ、五馬ちゃんは六花ちゃんの友達だけど綱の彼女でも有るからじゃないか?」
「季武と一緒に
「あ!」
金時の声に三人が振り向いた。
「
金時がテレビの音量を上げた。
「新宿駅西口前、謎の半壊……
「鬼に『汚ねぇぞ』って
「普段なら『お前が言うな』って言い返せたけど、
綱が椅子の背もたれに顎を乗せて言った。
「だから普段は連絡事項の伝達だけなんだよ。
季武以外の三人は新宿駅前の惨状を映した映像を見ながら今頃頭を抱えているであろう小吏に密かに同情した。
土曜の昼、マンションから出た六花の母の前に女性が立った。
六花の母が何か言う前に、女性は手を
女性が
「あら」
夕方、六花の母が冷蔵庫を見て声を出した。
「どうしたの?」
「買い忘れたものがあるの。ちょっと買ってきて」
「うん」
六花は母からお金を受け取ると家を出た。
六花が出てくるのを見たサチは人間に
六花の方へ歩き出そうとした時、
サチは足を止めた。
「お前は以前、邪魔をした……。
ミケは黙ってサチを見ていた。
サチは土蜘蛛の姿に戻るとミケに向かって脚を振り下ろした。
ミケは脚を
ミケの鋭い爪が土蜘蛛の目の一つを切り裂いた。
「ーーーーー!」
土蜘蛛が叫び声を上げた。
巨大な蜘蛛の姿に凍り付く。
ミケが再度蜘蛛に飛び掛かった。
蜘蛛が大きく後ろに跳んだ。
あの子……ミケ!
ミケの姿を見て我に返った六花は急いでスマホを取り出すとアイコンを押した。
蜘蛛は
ミケは自分より遙かに大きな図体をしている蜘蛛と互角に戦っている
六花は怖かったもののミケが心配で目を離せなかった。
季武君、早く来て……。
「ーーーーーー!」
土蜘蛛が再び悲鳴を上げた。
四天王が駆けてくるのを見たミケは土蜘蛛の脚に飛び付くと
「ーーーーーー!」
土蜘蛛が三度叫んだ。
ミケは自分の身体より遙かに大きな土蜘蛛の脚を
土蜘蛛は大きく後ろに跳ぶと、身を
「季武! 六花ちゃんは任せたぞ!」
綱がそう言いながら六花の横を駆け抜けていった。
「六花! 無事か!」
季武が走り寄ってきた。
「うん、私は平気」
「送る」
「あ、大丈夫、すぐにマンションに入るから」
「分かった」
季武は六花がマンションに入ったのを見届けると綱達を追っていった。
「サチ!」
片目を押さえ足を
「
「偶然じゃなかった」
サチが言った。
「え?」
「鵺の時に邪魔をした獣……、
「じゃあ、
「そうだ」
「サチ一人で行かせたのが間違いだったんじゃないのかい」
メナが言った。
「
「友達の振りで呼び出せば
「鬼に
「教えさせれば
メナが言った。
月曜の昼休み、六花は屋上で季武に弁当を渡しながら、
「綱さん達は五馬ちゃん、捜してるの?」
と訊ねた。
「ああ」
と言っても三人とも学校を見張れる位置でニュースを検索しているだけだが。
酒呑童子の方から出てくるか、あからさまな事件でも起こさない限り見付けようがないのだ。
「一昨日また土蜘蛛がお前を襲ってきただろ……」
だから今まで以上に警戒が必要だと言おうとした時、
「襲われてないよ」
六花が否定した。
「え?」
「一昨日はあの子……ミケとあの蜘蛛が戦ってたから連絡したの」
「始めから話してくれ」
季武の問いに六花は一部始終を話した。
と言っても
「そうか……」
季武は考え込んだ。
放課後、季武と玄関に来た六花が声を上げた。
「季武君!」
六花の靴の上にメモが載っていた。
紙を見せられた季武は綱達に連絡すると、六花をマンションに送ってからメモの場所に向かった。
頼光と綱、金時、貞光、
外から見る限りかなり広い。
酒呑童子と茨木童子、
「五馬ちゃんの気配が無い」
綱が唇を噛んだ。
「酒呑童子の四天王が
季武が呟いた。
「話は後だ。来たぞ!」
大鎧姿の頼光が
四天王も
酒呑童子が茨木童子と四天王である星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子と
「頼光と四天王!
「
綱が髭切を手に酒呑童子に突っ込んでいった。
「綱! 一人で
頼光はそう指示すると近くに
貞光と金時が向かってくる鬼達を斬り払いながら綱の元へ走った。
季武は近くの街灯の上に飛び乗ると他の四人の死角から攻撃しようとする鬼と次々と
金童子が季武の方へ駆け寄ってくると街灯をへし折った。
季武は隣の街灯に跳んだ。
上空から頼光の背後の鬼に矢を放つ。
金童子が追ってきて季武が着地する前に街灯を蹴り倒した。
更に隣の街灯まで行ってしまうと死角が多くなってしまう。
季武は弓を背に戻すと腰の太刀を抜いて金童子に向かって横に払った。
後ろに飛び
頼光は
熊童子が後ろに飛ばされる。
頼光は膝丸を
背中の弓――
頼光は四天王の周囲に
鬼の一体が屋上に飛び乗ってきた。
右手で膝丸を抜くと鬼を斬り伏せ再び矢を放ち始めた。
綱は酒呑童子と鍔迫り合いを繰り返していた。
互いに押し合って後ろへ飛ぶと、
金時は茨木童子と斬り結んでいた。
一度、茨木童子は空に飛び上がろうとしたが頼光の放った矢に翼を射貫かれ、
綱の背後で戦っていた貞光に熊童子が斬り掛かってきた。
貞光が大太刀で熊童子の刀を弾いた。
熊童子が大きく後ろに跳んだ。
金時が茨木童子に
茨木童子が鉞を弾き、返す刀で
虎熊童子が金時に斬り掛かった。
季武が
季武に斬り掛かろうとした鬼が頼光の矢に射貫かれて消える。
季武と
虎熊童子の
虎熊童子を追う
季武は周囲に目を走らせ一番近くに
季武に気を取られた熊童子が貞光の大太刀で真っ二つに
貞光は
金童子が貞光の大太刀を刀で受け止めた。
貞光は星熊童子に駆け寄った。
星熊童子に大太刀を振り下ろす。
後ろに跳んだ星熊童子を季武が真横から斬り払った。
星熊童子が真っ二つになって消えた。
綱に斬り掛かろうとした虎熊童子の前に貞光が立ち塞がった。
季武が虎熊童子の背後に回る。
虎熊童子が貞光に斬り掛かった。
貞光が虎熊童子の刀を弾いた。
季武が虎熊童子の背後から刀を横に
横に飛んだ虎熊童子に貞光が追い
両断された虎熊童子が消える。
季武と貞光が、綱と金時の
「増援だ!」
頼光が叫んだ。
見ると大きな鬼の大群が
頼光が飛び降りてきてドラム缶を蹴り、横に倒した。
膝丸で穴を開け流れ出してきたオイルの中に火の点いたライターを投げ入れる。
オイルが燃え上がった。
「綱、金時、
頼光の言葉に貞光は炎の中から大弓を取り出した。
季武も背負っていた弓を手に取った。
核を再生出来るぎりぎりのサイズまで細かく砕いたのだ。
鬼の大群が徐々に近付いてくる。
貞光は弓を捨てると大太刀を抜いて鬼の群れの先頭に駆け寄った。
大太刀を横に薙ぎ、二体、三体と
季武も弓を背に戻すと炎の中から大太刀を取り出して鬼の群れに向かっていった。
季武と貞光が
綱が振り下ろした髭切を酒呑童子が
酒呑童子が刀を横に
綱は膝を折って刀を
「今更遅い!」
綱の髭切が酒呑童子を貫いた。
酒呑童子が核に戻った。
核が異界へと消える直前、何かが素早く
何!?
綱が周囲に目を走らせたが煙で何も見えなかった。
金時が振り下ろした
金時が茨木童子を斬り上げた。
茨木童子が真っ二つになって消滅した。
「金時! 後ろだ!」
綱が叫んだ。
同時に何かが茨木童子の核を奪った。
「茨木童子の核を取られた!」
「くそ! 茨木童子もか!
綱と金時は頼光達と戦っている鬼の群れに向かって行った。
「
綱が髭切を振り下ろした。
鬼が真っ二つになって消えた。
「よし、終わったな」
頼光が膝丸を納刀した。
「頼光様、実は問題が……」
金時が酒呑童子と茨木童子の核が盗られた
「
貞光が訊ねた。
「煙で見えなかった。
綱が頼光に言った。
頼光は四天王と共に核が消えた辺りに向かった。
地面に白い物がへばり付いていた。
「土蜘蛛の糸……」
「やはり土蜘蛛が手を貸してるのか」
「人の気配は無いが、一応
頼光の言葉に四天王は四方に散った。
六花は物音で目を覚ました。
時計を見ると深夜だ。
ベッドから起き上がるとカーテンから、そっとベランダを覗いてみた。
ベランダに季武が倒れていた。
「季武君!」
六花は慌ててサッシを開いて季武を抱き起こした。
「息はしてるけど……」
六花は季武を引き
「シマ、ごめんね」
寝ているシマを抱き上げて椅子の上に移すと苦労して季武をベッドに寝かせた。
「どうしよう。シマ、どうしたら
シマは椅子の上で丸くなって寝ていて見向きもしなかった。
血も出てないし服も破れてないから
服も鬼と戦っている時は道着だから、今着ている物が破れていないからと言って
六花はベッドサイドに置いて有るスマホを手に取って電話帳を開いた。
貞光達に掛けてみたが誰も出なかった。
後は……。
季武は頼光の連絡先も六花の電話帳に登録していたが
季武君、勝手にごめんね。
六花は心の中で謝りながら季武のポケットからスマホを取り出し頼光の連絡先に掛けた。
「季武、
「よ、頼光様、夜分遅くにすみません」
「六花ちゃん?」
頼光が驚いた
「あ、あの、今、季武君が私の部屋にいるんですが……」
「こんな時間にか。
「それは
六花の
「疲れて寝ているだけだ。
「大丈夫なんですね」
「心配ない」
「……もしかして、頼光様もお疲れでしたか? その、も、申し訳ありません!」
「気にしなくて
通話が切れると六花は
頼光様が疲れてるって言ってたよね。
だとしたら食事を用意しておいた方が
悩んだ末、六花は
季武が目覚めた時に
六花は両親が物音で起きない
ベッドの横に座って季武を眺めている内に眠ってしまった。
季武はベッドで寝てるのに気付いて飛び起きた。
ベッドに突っ伏して六花が眠っていた。
しまった……。
ベランダに来た所までしか覚えてないから
季武は六花をベッドに寝かせて布団を掛けた。
机の上に布巾を掛けた食事が置いてある。
季武の
季武は食事をすると、
ごちそうさま
と書いたメモを残して六花の部屋を後にした。
前夜――と言っても日付は変わっていたが――、綱達は部屋に戻るなりベッドに倒れ込んでしまった。
早朝、季武がマンションに戻り、他の三人の目が覚めた所で頼光に報告をした。
「五馬と言う子は見付からなかったんだな」
「はい」
頼光の問いに四天王が同時に頷いた。
「頼光様、酒呑童子の四天王が
「大江山で討伐した後、
「大江山に
「核を砕かれたのに再生したと言う事ですか?」
頼光は溜息を
「核を砕かれたら再生しない。
「創った?
「私が知っているのは酒呑童子だけだがな。
上の考えは頼光も知らされていないから分からない。
「茨木童子の核が砕かれないのは
「
「頼光様」
季武が言った。
「
季武は六花から聞いた話をした。
「六花ちゃんは襲われてない?」
「六花はミケと土蜘蛛が戦っているのを見て俺に連絡したそうです」
最初にミケを見掛けた時、逃げた先には茨木童子と一緒の六花が
二度目は六花を
三度目は六花に襲い掛かろうとした鬼を倒した。
となるとミケが戦っていた土蜘蛛も六花を襲おうとしていた可能性が高い。
「ミケは六花ちゃんを守っているのでしょうか」
「ミケは
綱達末端の者にはミケの知性や能力が
四天王には異界の獣くらいの認識しかなかった。
人間を助けたなどと言う話は聞いた事が無い。
だから今まで六花を守っていたのかもしれないと知って全員驚いていた。
「
頼光にもはっきりとは分からないらしい。
「土蜘蛛は
金時が言った。
「そう言や六花ちゃん、猫拾ってから鬼が出なくなったって言ってたからミケじゃないか確認に行ったんだよな」
金時がそう言って季武を見た。
「俺が行った時は部屋に
「貞光だって行ったじゃん」
「オレも見てねぇ」
「待て、
「あ!」
「
「余計な話は後にしろ!」
頼光が
「申し訳ありません」
四人は頭を下げた。
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