東京綺譚伝ー光と桜とー

第八章 疑惑と涙と ー中編ー

　季武と綱は六花の家に来てチャイムを鳴らした。

　すぐに六花が出てきた。

「五馬ちゃん、いなかったの？」

　季武と綱の表情を見た六花が訊ねた。

「六花ちゃん、本当（ホント）にごめん」

「綱さんのせいじゃないですよ。新宿駅に鬼は……」

「酒呑童子と茨木童子が待ち構えてた」

「鬼がいたのに五馬ちゃんが見付からなかったって事は……」

　六花がそう言うと季武は金時達にしたのと同じ話をした。

「そっか。それなら、無事だよね」

　六花が自分に言い聞かせるように言った。

　綱は黙って六花を見ていた。

　四天王が着く前には暇が無かったが今は十分時間がある。

　六花もそれが分かっているから安心した表情は見せないのだろう。

　それでも取り乱したり騒いだりしないのは季武達を困らせないためだ。

　季武がどこまで話したのかは分からないが五馬が狙われてる可能性が有るから綱達が警戒していたのは知っているはずだ。

　なのに守れなかった事を責めないどころか困らせないように綱達に気をつかっている。

　綱は貞光が反（は）ぐれ者になった討伐員の気持ちが分かると言っていたのを思い出していた。

　確かにここまで他人に気を遣う子がイジメられているのを見たら人間を守ろうなんて気になれなくなってもおかしくない。

　季武は反（は）ぐれ者を倒せという命令を実行してるだけで人間を守ってるとは思っていないようだから任務を投げ出したりはしないだろうが。

「それじゃ、俺達は八田を捜しに行くから」

「うん、気を付けてね」

　六花はそう言うと家の中に入っていった。

　綱達は一旦自分達のマンションに集まった。

　頼光は上に報告するために異界（むこう）に行っていて居（い）なかった。

「六花ちゃんの様子は？」

　金時の問いに綱が六花に会いに行った時の話をした。

「別れ際の台詞が『気を付けてね』だもんなぁ。俺達の心配までしてくれて……」

「見付からねぇかもしれねぇのに、捜してとは言えねぇだろ」

　綱が貞光を横目で睨んだ。

「すまん」

　貞光はパソコンの画面に目を戻した。

「まぁ、五馬ちゃんは六花ちゃんの友達だけど綱の彼女でもあるからじゃないか？」

「季武と一緒に居（い）たのが金時や貞光でも同じこと言ったと思うけど……」

「あ！」

　金時の声に三人が振り向いた。

「さっきの戦闘がニュースになってる」

　金時がテレビの音量を上げた。

「新宿駅西口前、謎の半壊……あの人本当（ホント）手段選ばねぇよな……」

「鬼に『汚ねぇぞ！』って罵（ののし）られたくらいだからな」

「普段なら『お前が言うな』って言い返せたけど、あん時だけは反論出来なかったもんなぁ」

　綱が椅子の背もたれに顎を乗せて言った。

「だから普段は連絡事項の伝達だけなんだよ。頼光様（あのひと）に戦わせると人的被害が少ない代わりに他の損害が酷（ひど）過ぎて後始末が大変だから」

　季武以外の三人は新宿駅前の惨状を映した映像を見ながら今頃頭を抱えているであろう小吏に密かに同情した。

　土曜日の昼――。

　マンションから出た六花の母の前に女性が立った。

　六花の母が何か言う前に、女性は手を翳（かざ）して何かを呟いた。

　女性が居（い）なくなると六花の母は何事も無かったかのように歩き出した。

　夕方――。

「あら」

　六花の母が冷蔵庫を見て声を出した。

「どうしたの？」

「買い忘れたものがあるの。ちょっと買ってきて」

「うん」

　六花は母からお金を受け取ると家を出た。

　六花が出てくるのを見たサチは人間に変化（へんげ）した。

　そして六花の方へ歩き出そうとした時、それを遮（さえぎ）るかのように異界の獣が出てきてサチを見上げる。

　サチは足を止めた。

「お前は以前、邪魔をした……。あの娘に手を出すなと言う事か」

　ミケは黙ってサチを見ていた。

　サチは土蜘蛛の姿に戻るとミケに向かって脚を振り下ろした。

　ミケは脚を躱（かわ）すと土蜘蛛に飛び掛かった。

　ミケの鋭い爪が土蜘蛛の目の一つを切り裂く。

「ーーーーー！」

　土蜘蛛が叫び声を上げた。

　その声を聞いた六花がそちらに顔を向けた。

　巨大な蜘蛛の姿に凍り付く。

　ミケが再度蜘蛛に飛び掛かる。

　蜘蛛が大きく後ろに跳んだ。

　あの子……ミケ！

　ミケの姿を見て我に返った六花は急いでスマホを取り出すとアイコンを押した。

　蜘蛛は十二社（じゅうにそう）通りに出て車を撥（は）ね飛ばしながらミケと戦っている。

　ミケは自分より遙かに大きな図体をしている蜘蛛と互角に戦っているようだった。

　六花は怖かったもののミケが心配で目を離せなかった。

　季武君、早く来て……。

　その祈りに答えるかのように飛んできた矢が土蜘蛛の目に突き刺さる。

「ーーーーーー！」

　土蜘蛛が再び悲鳴を上げた。

　四天王が駆けてくるのを見たミケは土蜘蛛の脚に飛び付くとそれをもぎ取る。

「ーーーーーー！」

　土蜘蛛が三度（みたび）叫ぶ。

　ミケは自分の身体より遙かに大きな土蜘蛛の脚を咥（くわ）えるとその場から走り去った。

　土蜘蛛も大きく後ろに跳ぶと、身を翻（ひるがえ）して逃げ出した。

「季武！　六花ちゃんは任せたぞ！」

　綱がそう言いながら六花の横を駆け抜けていった。

「六花！　無事か！」

　季武が走り寄ってきた。

「うん、私は平気」

「送る」

「あ、大丈夫、すぐにマンションに入るから」

「分かった」

　季武は六花がマンションに入ったのを見届けると綱達を追っていった。

　東京郊外――。

「サチ！」

　片目を押さえ足を引摺（ひきず）りながらアジトに入ってきたサチを見たミツが声を上げた。

「どうした！」

「偶然じゃなかった」

　サチが言った。

「え？」

「鵺の時に邪魔をした獣……、あれはあの娘を守ってたんだ」

「じゃあ、その傷は獣に？」

「そうだ」

「サチ一人で行かせたのが間違いだったんじゃないのかい」

　メナが言った。

「攫（さら）われた友達の振りをしてあの娘を連れ去るだけなら一人で十分だと思ったんだが……やはりあの娘を使うのは無理そうだ」

「友達の振りで呼び出せば良（い）いんじゃないか？」

「鬼に攫（さら）われた友達から連絡があったらあの娘は四天王に知らせるはずだ」

「教えさせれば良（い）いじゃないか」

　メナが言った。

　月曜日――。

　昼休み、六花は屋上で季武に弁当を渡しながら、

「綱さん達は五馬ちゃん、捜してるの？」

　と訊ねた。

「ああ」

　と言っても三人とも学校を見張れる位置でニュースを検索しているだけだが。

　酒呑童子の方から出てくるか、あからさまな事件でも起こさない限り見付けようがないのだ。

「一昨日また土蜘蛛がお前を襲ってきただろ……」

　だから今まで以上に警戒が必要だと言おうとした時、

「襲われてないよ」

　六花が否定した。

「え？」

「一昨日はあの子……ミケとあの蜘蛛が戦ってたから連絡したの」

「始めから話してくれ」

　季武の問いに六花は一部始終を話した。

　と言ってもすぐに終わったが。

「そうか……」

　季武は考え込んだ。

　放課後――。

　季武と玄関に来た六花が声を上げた。

「季武君！」

　六花の靴の上にメモが載っていた。

　そこには五馬の居場所だと言う住所が書いてあった。

　紙を見せられた季武は綱達に連絡すると、六花をマンションに送ってからメモの場所に向かった。

　東京郊外――。

　頼光と綱、金時、貞光、それから少し遅れて季武が到着した。

　そこは東京郊外の廃工場（はいこうじょう）だった。

　外から見る限りかなり広い。

　酒呑童子と茨木童子、そして、酒呑童子の四天王の気配がした。

　それ以外の鬼も大量に居（い）るのが気配で分かった。

「五馬ちゃんの気配が無い」

　綱が唇を噛む。

「酒呑童子の四天王がどうして……」

　季武が呟いた。

「話は後だ。来たぞ！」

　大鎧姿の頼光が太刀（たち）膝丸（ひざまる）を構えた。

　四天王もそれぞれ武器を構えた。

　酒呑童子が茨木童子と四天王である星熊童子、熊童子、虎熊童子、金童子とその他の鬼を従えて向かってきた。

「頼光と四天王！　此度（こたび）こそ大江山での借りを返してくれるわ！」

「それは此方（こっち）の台詞だ！　今日こそ引導（いんどう）を渡してやる！」

　綱が髭切を手に酒呑童子に突っ込んでいく。

「綱！　一人で突出（とっしゅつ）するな！　貞光、金時、行け！　季武、援護しろ！」

　頼光はそう指示すると近くに居（い）た熊童子に斬り掛かった。

　貞光と金時が向かってくる鬼達を斬り払いながら綱の元へ走る。

　季武は近くの街灯の上に飛び乗ると他の四人の死角から攻撃しようとする鬼と次々と射貫（いぬ）いていった。

　金童子が季武の方へ駆け寄ってくると街灯をへし折った。

　季武は隣の街灯に跳んだ。

　上空から頼光の背後の鬼に矢を放つ。

　金童子が追ってきて季武が着地する前に街灯を蹴り倒す。

　更に隣の街灯まで行ってしまうと死角が多くなってしまう。

　季武は弓を背に戻すと腰の太刀を抜いて金童子に向かって横に払った。

　後ろに飛び退（の）いた金童子の脇を駆け抜け、綱に襲い掛かろうとした鬼を斬った。

　頼光はそれを見ると鍔迫（つばぜ）り合いをしていた熊童子を力任せに押した。

　熊童子が後ろに飛ばされる。

　頼光は膝丸を鞘（さや）に戻すと工場の屋上に跳んだ。

　背中の弓――雷上動（らいしょうどう）――を取ると上から金時に横から駆け寄ろうとしていた鬼に矢を放った。

　頼光は四天王の周囲に居（い）る鬼達を次々と射貫いていく。

　鬼の一体が屋上に飛び乗ってきた。

　右手で膝丸を抜くと鬼を斬り伏せ再び矢を放ち始めた。

　綱は酒呑童子と鍔迫り合いを繰り返していた。

　互いに押し合って後ろへ飛ぶと、すぐに真っ直ぐに打ち込んでいく。

　金時は茨木童子と斬り結んでいた。

　一度、茨木童子は空に飛び上がろうとしたが頼光の放った矢に翼を射貫かれ、その後は地上で戦っていた。

　綱の背後で戦っていた貞光に熊童子が斬り掛かってきた。

　貞光が大太刀で熊童子の刀を弾いた。そのまま真横に薙ぐ。

　熊童子が大きく後ろに跳んだ。

　金時が茨木童子に鉞（まさかり）を振り下ろす。

　茨木童子が鉞を弾き、返す刀で袈裟（けさ）に斬り下ろした。

　その刀を金時が鉞で弾（はじ）く。

　虎熊童子が金時に斬り掛かる。

　季武が間に入って虎熊童子の刀を受けた。

　季武に斬り掛かろうとした鬼が頼光の矢に射貫かれて消える。

　季武と鍔迫（つばぜ）り合いをしていた虎熊童子が後ろに飛び退（の）いた。

　虎熊童子の居（い）た場所に矢が刺さる。

　虎熊童子を追うように矢が地面に突き立ち、その度に虎熊童子が後ろへと飛び退（の）いて離れていく。

　季武は周囲に目を走らせて熊童子に目を留（と）めると駆け寄（よ）って刀を振り下ろした。

　季武に気を取られた熊童子が貞光の大太刀で真っ二つになる。

　貞光はそのまま金時の背後から斬り掛かろうとしていた金童子に斬り付けた。

　金童子が貞光の大太刀を刀で受け止める。

　動きの止まった金童子を頼光の矢が貫いた。

　貞光は星熊童子に駆け寄ると大太刀を振り下ろした。

　後ろに跳んだ星熊童子を季武が真横から斬り払う。

　星熊童子が真っ二つになって消える。

　綱に斬り掛かろうとした虎熊童子の前に貞光が立ち塞がった。

　季武が虎熊童子の背後に回る。

　虎熊童子が貞光に斬り掛かった。

　貞光が虎熊童子の刀を弾く。

　季武が虎熊童子の背後から刀を横に薙（な）いだ。

　横に飛んだ虎熊童子に貞光が追い縋（すが）り大太刀を袈裟に斬り下ろした。

　虎熊童子が両断されて消える。

　季武と貞光が、綱と金時の掩護（えんご）に回ろうとした時、

「増援だ！」

　頼光が叫んだ。

　見ると大鬼の大群がこちらへ向かってくる所だった。

　頼光が飛び降りてきてドラム缶を蹴り、横に倒した。

　膝丸で穴を開け流れ出してきたオイルの中に火の点いたライターを投げ入れる。

　オイルが燃え上がった。

「綱、金時、そのまま仕留（しと）めろ！　季武、貞光、連中を足止めしろ！　奴等（やつら）は金（ごん）属性だ！」

　頼光の言葉に貞光は炎の中から大弓を取り出した。

　季武も背負っていた弓を手に取る。

　頼光と季武、貞光は、こちらへ向かってくる鬼を火（か）属性の矢で次々と仕留（しと）めていく。

　しかし鬼はかなりの大群だった。

　核を再生出来るぎりぎりのサイズまで細かく砕いたのだ。

　鬼の大群が徐々に近付いてくる。

　貞光は弓を捨てると大太刀を抜いて鬼の群れの先頭に駆け寄った。

　大太刀を横に薙ぎ、二体、三体と纏（まと）めて屠（ほふ）っていく。

　それでも徐々に鬼達の群れが近付いてくる。

　季武も弓を背に戻すと炎の中から大太刀を取り出して鬼の群れに向かっていった。

　季武と貞光が討（う）ち漏（も）らした鬼を頼光が次々に射貫いていく。

　綱が振り下ろした髭切を酒呑童子が弾（はじ）く。

　酒呑童子が刀を横に薙（な）ぐ。

　綱は膝を折って刀を避（よ）けると足をバネにして酒呑童子の懐に飛び込んだ。

　そのとき周囲に土煙が立ち込めた。

「今更遅い！」

　綱の髭切が酒呑童子を貫いた。

　酒呑童子が核に戻る。

　核が異界へと消える直前、何かが素早くそれを奪った。

　何!?

　綱が周囲に目を走らせたが煙で何も見えなかった。

　金時が振り下ろした鉞（まさかり）を受けきれず茨木童子の手から刀が離れた。

　すかさず金時が茨木童子を斬り上げる。

　茨木童子が真っ二つになる。

　その瞬間、金時の背後に何かが飛んだ。

「金時！　後ろだ！」

　綱が叫んだ。

　すんでのところで避（よ）けた金時の脇を何かが掠（かす）める。

　同時に何かが茨木童子の核を奪う。

「茨木童子の核を取られた！」

「くそ！　茨木童子もか！　とりあえず、残りの鬼を片付けるぞ」

　綱と金時は頼光達と戦っている鬼の群れに向かって行った。

「これで最後だ！」

　綱が髭切を振り下ろした。

　鬼が真っ二つになって消える。

「よし、終わったな」

　頼光が膝丸を納刀した。

「頼光様、実は問題が……」

　金時が酒呑童子と茨木童子の核が盗られた旨（むね）を伝えた。

「盗（と）ったってどうやって……」

　貞光が訊ねた。

「煙で見えなかった。とりあえずこちらを先に片付けた方が良（よ）いかと思いまして」

　綱が頼光に言った。

　頼光は四天王と共に核が消えた辺りに向かった。

　地面に白い物がへばり付いている。

「土蜘蛛の糸……」

「やはり土蜘蛛が手を貸してるのか」

「人の気配は無いが、一応この辺りを捜索してから帰れ。私は一旦異界（むこう）に戻って報告してくる」

　頼光の言葉に四天王は四方に散った。

　夜更け――

　六花は物音で目を覚ました。

　時計を見ると深夜だ。

　ベッドから起き上がるとカーテンの隙間から、そっとベランダを覗く。

　ベランダに季武が倒れていた。

「季武君！」

　六花は慌ててサッシを開いて季武を抱き起こした。

「息はしてるけど……」

　六花は季武を引き摺（ず）って部屋に入れた。

「シマ、ごめんね」

　寝ているシマを抱き上げて椅子の上に移すと苦労して季武をベッドに寝かせた。

「どうしよう。シマ、どうしたら良（い）いと思う？」

　シマは椅子の上で丸くなって寝ていて見向きもしなかった。

　血も出てないし服も破れてないから怪我（ケガ）はしていないと思うが、六花は異界の者も血を流すのか知らない。

　服も鬼と戦っている時は道着だから、今着ている物が破れていないからと言って怪我（ケガ）をしていないとは言い切れない。

　しかし服を脱がせても怪我（ケガ）をしているのかどうか六花には判断出来ないだろう。

　六花はベッドサイドに置いて有るスマホを手に取って電話帳を開いた。

　貞光達に掛けてみたが誰も出なかった。

　後は……。

　季武は頼光の連絡先も六花の電話帳に登録していたがもし異界（むこう）の世界に居（い）るとしたら六花のスマホでは繋がらないかもしれない。

　季武君、勝手にごめんね。

　六花は心の中で謝りながら季武のポケットからスマホを取り出し頼光の連絡先に掛けた。

「季武、どうした」

「よ、頼光様、夜分遅くにすみません」

「六花ちゃん？」

　頼光が驚いたような声を出した。

「あ、あの、今、季武君が私の部屋にいるんですが……」

「こんな時間にか。すまない」

「それは良（い）いんですけど、季武君、意識が無くて、どうしたら良（い）いのか……」

　六花の狼狽（うろた）えた声に頼光が呆れたように溜息を吐（つ）いた。

「疲れて寝ているだけだ。その辺に転がしておいてくれ。体力が回復すれば目を覚ますから」

「大丈夫なんですね」

「心配ない」

「……もしかして、頼光様もお疲れでしたか？　その、も、申し訳ありません！」

「気にしなくて良（い）い。私はそいつらより体力があるから」

　通話が切れると六花は安堵（あんど）の溜息を吐（つ）いた。

　頼光様が疲れてるって言ってたよね。

　だとしたら食事を用意しておいた方が良（い）いだろうが今作ったら冷めてしまうかもしれない。

　悩んだ末、六花はとりあえず用意しておく事にした。

　季武が目覚めた時に冷（さ）めていたら温め直せば良（い）いだけだ。

　六花は両親が物音で起きないように気を付けながら食事の用意した。

　ベッドの横に座って季武を眺めている内に眠ってしまった。

　明け方――

　季武はベッドで寝てるのに気付いて飛び起きた。

　ベッドに突っ伏して六花が眠っている。

　しまった……。

　ベランダに来たところまでしか覚えてないから恐（おそ）らくそこで意識を失ったのだろう。

　季武は六花をベッドに寝かせて布団を掛けた。

　机の上に布巾を掛けた食事が置いてある。

　季武のために用意してくれたのだろう。

　季武は食事をすると、

　ごちそうさま

　と書いたメモを残して六花の部屋を後にした。

　前夜――と言っても日付は変わっていたが――、綱達も部屋に戻るなりベッドに倒れ込んでいた。

　早朝、季武がマンションに戻り、三人の目が覚めたところで頼光に報告をした。

「五馬と言う子は見付からなかったんだな」

「はい」

　頼光の問いに四天王が同時に頷いた。

「頼光様、酒呑童子の四天王が居（い）たのはどういう訳でしょうか」

「大江山で討伐した後、奴等（やつら）は異界（むこう）で核を砕かれたはずでは」

「大江山に居（い）た連中は酒呑童子と茨木童子を除いて全員砕かれた」

「核を砕かれたのに再生したと言う事ですか？」

　頼光は溜息を吐（つ）いた。

「核を砕かれたら再生しない。あれは酒呑童子が新しく創ったんだ」

「創った？　そのような事が出来る者が居（い）るのですか？」

「私が知っているのは酒呑童子だけだがな。ただ、それだけ能力（ちから）が強いから核が硬過ぎて上の者でも核を砕くのが難しいんだ。特殊な鬼だから敢（あ）えて砕かなかった、と言うのも有るのかもしれんが」

　上の考えは頼光も知らされていないから分からない。

「茨木童子の核が砕かれないのは何故（なぜ）ですか？」

「奴（やつ）は酒呑童子が創った鬼だ。それも、今回の四天王と違って能力（ちから）の一部を与えられているらしい。だから酒呑童子に準じた扱いなんだ」

「頼光様」

　季武が言った。

「何（なん）だ」

　季武は六花から聞いた話をした。

「六花ちゃんは襲われてない？」

「六花はミケと土蜘蛛が戦っているのを見て俺に連絡したそうです」

　季武の言葉にその場に居（い）た全員が同じ事を考えた。

　最初にミケを見掛けた時、逃げた先には茨木童子と一緒の六花が居（い）た。

　二度目は六花を攫（さら）おうとした鵺を倒した。

　三度目は六花に襲い掛かろうとした鬼を倒した。

　そしてこの前は六花がマンションを出た時に近くで土蜘蛛と戦っていた。

　となるとミケが戦っていた土蜘蛛も六花を襲おうとしていた可能性が高い。

「ミケは六花ちゃんを守っているのでしょうか」

「ミケはただの猫なんですか？　化猫と言うだけで」

　綱達末端の者にはミケの知性や能力がどの程度なのかは知らされていない。

　四天王には異界の獣くらいの認識しかなかった。

　人間を助けたなどと言う話は聞いた事が無い。

　だから今まで六花を守っていたのかもしれないと知って全員驚いていた。

「そのはずだが」

　頼光にもはっきりとは分からないらしい。

「土蜘蛛はまだ六花ちゃんを狙ってるって事か……」

　金時が言った。

「そう言や六花ちゃん、猫拾ってから鬼が出なくなったって言ってたからミケじゃないか確認に行ったんだよな」

　金時がそう言って季武を見た。

「俺が行った時は部屋に居（い）なかった。他の部屋から人間界（こっち）の小動物の気配はしたが」

「貞光だって行ったじゃん」

「オレも見てねぇ」

「待て、なんで貞光が六花の家に行ったんだ」

「あ！」

「馬鹿（バカ）！」

「余計な話は後にしろ！」

　頼光が一喝（いっかつ）した。

「申し訳ありません」

　四人が同時に頭を下げた。