第14話 義母レティシア。
♢ ♢ ♢
白亜のアーチをくぐり街の中に入る馬車。四両の馬車と護衛の騎馬隊は道ゆく人の目にも目立つのか、こちらをみると立ち止まってお辞儀をする領民達。
その敬愛に満ちた表情に、侯爵がいかに領民から慕われているのかがわかる、と、シルフィーナは感じて嬉しく思う。
(それにしても綺麗な街だわ)
聖都と比べれば規模は少し小さく感じるけれど、白亜の煉瓦造りの都は、端々にまで清掃が行き届いているかのように、清浄な雰囲気を醸し出している。
路を歩く領民たちも皆裕福そうで、小綺麗にしているし。
何よりも喧騒が無い。
いや、声が聞こえないというわけではない。
寂しい街というわけでもなくて。
人の往来も多く、商店も賑わっているけれど、聖都で聞こえたような喧騒ではなく、談笑の範囲だと言えばいいのか。
忙しく走る人もいない。
皆、どこか生活に余裕があるのか、大声を張り上げ喧嘩をするようなことも起こらない。
大人の街、そんな印象。
中央の噴水の周りでは子供たちが嬌声を上げて遊んでいたけれど、それものどかな街のワンシーンといった風情を見せていた。
何よりも、そんな子供を見守る大人たちには皆笑顔が溢れていたのだから。
やがて。
馬車は中央にあるお城に到着した。
まるで王宮のような、そんな白く大きなお城を見て。
(やっぱりこの人は、王子様のようなお方なんだわ)
と、目の前の侯爵のお顔をまじまじと眺めてしまう。
代々の騎士団長を輩出するスタンフォード侯爵家は、王族とその血縁である公爵に次いだ地位ではあるけれど。
それでも。
(やっぱり、わたくしなんかにはもったいない人なのかも)
そう思わずにはいられなかった。
♢
エントランスの正面に乗り付けた馬車からまずサイラスが降り、そしてシルフィーナに手を差し伸べてくれる。
「ありがとうございます」
とその手を取ったシルフィーナ。
ゆっくりと馬車から降りると、足元はふかふかの絨毯で覆われていた。
「おかえりなさいませ!」
屋敷中の者たちが出迎えの声を上げる。
その声の多さに一瞬たじろぐシルフィーナ。
「ご苦労だった。変わりはないか?」
そう紳士な笑みで出迎えを労うサイラス。
その奥から一人の貴婦人がススっと前に出て。
「お元気でした? なかなか顔を出してくれないものだからやきもきしておりましたのよ」
と、彼に声をかけた。
サイラスによく似た夜の髪色。
すっと通った鼻筋が彼によく似ている美麗な顔立ち。
「母上、お元気そうで何よりです。聖都の祝宴にはおいでいただけなかったので今日は初めて彼女を紹介できますね」
そうシルフィーナを手招きする彼。
「シルフィーナです、お義母様、よろしくお願いいたします」
絵姿では伺っていたシルフィーナ、おっとりとした笑みでそっと挨拶をして。
「まあまあ。可憐なお嬢さんね。よろしくね」
そういつものサイラスと同じ優しい笑みを向けてくれた義母、レティシア。
とてもサイラスの実母とは思えないほど若々しい彼女、息子の方に向き直ると。
「この歳ではなかなか遠出は辛いのよ。馬車で聖都まで行くのは大変。こうして二人で帰ってきてくれたのですもの、今夜は祝宴よ」
と、そう笑った。
♢
お義母様とお会いする。
そのことにちょっとだけ心配していたシルフィーナ。
残念な嫁だと思われないだろうか?
きつく当たられるんじゃないだろうか?
そんな心配は全くの杞憂だった。
レティシアはエヴァンジェリンと同じ、いや、それ以上に気さくで人懐こい雰囲気で。
厳しい前侯爵夫人、といったイメージはカケラも無く。
どちらかと言ったら『自由奔放』を絵に描いたような、そんなあっけらかんとした態度で。
前侯爵がお亡くなりになったのは十年前、厄災のあった年だと聞いた。
魔獣との戦いで命を落とされたのだ、とも。
それ以降、侯爵位と騎士団長を継いだサイラスが聖都で忙しくしている中、このアルルカンドの政務を一手に担ってきたのだという。
「料理は山ほど用意したわ。今夜は無礼講よ!」
そう豪快にお酒を嗜むレティシア様に。
シルフィーナも自然に笑顔になっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます