プロローグ②

 翌日、今日はウィットの誕生日であり、神授の儀の日だ。

 朝目を覚ましたら、神授の儀に向けて身支度をし、家のシェフが作った朝食を食べて、家族全員で教会へ出発する。


 教会には凄まじい人集りと、今日16歳になったウィット以外の男女が、教会の入り口に長蛇の列を作る。

 全く毎度見ても壮観だぜ。


 そうして、列を待ちながら教会の中へ入ると、次々と出番が来る男女の頭に、神父が手を置き、何度も決まった台詞を言う。


「天の神よ、かの者に神の祝福をお与え下さい。無能の我らに力を」


 そうすれば、神父の手は白く光りだし、神父はその時に与えられた神授ギフトの名前と力の詳細を伝える。


「おぉ……貴方のギフトは二級・聖炎。貴方が出す全ての力に炎神の力が宿り、悪き力を浄化するでしょう」


 ギフトには一級から五級の階級で分けられており、一級がその最高位と呼ぶ。


 そう神父がギフトを渡す儀を終わらせれば、漸くウィットの出番だ。

 そして神父がウィットの頭に手を置けば、目を見開いた。


「なんと、アーロゲント公爵家、ウィット・アーロゲントのギフトは……。

 一級・剣聖……!」


「え、僕が剣聖……? や、やったあああ!」


 まさか俺の悪い予想が当たっちまうとは運が悪いぜ。ウィットは笑顔を静かに俺に向けてくる。

 すげえ憎たらしい顔だ。なんでずっと弱かったてめえが剣聖なんか貰ってんだクソが。

 でも、俺の隣をみれば満面の笑顔の母親と、心底驚いた表情をする親父。

 まぁ、当然の反応か。


 神授の儀が終わった後、すぐに俺と家族は家に帰った。

 まさかウィットが剣聖を手に入れるとは思わなかったので、家では何一つお祝いの準備はしていなかった。


 だがそれでも、親父は母親と一緒にウィットを強く抱きしめた。


「やった! やったよ父さん! 僕が剣聖になるなんて……!」


「あぁ、ウィット。これはきっとお前の剣を神様がずっと見てくれていた証拠だ。

 神様はウィットの頑張る姿を見て、本当に素晴らしい贈り物をくれたようだ。

 よく頑張ったウィット」


「ったく何が剣聖だぁ? 剣の才能もクソも無かったウィットが剣聖を手に入れた所でだ。雑魚な事には変わらねえだろ」


 そうウィットは雑魚であり、雑魚がどんなに強くなろうとしたって変わらないんだ。ギフトの剣聖が覚醒したとしても、俺の力には到底及ばねえ。


「おいデューク……家に帰ったらまたそれか」


「俺は事実を言っているだけだ親父。悪いことは言わねえからウィットが剣聖になったことは周りに伝えない方が良い。

 剣聖を手に入れても、弱いウィットなんて。由緒あるアーロゲント公爵家に泥を塗ることになるぜ?」


 剣聖というギフトには、絶対に弱いという言葉は当て嵌まらない。

 もしウィットのお陰で少しでもウィットの弱さが露見すれば、剣聖の認識が覆され、最強と呼ばれ続けてきた親父の強さは、ギフトの力のお陰とは言えなくなる。


「デュークッ! いつからお前は家のことを言える立場になった? 全く仕方がないな。

 デューク。そこまでウィットのことを心配するなら、今ここで証明してやろう」


「はぁ? 証明? まさか。親父がウィットの力まで手加減して俺と試合するとか言うんじゃ無えだろうな。

 んなもん勝てる訳ねぇだろ。なんの証明にもならねえよ」


「違う。ウィットとだ。剣聖は、どれだけ所持者に力を与えるか。お前は想像でしか知らないだろう。

 だが私は知っている。いいからやってみなさい」


 親父は静かにウィットの背中を押して、俺といつもやっている稽古の打ち合いをやれと、ウィットを差し出してきた。

 まさか、俺がウィットに負けるとか言うんじゃないだろうな。

 は、流石にそれは無いか。剣聖を手に入れたウィットがどれだけ強くなっているか、それを俺に知ってほしいんだろうな。


 親父がそこまで言うんなら受けてやろうじゃ無えか。本気で叩きのめしてやる。もう明日は何も無えからな。

 ボコボコしてやるぜ。


 そうして稽古場に移動すると、親父は俺とウィットを定位置に立たせる。

 そして、親父の始めの合図で始まる。


「始めッ!」


「てやぁあああっ!」


 一番に動いたのはウィット。やっぱりウィットの動きは遅く、太刀筋は剣を持った事がない奴程の素人同然。

 こんな剣筋はもう飽きるほどに見てきた。受け流した後に、腹に蹴りを打ち込んで終わりだ……の筈だった。


 俺のウィットの攻撃を受け流そうとする木剣は、意味の分からねえ力によって逆に弾かれる。


「んなっ!?」


「うおおぉ!」


 俺の受け流しを弾いたことを気づかないウィットは俺に初の二撃目を与えようとする。

 受け流しを弾かれたのは偶然か? と思うが、そもそもウィットが俺に二撃目を与えたことなんて、これまでに一度も無いから、これは偶然では無い。

 だから俺はその二撃目をしっかり防御する態勢を作って、それを防ごうとする。


 しかし、それも弾かれた。いや、防御を貫通して木剣から衝撃を俺の腕まで伝わらさせ、あまりの強さに俺はそのまま吹き飛ばされた。


「ぐああっ! う、腕がぁっ!」


「これが剣聖の力……あ、兄さん! 大丈夫?」


「近寄るんじゃねえクソガキが! ったく……まさか俺が吹き飛ばされるとはな……」


 まさかこれが剣聖の特殊技能か?

 ギフトには、一級にのみ特殊技能という力が隠されている。

 それは人間の限界を越えるものは勿論、人智を越える力もあるとされる。


 それで剣聖の場合は人間の限界だろう。

 確かに俺はウィットの剣を受け止めた筈だ。なのに吹き飛ばされた。

 まるで巨人に棍棒でぶん殴られたかののうな衝撃だった。でもどんな特殊技能なのかまでは分からねえ。


 だがその特殊技能は、親父は気づいてねえようだが、俺のギフトにも付いている。人智を超えた力がな。

 でもそれでもウィットの力に届かなかった。剣聖ってマジでこんなにやべぇのか?


「止めッ! デューク。これで分かっただろ」


「いいや分からねえな。親父、まさかウィットになんか薬でも飲ませて無えだろうな?

 俺がウィットに攻撃を許したのは驚いたが、吹き飛ばされるなんて有り得ねえよ」


「有り得なくない。これが剣聖の力だ。特殊技能は追撃と呼ばれている。

 所持者がどんなに弱い力でも、攻撃が当たれば強大な力で追撃をする。当たりさえすれば、剣聖は所持者に凄まじい力を瞬間的に与えるんだ」


 追撃だと? 今のが? は、何だよそれ。少しでも親父をすげえと思っていた俺が馬鹿だったぜ。


「クソみてぇな特殊技能だなオイ。つまり、親父は、攻撃が当たりさえしなかったらただ雑魚ってことだよな?」


「ならやってみるか? お前の身体能力なら、今の私の攻撃を避けることなど造作もないことだろう」


「いいぜやってる! 当たりさえしなけりゃ親父に勝てるなんて、もっと早く知っとけばよかったぜ!」

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