彼女が可愛くて仕方がなくて、俺はつい「不細工」と言ってしまった
香月深亜
第1話
俺たちの出会いは、最悪だった。
と言っても、最悪な出会いにしたのはこの俺だ。
「こっち見るな、不細工」
ラスティン伯爵家の次男である俺──オリバーは、クレランス伯爵家の令嬢であるオフィーリアに初対面でそんな暴言を吐いてしまった。
あれはまだ、俺とオフィーリアが五歳のとき。
よく晴れた青空の下、うちで開いたガーデンパーティに、クレランス伯爵夫人がオフィーリアを連れてやって来たのだ。
しかし、不細工なんて本当は思っていなかった。
伯爵夫人の隣に立ってスッと礼をしてきた彼女は、同い年とは思えないほど大人びていて、物凄く可憐だった。真っ直ぐ胸元の長さまで伸びた銀髪はサラサラで、青みがかった瞳は宝石のサファイアのように美しい。ふと目が合えばニコッと微笑みを向けられ、その瞬間、彼女の周りには色とりどりの花々が舞って見えた。
なのに。
なのに、だ。
五歳の俺は何を思ったのか、彼女の笑顔を見てつい反射的に、不細工だなんて微塵も思っていない言葉を吐いてしまった。
隣にいた母が慌てて俺に謝るように言ってきて、俺もすぐ我に返って謝ろうとしたのだが、俺が謝るよりも先にオフィーリアが泣き出してしまった。
「ぶ、不細工じゃないもん!!」
さっきまで大人びた姿を見せていたオフィーリアが、いきなり年相応の女の子の姿を見せてきた。眉間に皺を寄せ、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら懸命に言い返してきた彼女の顔は、今でも忘れられない。
誰かの泣き顔が可愛いと、もっと見たいと思ったのはこのときが初めてだったから尚のこと。
ちなみに、当然この後は母からものすごく怒られて、翌日すぐにクレランス伯爵家にお詫びの品を持って行き、改めて謝罪した。
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