赤ずきん、寝る前の電話は午前零時までになさい
登崎萩子
眠気覚ましの氷
冷凍庫から出したばかりの氷が、唇に張り付く。口に含んだ氷のおかげで脳が冷えて目が覚めた。
時計の針が日付をまたいだのに、いっこうに涼しくならない。日本の夏は、じめじめして本当に過ごしづらい。
キッチンから届く灯りの下に、テーブルと折り畳みの椅子。そしてつけっぱなしのパソコンがある。
何でいまだに折り畳みなんだろ。いい加減椅子くらい買うか。
時々休憩をはさみながら、副業をこなそうとするが、暑すぎて休憩が多くなる。
たいていの場合、収入が少ない方が副業で、多い方が本業というんだろう。
お盆は、ほとんどの会社が休みだ。副業をするのにはちょうど良い。というか、休暇じゃなきゃ出来ない。
パソコンの前に座って文字を追う。画面の中に浮かぶ、「通話」「録画」「期末テスト」の単語。
目はすぐにカレンダーに移ってしまう。月末にある大きな赤い丸が、怪獣の口のようだった。
暑い日には、エアコンの効いた部屋でよく眠るべきだ。
締め切り前に焦って、徹夜するのはそれこそ小説の中だけだ。次の日ファミレスか、喫茶店でやる方がいいに決まっている。
シャワーで汗を流して寝るために、着替えをあさる。
全く年を取ったもんだ。長時間エアコンをつけたままでいると冷えてくる。体が硬くなるのがよく分かった。水泳でもやった方がいい。
明日は冷房の効きが悪い席に座るしかなかった。
換気扇の下で煙草に火をつける。何本目か分からない。
今日のノルマは、まだ達成していなかった。徹夜するよりも、毎日やる方が効率は上がるだろう。それは分かっている。
規則正しい生活をするのが悪くないが、遊びに使う時間も必要だった。
「今から書き直す時間なんてねぇよ」
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