第278話 それぞれの気持ち ※一部アリミア視点
あれから数日が経ち、ついにアスクリス公爵家当主の処刑が行われる日になった。
「今日アリミアはどうするんだ?」
「私は今日ミィちゃんと予定があるよ」
「ならミィちゃんと一緒に食べてね」
アニーはアリミアに袋にたくさん入ったクッキーを渡した。
アリミアは処刑を見に行かない選択をした。
彼女が選んだ選択なら俺達家族は尊重することにしている。
ちなみに俺もどうするか迷ったが、今も反応がないケトのために見届けることにした。
「じゃあ、行ってくるね!」
アリミアは朝食を食べ終わると元気に家から出て行った。
「じゃあ、俺達も準備しようか」
どこか重苦しい空気の中、俺達は着替えを済まして広場の中心に向かった。
「ねぇ、ケント……」
「どうした?」
あれだけ家族の思いを晴らしたいと言っていたラルフも、今は重苦しい表情をしていた。
「オラ達医療従事者は何のためにいるんだろうね」
「それは命を助けるため。そして、その人の人生を支えるためだと俺は思っているよ」
「ならこのオラの気持ちは正しいのかな……。家族はあの公爵に殺されたけど、公爵のために何かできなかったのかな」
その言葉にどこか俺も引っかかっていた。
ただ死刑にしてしまえば簡単だが、公爵のことを考えればちゃんとした社会に更生させる。
つまりリハビリという選択肢もあった。
犯罪者を監獄に収容するのではなく、復帰できるように何かしらの役割を与えて社会の一部として活躍させるという手もあるのは聞いたことがある。
「難しい話だよね。ロニーさん達も息子さんのことを受け入れるのに時間はかかったし……何で命を大切にできないんだろうね」
どこの世界にも殺人に手を染める人もいれば、必死に命を助けようとする人がいる。
俺達がどうこうできる問題ではない。ただ、今後も命を軽く見ているこの異世界で異世界病院は選択をしないといけない時が来るのだろう。
俺達が話していると笛の音が鳴り、ついに始まった。
♢
「ミィちゃん遊ぼう!」
私は孤児院に着くといつものように声をかけた。
別に遊ぶ約束をしているわけでもないが、私の中で父様が死ぬことを受け入れられないのかも知れない。
だからお兄ちゃん達と一緒に行かずに孤児院に来た。
「何で来たの?」
「えっ? ミィちゃんと遊ぶためだよ」
ミィは何を言っているのだろう。
するとミィは怒って私の方に近づいてきた。
――ドン!
気づい時には私はミィに押し倒された。
何かいけないことをしているのだろうか。
「何で公爵様の子どもここに来てるのよ!」
私は今までどうするべきなのかミィに相談していた。
でもミィはわからないのか何も答えなかった。
「痛いよ……」
「痛いのは当たり前だよ! アリミアちゃんは羨ましいよ……」
「なんで?」
「私はお母さんにお別れも言えずに捨てられたのよ!」
どこか私の胸は重く何かに掴まれているようだ。
「私のスキルでは必死にお母さんとお父さんに声をかけても繋がらないの! 顔も思い出せない二人には私の声はもう届かないの!」
私の顔に冷たい雫が落ちてきていた。
「おい、ミィやめろ!」
遠くで遊んでいたお兄ちゃん達が馬乗りになるミィを止めた。
「ミィちゃん……」
「だから最後のお別れぐらい行きなさい! あなたはまだ捨てられた私達と違うんだから……」
ミィはそのまま泣きながらお兄ちゃん達に連れて行かれた。
「アリミアちゃんごめんね」
「ううん、私がいけないから」
「ミィのあのスキルは毎日両親を思って使えるようになったんだ。必死に毎日欠かさずお母さんとお父さんに声をかけてたんだ。だからこれからも仲良くしてあげてね」
私はちゃんと考えていなかった。
毎日ミィに相談して辛い思いをしているのは私じゃなくてミィだった。
「私行ってくるよ!」
急いで立ち上がると王都の広場に向かって駆け出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます