第277話 俺の過去
俺はベッドに入り眠るアリミアの手を握っていた。
「アリミア……いや、アリス大丈夫か?」
今はアリミアではなく、アリスとして心配だ。いくら大人びた子でもまだ小さい小学生低学年ぐらいの子どもだ。
月の光から見えるその表情はどこか複雑そうな顔をしていた。
「私は大丈夫だよ……。だって、悪いことをしたら仕返しをされるのは当たり前だもん」
元貴族の令嬢として貴族法を少しは習うのは当たり前だとセヴィオンは言っていた。
その中で王族や国への反乱に値することをすると、処罰されるというのは幼少期から習っているらしい。
だからこそアリミアにしっかりと説明をした方が良いとセヴィオンは言っていた。
「それでもアリスのお父さんだよ?」
「うん……」
「アリスは小さい頃の思い出はある?」
「んー、お父様とお母様と三人で行ったピクニックが一番好きだったかな。広いお庭で風に当たりながら食べるご飯が美味しく――」
彼女の中で昔のことを思い出しているらしい。その目には薄っすらと一粒の涙が流れていた。
「アリスも大変だったね」
俺は優しく頭を撫でると小さく頷いていた。
「私はもう一度みんなと一緒に昔みたいに暮らしたかった。でも、私のせいで――」
「それは違うよ。スキルは問題じゃないんだ。元々公爵と夫人はアリスが小さい時には罪を犯していた。だからアリスには関係ないんだ」
実際にクロスが死ぬ前にも公爵は罪を犯していた。そのため、俺が奴隷になる前から犯罪行為はしていたのだろう。
「私はどうしたら良いのかな」
「アリスはどうしたい? 最後の姿を見に行っても良いことはないと思うけど……」
目の前で人が処刑される姿は誰も見たくはないだろう。
それが本当の父親であれば尚更だ。
「ただ、一つ言えるのは別れが言えるうちはしっかり気持ちを伝えた方が良いよ」
「どういうこと?」
「これはもう一人の俺の話だけどね。俺はこの世界に生まれる前の記憶があるんだ」
「生まれる前の記憶?」
「そう。こことは全く違う魔法もスキルもない平和な世界だったんだ。そこにもアリスみたいな聖っていう妹がいて、母さんと父さんもいた」
転生したと言ってもわからないアリミアには、前世の記憶があることにした。
正直ケトの体に入った俺は転生なのか、それともケトの意識に相澤健斗という人物の前世の記憶を思い出したのかもわからない。
「お兄ちゃんのお母様とお父様は優しかった?」
「うん! すごく優しかったし愛に溢れていたんだ。ただ突然命を落としたんだ」
俺の人生は両親の死から変わった。
「なんで?」
「俺の両親は車っていう馬車みたいものに轢かれてね」
「馬車の前を通るとあぶないもんね」
「母親はその時に亡くなったんだけど、父親は脊髄損傷という病気になったけど幸い命が助かったんだ」
仲の良かった両親は一緒に買い物に行くのが日課だった。その日は買い物の帰り道で事故が起きた。
当時高校生の俺が小学生の聖を連れて病院に行ったのを覚えている。その時には母親は頭を強く打ってすでに亡くなっていた。
父親は重体で治療が間に合い命はどうにか助かった。
「それで父親の助けになりたくて、理学療法士になろうと思ったんだ」
「お兄ちゃんのスキルと同じ名前……」
「だから前の俺はこの体に生まれ変わったんだと思う」
「でもお父様は助かったのに何で亡くなったの?」
「それは母親の死と自分の体が全然動かせないことを受け止められなかったんだ」
父親の遺書には自分の存在が子どもの未来を奪うと書いてあった。
俺はそこまで気にしていなかったが、学校が終わったら常に父親の介護と聖の面倒をみる毎日だった。
お金は母親の保険金と父親が交通事故の影響でもらえたお金で特に心配はいらなかった。
父にとってはまだ子どもの俺に介護と子育てをさせるのが申し訳なかったのだろう。
だから、自ら命を絶つことでその負担を減らそうとしたのだと俺は遺書から感じているる。
「だからアリスには後悔して欲しくないんだ。きっと行っても行かなくても後悔すると思うけどね」
「じゃあ、どうすれば――」
「だからより後悔したくない方を選べば良いと思うよ。アリスの選択に誰も文句を言わないしみんなで支えるよ」
「うん」
「まだ時間はあるからそれまで一緒に悩もうか。じゃあ、今日はゆっくり休むんだよ」
「はーい」
少し眠たそうに目を擦るアリミアを優しく撫でて俺は部屋を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます