第235話 諦めない心

 俺はその空間に耐えられなかった。なぜそんなにすぐに諦めてしまうかと……。


「おい、ガレインどういうことだ」


「だって私に……」


 ガレインの顔はすでに諦めているのか、表情から感情が抜け落ちていく。


 手はぶらりと下がりその場でどうしたらいいのか分からず座り込んでいる。


「ケントいいんだ。魔力不安定症は普通は治せない病気なんだ」


 セヴィオンもセヴィオンで何を言っているのだろうか。今さっきまで治せていた病気なのだ。


 現に今横で戸惑っているマルヴェインやテントの中で眠っている冒険者は治った人達なのだ。


「なんでみんなすぐに諦めるんだよ」


「ごめん。でも私じゃ――」


「そんなの関係ない! 一番諦めちゃいけないお前がなんで簡単に諦めているんだよ!」


「えっ……」


 俺達医療に関わる人が簡単に諦めてはいけない。


 それは人の命や人生を預かっている俺達の当たり前であり難しいことだ。


 ただ言えるのは困っているのは俺達では患者達だ。


「今お前が諦めたらセヴィオンさんはこのまま死ぬことになる」


「うっ……」


「おい、そこまでガレインを攻め――」


「だけど今治せるのはガレイン、お前しかいないんだよ。だから目を逸らすな。まだ諦めるな」


 俺を見つめるガレインの瞳はどこか奥の方で火がついた気がした。


「お前は外れスキルでもない最高の医師だ! 大丈夫! 俺達が付いてる」


 俺はそっとガレインの背中に触れスキルを発動させた。


 俺が今できるのはガレインを癒すことだけだ。


 直接魔力不安定症を治せるわけではない。


「ケントそのままガレインに魔力を送るのだ」


 胸ポケットにいるコロポが俺に話しかけてきた。


 魔力を送るというのはどいうことだろうか。


 スキルを発動させ治療をしている時に魔力が伝わるのだろうか。


 俺はガレインを応援するように少しずつスキルの発動を強めた。


「ケントすまない。私が間違っていたようだ」


 再びガレインはセヴィオンに向き合った。


「医療器具召喚!」


 ガレインはスキルを発動させるとその手にはメスと何かもう一つ持っていた。


 #鑷子__せっし__#と呼ばれるものだった。


 簡単に言えばピンセットみたいな組織を把持したりガーゼを掴んだりなど、手として使っているものだ。


「セヴィオン兄さんもう一回いきます」


 ガレインの言葉にセヴィオンは頷いた。


 再び治療は開始された。


 ガレインはメスを腹部に当てて目を瞑った。


「いきます!」


 そのままガレインは手を引くと、さっきよりも魔力を吸ったのか大きくなった魔力の塊が顔を出した。


「よし、今すぐに捕まえるんだ」


「ああ」


 ガレインは鑷子で魔力の塊を掴むとそのまま大きく引き抜いた。


 するとメスだけの時とは異なり魔力が付いてくる感じでは無く、引っ張られていた。


「ケントお願い!」


「あとは任せておけ!」


 俺は異次元医療鞄から瓶を取り出して魔力を封じ込めた。


「ははは、本当にこいつら治しやがったぜ」

 

 近くで見ていたマルヴェインも驚いていた。どこかで彼も諦めていたのかも知れない。


 ほっと息を吐くその姿にやった安心できたのだろう。


「ケントありがとう。あの時に諦めてしまったら今頃――」


「そんなの気にするなよ。よく頑張ったな」


 俺は優しくガレインの背中を撫でた。どこかその背中はさっきよりも大きく感じた。

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