第214話 一番怖い人
みんなが討伐に行っている間、俺達は孤児院の子ども達と遊んでいた。
特に怪我人もいないし時間を持て余していた。
「ボス取ってこい!」
「ガウ!」
ボスにお手製のボールを投げてはキャッチしてを繰り返している。
それを子ども達が真似してキャッチボールをしていた。
それにしてもボスはどうやってボールを投げているのだろうか。
「お兄ちゃん……」
「アリミアどうしたの?」
そんな中いつもなら元気に遊んでいるアリミアは参加していなかった。
「ビー助がなんかおかしいの」
アリミアはビー助を撫でていた。一緒に異世界食堂で働くようになってからビー助とアリミアは一緒にいる時間が多くなった。
ビー助は俺に近寄ると確かにいつもより大きな音で羽をバタつかせて八の字ダンスを踊っていた。
「ビー助どうしたの?」
ビー助は俺に反応はするもののそわそわしているのは変わらない。
「なんか悪いことを感知しているのじゃな?」
その様子を胸ポケットから見ていたコロポはビー助の様子を理解していた。
「そうなのか……。みんな無事だといいけどな」
「ケント早く来てくれ!」
するとラルフが急いで駆け寄って来た。
「どうしたの?」
「怪我人が来たけみんな治療を拒否しているんだ」
「えっ!?」
俺はラルフに連れられるままついて行くとそこは聖教ギルドの救護施設だった。
♢
「わしはこんな訳の分からないやつらの治療はせんぞ!」
「しかし――」
「やらないと言ったらやらん! それより早くわしに例のピザを持ってこんか! あのとトロッとしたチーズがたま――」
「すみません、何かあったんですか?」
俺は聖教ギルドのテントを覗くとそこには倒れた冒険者達がいた。
聖教ギルドから派遣されたムッシェルが治療もせずに踏ん反り返って座っていた。
この人は怪我人の治療もせずに何をやっているのだろうか。
「子どもがわしのテントに邪魔だ!」
「いや、邪魔なのはおっさんだよ?」
「なに!?」
ラルフの言葉にムッシェルは苛立ちを隠せないでいた。
「お前みたいな人でもないできそこないの獣人――」
「それは私の友人でも同じことが言えるのかい?」
「ガッ……ガレイン殿下?」
突然王族であるガレインが出てムッシェルは驚いていた。
仮冒険者の中に紛れてはいたけどガレインも昨日からずっと一緒にいた。まぁ、この人ずっとテントの中で威張っていたから知らなかったのだろう。
「そっ……それは――」
「この人達はどんな感じ?」
「んー、大きな怪我ってよりは何か魔力がおかしいかな?」
「ははは、そこまでわかるとはお前達優秀なようだな。どうだ、私達の元で働かないか?」
ムッシェルの頭の中ではお金の計算をしているのだろうか。
「それ以上侮辱するようならあなたを不敬罪で訴えますよ」
「殿下流石にそれは……スキルが使えない出来損ないのくせに」
ムッシェルは小さく呟いたが俺達が聞き逃さないはずがなかった。
むしろ俺の愉快な仲間達がそれを許してはいない。
「ガゥ!」
「うっ……うわー!」
ムッシェルの後ろには突然姿を現したボスがいた。ボスの存在にムッシェルは驚き腰が抜けていた。
「ガルルルル……ガゥ!」
ボスが吠えるとムッシェルは自身の股を濡らしていた。
「俺は食べても――」
「脂身たっぷりだもんなー。オークより価値が無さそう」
「おい、ケント……?」
「ハンバーグにもならないただの脂肪の塊って火を着けたら全部溶けるのかな?」
「ケント……?」
ラルフとガレインは俺の姿にビクビクとしていた。
俺もボスと同様に大事な仲間を貶されたことが気に食わなかった。
「でも蝋燭ぐらいなら使い道は……あっ臭いがきついから使えないか! だっておしっこの臭いでそれどころじゃないもんなー」
「ふふふ、なんか楽しそうなことしてるね。私も参加するわ」
俺の後ろに存在を隠していたシルキーが出てきた。
「わあ……わわわわ」
俺は両手で温熱療法を火力強めで発動した。
火炎噴射器のように出てきた火にさらにムッシェルは口を震わせていた。
さらにおしっこが垂れていた。
「さぁ? どうやって調理しようか?」
「うっ……うわあああああー!」
俺が近寄るとムッシェルはそのままテントから出ると、走って逃げていった。
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