第208話 出発

 翌朝俺が起きた時には冒険者達は自身の装備を調整したりなど準備をしていた。


 昨夜の雰囲気とはがらりと変わり、ピリついた雰囲気が漂っていた。


 俺その間に事前に準備していた物を使って軽めの朝食を作ることにした。


「おはよう」


 今起きてきたばかりなのか寝癖を直しながらマルクスが声をかけてきた。


 マルクス自体は魔物の群れに出陣することはないため起きるのも遅い。


 彼の役目はこっちに逃げた魔物の討伐と救護施設にいる俺達の護衛だ。


「昨日とは違ってピリついてますね」


「ああ、みんなも命がけだからな。そこまで強くない魔物だと分かっていても、集団となればどうなるかはわからない」


 魔物が集団になるだけで依頼のランクが上がるほど、魔物の集団は恐れられている。


「まぁ、ケントは気にしなくていい。怪我して来る人がいたら治せばいいからな」


「何もないといいのですが……」


 俺は無事に終わることを祈った。





 朝食後しばらくすると冒険者達が集まって来た。


「皆聞くのじゃ!」


 冒険者達の中心にはギルドマスターのカタリーナとハワードがいた。


「今回指揮を取るのは私とここにいるハワードじゃ! 文句があるやつは手を挙げろ」


 あそこまで圧力を放っていれば誰も手を挙げる者はいないだろう。そもそも冒険者の中でハワードも有名なため実力は知れ渡っている。


「これから二チームに分ける。お互いに今回の作戦を練り合わせるのじゃ」


 チームが発表され破滅のトラッセンやネロやドランはハワードと同じ西側担当になった。


 そしてカタリーナは北西に向かうことが決まった。


「今回は概ね皆にも伝わっていると思うが先に偵察部隊が魔物の状況を追っている。その部隊からは魔物の動きが緩やかになって立ち止まりながら進んでいると報告が入っている」


 王都にいる時の情報と少し変わり、どの方面も魔物の侵攻が緩やかになっていると情報があった。


 ただ魔物が一定の侵攻で進んでいることに皆が不気味に思っていた。


「それを好機ととらえて迎え撃つ作戦でいく」


 カタリーナから軽く今回の作戦が話された。


 誘い込む場所はどちらも広く空いた場所で、上級魔法が放てるほどの広い場所だ。


 まずはハワードとカタリーナが魔法をいくつか放ち、敵の数を減らすことで戦力を削ぐ予定だ。


 ある程度数を減らしながらハワード達は西に、カタリーナ達は北西に進みながら魔物を倒す予定だ。


 そもそも動物より知性がある魔物のため、退き際を理解している。


 そこで逃げるのであれば問題はない。


「では、皆のも健闘を祈る」


「みんな行ってくるね! 私のダブルウィッチの力を見せてくるわ」


 俺にスキルの使い方を聞いたリチアは、あれから風属性魔法の制御に明け暮れていた。


 今回それが存分に発揮できる場が与えられているためウキウキとしていた。


「リチアさん危なそうですね……」


 そんなリチアを俺は心配していたが、隣には同じパーティーメンバーのリモンとカルロもいる。


「まぁ、俺が付いてるから大丈夫だ」


「いやー、カルロさんに言われても……」


「おいおい、俺じゃ頼りないかて? これでもこのパーティーのタンクだから命をかけてでも守ってやるぜ」


「ははは、カルロさんも気をつけてくださいね」


「おう!」


 この人達にはこれぐらいがちょうどいいだろう。


「絶対ここで食い止めないと王都にはカレンとあいつの子供もいるからな」


「あいつと俺の子のためにも頼む! 何かあったらすぐに駆けつける」


 マルクスの言葉に破滅のトラッセンのメンバーは笑っていた。


「マルクスさんが離れたらダメですよー。ここは最後の砦ですからね! 私達がダメだったら最後はお願いします」


 リチアの普段見せない真面目な顔に今から本当に戦いが始まると実感した。


「ダメだと思ったらケント達も逃げてくれよ。まだ君達は本来こんなところに連れて来られる年齢でもないんだ」


 それに続きリモンも真面目なことを言ったため、いつのまにか辛気臭い雰囲気になっていた。


「おいおい、みんな大丈夫だ! 俺がいるからすぐに終わるぞ」


 呑気にハワードが声をかけて来た。


「まぁ、このS級冒険者ハワード様がいるから安心しろ! あと終わったらお前ら二人に話があるからな」


 ハワードは俺とラルフに指を差していた。


「俺達にですか?」


「ああ、楽しみに待っててくれ」


 そう言ってハワードは去って行った。


「じゃ、行ってくるね」


「あっ、リチアさん待ってください」


 俺は行こうとしていたリチアを止めた。


「ハニービーの王国魔力蜜です」


 俺はリチアに瓶を渡した。


 魔法使いであるリチアの魔力量を心配して、事前に俺は瓶に詰めていた。


「ありがとう!」


「じゃあ、俺達も行ってくる」


 破滅のトラッセンはハワードに続き、待機場所から出て行った。


 その後ろ姿が自然と目に焼きついていた。

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