第198話 客層

 今日は異世界病院で依頼を受けていた。


「またあいつが見ているのじゃ」


 胸ポケットに隠れているコロポが俺に話しかけてきた。


「いつも何しているのかな……」


「ちょっと相手してくるのじゃ!」


「いや、何かするわけじゃないから別にいいよ」


 胸ポケットから出ようとするコロポを抑えつけた。


 いつからかハワードが俺達を見張るようになっていたのだ。


 初めは気づかなかったが、俺の仲間達が優秀のおかげかすぐにそれがわかった。


 今は被害に遭うこともないためそのまま放置している。


「次の方どうぞ!」


 俺は次の患者を呼び込むとそこには最近知り合いになった人物が来ていた。


「あっ、ゴードンさん! ここに来るの初めてですよね?」


「ああ、ここに来ると魔力の通りが良くなると聞いてな」


 以前魔法士団で模擬戦をした時に文句を言っていたゴードンは今じゃ頻繁に話す仲になっている。


「そうなんですか? たしかに最近セヴィオンさんもよく来ますね」


「セヴィオン様も通ってるのか」


「よく来ていますよ」


 最近ではセヴィオンが異世界病院に通うようになっていた。


 初めは俺のスキルを興味本意で受けたいと言って、マッサージをしたのが始まりだった。


 単純にリラックスしに来ていると思っていたが、話の内容的にどうやら違ったようだ。


「最近では貴族達の間でも話題にはなっているぞ」


「えっ!?」


 どうやって貴族に伝わったのか、王族の名前の力は強く、孤児院への資金も少しずつ元に戻っている。


 そして今じゃ病院と食堂で得た利益を自身が働いた分の給料として、お金を与えることができるまでに変わっていた。


「変に目をつけられないように気をつけないといけないですね」


「ああ、貴族は厄介なやつが多いからな」


 "ゴードンもその一人だった"と昔のゴードンに言いたいぐらいだ。今はそんなこと言っても笑って謝るぐらいの関係だから問題ない。


「じゃあ、いつも通りに寝てください」


 俺はゴードンにうつ伏せに寝てもらうと背中に手を当てて筋肉をほぐし始めた。


「あー、これこれ。 少し痛いけど気持ちいいな」


「また勉強と仕事のやりすぎですか?」


「ははは、流石だな」


 ゴードンは魔法士団としての仕事をしながら、貴族の仕事として財務省の手伝いをしている。


 ゴードンの家系は代々財務省に勤めているが、魔法が使えるゴードンの主な仕事は魔法士団となっている。


「まだまだ仕事もできないからな」


 まだ新人魔法士と言われているぐらいだから仕事をやり始めてそこまで時間も経っていない。


 財務省でも雑務ばかりで常に自己研鑽をするほど努力家なのだ。だからこそ俺達にあんな態度を取ったのだろう。


 実際、孤児院のお金の管理もゴードンがガレインに協力しているから前より情報が入りやすく今の現状が分かっているのもあった。


「だいぶ胸筋群も肩甲骨周囲も硬くなっているのでしっかり肩を回したりして休んでくださいね」


「また来るから――」


「ちゃんと動かしてくださいね」


「痛たたた!」


 俺は筋硬結を押すとゴードンは悶えていた。


「硬くなりすぎると神経も圧迫するほどになると痛くて生活するのも大変になるから気をつけてくださいね」


 俺は"胸郭出口症候群"にならないか心配していた。


 すでに貴族の中に腕の痺れや痛みを感じている人が多いのをゴードンから聞いていたのだ。


「そうだな……。今度父さんと兄さんにも伝えて――」


「いや、ゴードンさんもしっかりやっててください」


 あまり自分のことだと受け止めないゴードンに俺は小胸筋の筋硬結を押した。


「あー! 模擬戦の時も思ったけどお前やっぱりドSだろ」


「ははは、理学療法士はドSが多いってよく言われますからね」


 俺はゴードンの治療を行なっているといきなりコロポが何か違和感を感じていた。

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