第191話 日常

 悪人面の男はハワードと名乗っていた。ハワードはアリスが困っているなら保護するために連れて来い言ったが、サルベイン子爵が勘違いしていた。


 その後、何事もなかったようにハワードはサルベイン子爵を連れ、今度は飯を食べに来ると言って去って行った。


「アリミアも大変だったんだね」


「うん……。でもすぐにケント兄ちゃんと会ったから良かったよ」


 アリミアは逃げている最中にそのまま寝落ちして、朝起きた時にはゴブリンに囲まれて逃げ回っていたらしい。


「とりあえず、アスクリス公爵にはみつからないようにしないといけないですね」


「それなら大丈夫だと思うぞ。アスクリス公爵は基本的にトライン街を中心に活動しているから、王都で集まる理由がある時か危機的な状況にならないと貴族は集まらないからな」


 基本的に領地を守る管轄であれば王都に来ることはないため、アスクリス公爵に見つかること可能性は滅多にないらしい。


 異世界食堂に来るようなタイプの人間でもないしな。


「ただ、アスクリス公爵と同じ派閥の子爵達であれば、王城で働いてるものが多いから気をつける心配はあるな。ここが俺の庇護している店と伝われば問題起こせないだろうし、相当な物好きな貴族じゃないとここにはこないだろうしな」


 マルヴェインの言葉に俺達は笑ってしまった。


「おい、どうしたんだ」


「だって相当な物好きってマルヴェインさんが来てるじゃないですか」


「あー、確かにそれはそうか」


 やはりどこか脳筋なのかゴリラなのか抜けているマルヴェインだった。


「あとは呼び方を気をつけることだな。じゃあ、解決したってことだから戻るぞ」


 確かにアリスの顔を知っていた人の前で名前を呼んでしまったら正体をバラすようなもんだからな。


「えっ、まだマルヴェイン兄さん食べるんですか? さっきパスタ四皿も食べたじゃないですか……」


「腹がまた減ってきたからな。アリミアちゃんまた一皿頼むよ!」


「わかったー!」


 マルヴェインは庭へ戻り、アリスは厨房にオーダーを伝えに行った。


「ケントごめんね。そのうちマルヴェイン兄さんが食べ尽くしちゃうかもしれないよね」


「それはそれで儲けが出るから大丈夫でしょ」


 ゴリラからオークキングにでも進化するつもりなんだろうか。


「この前ラルフと話し合ったんだけど、王城の騎士達の訓練に参加することでできないかな?」


 ラルフはカタリーナと手合わせしてから自身の能力の使い方と立ち回り方を理解していた。


 ただ、実践を多く積むには沢山の人と手合わせする必要があった。


「訓練?」


「ああ、オラのスキルで剣の受け身をしたくてね」


 ラルフはグリッドを取り出すとガレインは驚いていた。


「ラルフも空間から出せるようになったんですね」


「オラのはグリッドだけだからケントのなんでも入るわけわからん鞄とは違うけどね」


 ラルフは俺の方を見て呆れたように笑っていた。いや、ラルフも能力だけ見れば周りが呆れるレベルだ。


「オラの場合は魔力が有れば沢山出せるけどな」


 ラルフは空間からさらに二枚グリッドを出した。計三枚のグリッドが手元に出ていた。


「今はこれぐらいだな」


「そんなに出せたのかよ……」


「ラルフも大概ですよ……」


「そうか?」


 どこか抜けているのは相変わらず変わらないようだ。


「でもその板ってどういう物ですか?」


 ガレインはまだグリッドがどのように使われているのか知らなかった。


「実際見たほうがわかりやすいんだけど、魔法が使える人がいないからな……」


「魔法に関わることで有れば魔法士団にも声をかけておいたほうがいいですか?」


「それだと助かるかな」


「ではマルヴェイン兄さんとセヴィオン兄さんにも伝えておきますね。きっと二人なら練習相手として相手してくれますし! じゃあ、私も戻りますね」


「えっ……ちょっと……」


「ひょっとしてあの二人と模擬戦する感じなのかな?」


「ラルフも目の前に戦闘態勢のゴリラが来たら驚いて足がガクガクするぞ」


「それまでに準備はしておくよ……」


 俺達は再び模擬戦に向けて訓練するのだった。


 あれ、結局何のために訓練することにしたのだろうか……。

 

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