第190話 正体 ※一部【side:アリミア】

 アリスは必死に男達から離れるために走った。


 街の中では追いつかれると思ったアリスは門番の隙を狙って夕方にも関わらず外に逃げ出した。


「はぁ……はぁ……」


 アリスは全力で走り気づいた時には森の中にいた。


 あたりは静まり返り、月の光がアリスを照らしている。


「もう大丈夫だよね……」


 アリスは近くにあった木の上に座ると胸元から一枚の紙が落ちてきた。


「手紙?」


 逃げる時に助けてくれた変な男に渡されたものだ。必死に走ってたアリスは手紙のことを忘れていた。


 アリスは手紙を拾い裏を見るとそこにはヘレンの名前が見えた。


 アリスは領主の長女ということもあり、小さい頃から家庭教師を付けられ文字の読み書きは教えられていた。


「ヘレンからだ!」


 アリスはワクワクした気持ちでヘレンからの手紙を開け読み始めた。


――――――――――――――――――――


敬愛なるアリス様へ

 

 まずはじめに謝らなければいけません。最後までアリス様の側でずっと給仕できず申し訳ありません。


 そして、この手紙を読んでいるということはきっと私はアリス様の側にいないと思います。


 アリス様と出会ったのはいつもいるあの倉庫でしたね。


 はじめはなぜ私が専属メイドとしてアリス様をお慕えすることになったのかわかりませんでした。


 周りのメイド達からアスクリス公爵家の汚点と言われたアリス様の専属になり、回りからは同情されることが多くアリス様の給仕をするのは正直嫌でした。


 しかし、アリス様はそんなことを知っているのか私を気遣ったり、自身の境遇にも文句を言わず、私はいつのまにかそんなアリス様をお慕えしておりました。今でもその気持ちは変わりません。


 さて、話に戻りますが先日仕事中にアリス様が殺害されると私は敷地内で聞いてしまいました。


 メイドの私では何もできないと思い、ただただ日にちが過ぎるばかりでした。


 それでも大事なアリス様が傷つくのを許せなかった私に声をかけた男がいました。


 初めて彼を見たとき、彼等の仲間だと思ってましたが、まさかアリス様を助けるために潜入していた人物だとは思いもしなかったです。


 私は彼と共に今回の計画を練り、手紙を彼に託しました。きっと今頃彼と逃げおわったころだと思います。


 きっともうアリス様と会うことはないと思います。


 でも、もう一度会うことがあれば給仕させてもらえるとヘレンは嬉しいです。


 私はずっとあなたの側付きメイドです。


 これからも愛らしいアリス様でお過ごし下さい。


ヘレンより


――――――――――――――――――――


「ヘレン……」


 アリスの目からは涙が溢れ出ていた。


 読めないところはたくさんあったが、アリスにヘレンの気持ちが伝わったのだろう。


 その時のアリスは一段と月の光で輝いていた。





 サルベイン子爵は話終えると息を落ち着かせた。


「それで結局アリミア……いや、アリスを呼んでいるのは誰なんだ?」


 話の中で結局誰がアリミアを呼んでいる人はわからなかった。


「それはアリス様を助けた男です」


「で結局そいつは――」


「あー、呼んでこいって言ったのは俺だわ」


 扉を開ける音と同時に男が入ってきた。アリミアはその人物を見ると駆け寄った。


「あ! 悪人面のおっさん!」


 アリミアの声に男はその場で崩れ落ちそうになっている。


 たしかにアリミアが言ったことがしっくりとくる顔だ。


「おいおい、助けたやつに悪人面のおっさんはないだろ」


「でも悪い顔してるよ?」


「はぁー」


 男とアリミアの会話に俺達は笑っていた。


 しかし、その中で唯一笑っていない人物がいた。第一王子のマルヴェインだった。


「なんで、隣国の王子がうちにいるんだ?」


「おー、マルヴェイン久しぶりだな」


「兄さんどういうことなんですか?」


 ガレインはマルヴェインに聞くと話し出した。


「彼は隣国のベズギット魔法国の王位継承権第一位で現魔法国王の弟だ」


 男は威張ったように腰に手を当てて、胸を張って紹介されていた。


 どこかこの人も頭のネジが抜けている気がする。王族って変わり者が多いのはどこの国も同じなんだろう。


「悪人面なのに王子様なの?」


 アリミアの言葉に威張っていた男はまたズルズルと崩れ落ちるのだった。


──────────

【あとがき】


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