第185話 貴族

 俺達はミィに呼ばれるがまま異世界食堂に向かった。


 ミィを抱えた状態で話を聞くと、貴族と揉め事を起こしているようだ。


「アリミアは何もしていないんだな?」


「多分していないよ?」


「また貴族とは……厄介な奴らに目をつけられたな」


 貴族優位の社会で平民は底辺のため、基本的に威張っている貴族ばかりだ。


 この間オーク?子爵でそれが充分理解できた。


 その中でも権力を持っている貴族であればアリミアはどうなるか分からない。


 冒険者ギルドと異世界食堂は比較的近い位置に面しているため、俺達はすぐに異世界食堂に着いた。


 すでに入り口にはたくさんの人で溢れかえっている。


「私はそんなことしてない!」


「お前がやったんだろう! はやく来るんだ」


 奥からアリミアの声と大きな怒鳴り声が聞こえてきた。


 俺は近くにいた女性に現状を理解するために話かけた。


「今どういう状況ですか?」


「あっ、ケントくん! 私達もわからないのよ。急にアリミアちゃんが貴族に言い掛かりを突きつけられて……悔しいけど私達じゃどうしようもないわ」


 女性は異世界病院にも通っており、俺のことを知っていた。


 女性は止めようにも、相手の服装から貴族だと思い何もできないでいた。


 これが平民と貴族との差だ。

 

「すみません! 通してください」


 俺達は人混みをかき分けると手首を掴まれているアリミアがいた。


「貴族様すみません。私の妹が何かしでかしたのでしょうか?」


「お兄ちゃん……」


 俺はアリミアの横に跪き貴族に話しかけた。


 貴族はアリミアの手を離し俺の方へ顔を向けた。


「この少女について来いと行ったが頑なに拒否をするのだ」


「それはどういう理由があってのことでしょうか?」


「それはだな……平民に話すほどではない。はやくついて来い」


 貴族は理由を話せないのか、すぐに話を切りアリミアを連れて行こうと再び腕を掴んだ。


「おいおい、俺の庇護している食堂って分かってそれをやっているのか?」


 その時遠くから地響きのような男の声が響いた。


 その声はその場をすぐに黙らせた。


 俺達は声をする方へ顔を向けるとマルヴェインとガレインが立っていた。


「殿下!」


 貴族はすぐにアリミアの手を離し跪いた。その姿にマルヴェインはニヤリと笑った。


「マルヴェインさんどうして……」


「ああ、パスタが食いたくてな」


 マルヴェインはただ単にパスタを食べに来たようだ。


「庭でマルヴェイン兄さんとパスタを食べてたら次第に声が大きくなってることに気づいてね」


「近づいたらケントが必死に話しているのが見えたから声をかけさせてもらったぞ」


 マルヴェインは貴族がこのお店に来ていることは知っていた。


 それでも今後貴族達が客として来る可能性を考え、問題が起きたら当の本人達が解決しないといけないと思い今まで会話に入ることはなかった。


 しかし、俺が間に入ったことでただ事では無いと感じたらしい。


「それでサルベイン子爵は何があってこの少女を連れて行こうとしているんだ?」


 貴族はマルヴェインにサルベイン子爵と呼ばれていた。


「ガレインちょっといいか。サルベイン子爵って?」


 俺は隣にいたガレインに説明を求めた。


「比較的新しく出来た貴族です。ただ、そこまで目立つような貴族ではないので本当に何かあったのかな?」


「殿下少しお話をよろしいでしょうか?」


 今まで黙っていたサルベイン子爵は口を開いた。


「私はある人に頼まれてこの少女を連れて行こうとしていただけです」


「その人とは誰なんだ?」


「いえ、それは……」


 サルベイン子爵が答えるのを拒否しようと誤魔化した。


「ぐはっ!」


 気づいた時には地面はわずかに揺れ、一瞬で全身が刃物で刺された感覚に陥っていた。


 圧を向けられたのは俺ではないのに命の危険を感じるレベルだ。


 さすがゴリラだ……。


「それで何故連れて行こうとしたんだ?」


 マルヴェインがサルベイン子爵の肩を掴むと身の危険感じたのかサルベイン子爵は話し始めた。


「彼女はアスクリス公爵家の御令嬢です」


 "アスクリス公爵家令嬢"


 俺とラルフの認識では残酷な領主として認識している。


 アリミアはそこの公爵家の長女にあたると子爵は話していた。その衝撃に俺達は時が止まったように感じた。


「アスクリス公爵家の令嬢って数年前に亡くなったはずじゃなかったけ?」


「届けでは盗賊に誘拐され、殺害されたとなっています。その証拠に盗賊らは処刑されています」


 王都に提出された死亡届には、盗賊に誘拐され身代金と交換の末に殺害されたと書いてあった。


「それならアリミアは死んでいるはずだが?」


「実はそうじゃないんです。これには訳があって……」

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