第184話 一文字スキル
カタリーナと模擬戦をしてから、俺とラルフはマルクスと訓練場で戦闘訓練をする機会が増えた。
異世界病院も少しずつ孤児院の子ども達でも運営できるようになり時間が確保できてきたのだ。
オークの群れが出現後、未だに他の冒険者達に確認されていないため、仮冒険者の森への採取は禁止されるようになった。
今も打診器を持った俺とグリッドを構えたラルフは周りから見たら異質な武器と防具とも言える装備でマルクスと向き合っていた。
「ケント振りが甘いぞ!ラルフももう少し前に入って盾……グリッドの中心で受け止めろ」
マルクスは俺達を鍛えるには適した人物だった。
マルクスの戦闘スタイルはハンマーを片手で振り回し、もう片方で中型の盾で防御する戦い方だ。ハンマーと盾の使い方を習うにはちょうどよかった。
若干ラルフのグリッドに違和感を感じているが、盾の機能としては問題ないと判断して盾として扱っている。
それにしてもこの間グリッドが割れたはずなのに新品のグリッドが出てくるのは費用がかからないため便利だ。
カタリーナとラルフが一戦を終えたあと、マルクスは直接カタリーナから俺達を鍛えあげるよう頼まれたらしい。
家族だから頼みやすいという点もあったが、なぜか俺の周辺では厄介なことが起こる可能性が高いのが最大の理由だった。
俺の存在がいけないのだろうか……。転生したということが何か関係しているのだろうかと思ってしまう。
ただ、そのことは誰にも言うつもりないし言っても何も変わらないだろう。
そして今回のオーク話を聞いてギルド内では厳重注意するようにと言われた。カタリーナの中で何か胸のざわつきを感じているらしい。
「よし、少し休憩するか」
マルクスから休憩の声が掛かり、俺達は自身の装備を片付けた。
俺は異次元医療鞄に出し入れをしているが、ラルフは思ったところにグリッドを出し入れできるため俺達の能力はやはり特殊だ。
「中々便利なスキルだよな」
そんな俺達のスキルを見ていたマルクスは呟いた。
「でも外れスキルだよ?」
「ここまでいったらもはや当たりスキルな気もするがな……」
「使い方やスキルの熟練度でこんなに違うとは思わなかったよ」
俺のスキル【理学療法】スキルツリーはLv.4の温熱療法まで解放され、ラルフはスキル【放射線技師】スキルツリーLv.3のグリッドまで解放されている。
「孤児院の子らもこんな有能なスキルなのか?」
「少しずつは成長してますが、俺達とガレインのみが異質かも知れないです」
「ガレインは王族だからわからなくもないが何が違うんだ?」
「それは俺から説明しますね。俺達三人は一文字スキルツリーなんです」
「一文字スキルツリー?」
ラルフはスキルを使って気になっていたことを話した。
「俺はそうやって呼んでます。ケントは"慈愛の心"、俺は"透視の目"、ガレインは"医療の王"とどれもはじめに使えるスキルの後ろの文字が基本一文字です」
「確かに一文字だな」
「孤児院の子達は全て何かの"心得"とスキルツリーが書いているため同じスキルでも少し別のものだと思う」
ラルフは以前から自分達と孤児院の子達を目で見て、違いを理解しようとしていた。
その時に気づいたのが一文字と二文字の違いだった。
ラルとウルは介護の心得とスキルツリーに表記されており、リハビリスキルの少年三人組も心得と表記されている。
やはりラルフは元から頭が良いのだろう。俺はそんなことも気づかずに異世界生活を楽しんでいた。
「じゃあ、その一文字スキルだと特殊になるのか?」
「まだ分からないからなんとも言えないです。二文字だからって使えないわけでもないですし、基本冒険者内にいる人達は二文字なので違いはないかもしれませんが……」
以前ラルフはギルド内の人達をスキルを使って見たことがあった。
マルクスも含めギルド内にいる人達は全員二文字だった。
唯一わからなかったのはカタリーナのみで、カタリーナは全ての表記が文字化けしていた。
そして、見た瞬間気づかれたのか「乙女の秘密を覗き見るのはマナー違反じゃ」と言って去って行ったらしい。
あの人年齢的にはおばあ……。
「寒っ!?」
「ケント大丈夫?」
「うん……何か急に寒気を感じたよ」
「なら体が冷える前に動いて……あれ孤児院の子じゃないか?」
マルクスが訓練を再開させようと立ち上がると、訓練場入口でキョロキョロと誰かを探している子供がいた。
「あっ、ミィだね。ミィこっち!」
入口にいたミィに声をかけると、急いで走ってきたミィの顔は困惑した顔と焦りが混ざったような表情をしていた。
「お兄ちゃん達早く戻ってきて!」
ミィは必死に俺とラルフの手を掴んで引っ張っていた。
「何かあったの?」
「アリミアが大変なの! アリミアが……」
振り返ったミィは涙を流していた。
「よし、嬢ちゃん詳しい話は向かいながら教えてくれ。お前ら行くぞ!」
何か異変を感じたマルクスはミィを抱きかかえ、俺達は異世界食堂に向かった。
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