第174話 ニヤニヤ
俺は一階に降りて作業をしているアニーに声をかけた。
「母さん何かやることある?」
アニーは首を横に振っていた。大方シルがやったおかげで特に人はいらなさそうだった。
本当に便利屋なシルは俺よりも一家に一人欲しいぐらいだろう。お話機能もついているから一人暮らしの人にはぴったりだ。
そんなことを思っているとシルはこちらを見ていた。
「精神操作するよ?」
うん、時折発言が怖いのはご愛嬌ってことで……。
「そうそう、ラルフくんも連れて一緒にお隣さんに挨拶をしてきて頂戴」
隣の家に挨拶をしに行くのは異世界も変わらない風習らしい。
「これで荷物は終わりですかね? サインをお願いします」
家具を運んできた男の人はアニーにサインを貰うと、隣の人も引っ越してきたばかりだと言っていた。
今からその家にも荷物を届けに行くらしい。
「なら、一緒に行きましょうか」
俺達は男の人とついて行き隣の家の扉をノックした。
――コンコン!
隣の家は俺のところより小さいがしっかりとした一軒家だ。
「あー、はいはい! ちょっと待ってな!」
俺達はどこか聞いたことある声に思わず固まってしまった。
「えっ!?」
「おう、ケント!」
「なんで……マルクスさん!?」
扉を開けたのはマルクスだった。なんとマルクス達夫婦も俺達の家の横に引っ越してきていた。
「ラルフは知ってた?」
「いや、俺も知らなかったぞ」
どうやらラルフも聞いていなかったようだ。
「あー、あの二人には黙っているように言っていたからな」
ロニーとアニーには事前に住むところを聞いたマルクスはカレンの提案でちょうどとなりの空き家に住むことにしたらしい。
本当にマルクスには勿体ない女性と結婚できたと思う。俺が女性なら脳筋絶倫男と結婚は無理だからな。
「あのー、家具をお持ちしたんですが……」
「ああ、中に入ってくれ」
気づいたら俺達は玄関で話していた。
「そういえば、お前たちはどうしたんだ?」
「母さんに挨拶に行けって言われたから来たんだけど……」
「ははは、お前たちを驚かせたかったんだな」
アニーはわざと俺達だけで挨拶に行くように言ったのだろう。
「まぁ、そういうことだからこれからもよろしくな」
「だから今日の朝ニヤニヤしてたんですね」
別れの日なのにマルクスは朝から異様なほどニヤニヤしていたのだ。
「ははは、そういうことだ。じゃあ、俺はまだ家具の置く場所を言いに行かないといけないからまた後でな!」
「はーい」
そう言ってマルクスは奥の部屋に入って行った。
「結局マルクスさんとは近くに住むんだね」
「まさかここまでやられるとは思わなかったね」
「まぁ、離れていてもオラ達家族だしな」
「そうだね」
俺達はマルクスの家を後にし自分達の家に戻るのだった。
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