第172話 契約

 商業ギルドに戻り受付嬢に話をすると、すぐにギルドマスターが出てきた。


「ガレイン様どうでしたか?」


 ギルドマスターが発した一言目がこれだ。今後住む予定の俺達に話をするの普通だと思うが、はじめにガレインに話を聞くところを見るとギルドマスターとしてどうかと思う。


「ああ、ケント達家族は特に問題がないと言っていたよ」


「そうでしたか! では契約書と入居するためのお金についてですね」


 ギルドマスターはガレインに渡した。それをみてガレインも驚いていた。だからなぜガレインに話をするんだ。


「すみません、住むのは私じゃないので話は彼らにしてください」


 ガレインもギルドマスターの態度が気になっていたようだ。本人が住むわけでもないのに話を通さらても困るのは当たり前だ。


「馬鹿なこいつらにですか?」


「なっ!?」


 ロニーはギルドマスターにイライラしていたがアニーが止めていた。


「ちょっと確認しますね」


 俺は契約書を確認した。一人暮らしした時も契約はしっかり見たほうがいいことを学んだからな。


 家賃が安くても同じ会社でガスと電気が固定されていて高くなったからな……。


 俺はそんなことを思っているとギルドマスターはまだ文句を言っていた。


「子どもに分かるわけない」


 本当に今後の商業ギルドが心配になる。この人が王都で一番上ってどうなんだろうか……。


 ちなみに俺は孤児院の子達とともにコルトンに読み書きを教えてもらっているから何事もなく文字は読めている。


「ロニーさんこの物件って家賃が安いけど、入居費がすごい高めになっているけどいいですか?」


 そこには日本円で家賃はニ万円で入居費は三十万円という計算だ。


 王都自体は物価が高い中で家賃が激安なのはスライムの影響だろう。それを見越してすぐに出て行くことを考えて入居費を高くしているのだろう。


「たしかに高いけど王都では普通なのか?」


「いや、基本的に入居費は家賃の三ヶ月分って聞いてます」


 ここに来る前にも基本的な家事情は博学なコルトンから勉強済みだ。


「チッ! 気付きやがったか。いや、王都はそもそも家賃が金貨一枚程度のところが多いからここは安いが入居費が代わりに高くなっているだけだ」


「それはなんでですか?」


 ガレインもなんとなく想像はついていたがギルドマスターに確認していた。


「あー、ここの家を管理してる人が早く売りたいようでな。家賃は安くして、その分少しは入居費を高く設定しています」


 半分はほんとなのか、顔色を変えずにギルドマスターは話していた。


 伊達に商業ギルドの頂点に立っているわけではないのだろう。何も知らなければ俳優レベルの演技力だ。


「ならこの家を借りることにするよ」


「ほぉー、そうですか。それはこちらも助かります」


 ロニーが借りると発言した直後にギルドマスターの態度は変わっていた。


 その後買い取った場合の契約書も見せてもらったが、ローンのようになっており家賃を一定以上の金額を払えば買取になるようなシステムになっていた。


 元々借りる気だったし、家賃も含めるとあの大きさなら安い方だろう。


「ではここにサインをよろしくお願いします。ちなみに三ヶ月分の家賃を先払いになりますのでよろしくお願いします」


「わかりました。ではまた後日持ってきますの」


「お待ちしております。お金を預かり次第鍵と交換になりますのでよろしくお願いします」


 ロニーは契約書にサインをすると俺達は商業ギルドを後にした。


「ははは、あいつら馬鹿だな! なぜ、家賃が安いのか聞いてきたまでは良かったが騙されておって! 田舎者の平民は馬鹿ばかりで楽だな」


 ギルドマスターは自身の部屋で声高らかに笑うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る