第151話 スローライフと前世のチート料理でしょ
俺はまずロンにレシピを渡し作り方を教えた。
普段から孤児院で料理をしているだけあって、ある程度教えるだけで手際よく覚えていた。
ハンバーグに関してはミンチにするという方法を異世界ではしないため、オークの肉をミンチにした時は驚いていたが、成型した時には納得していた。
「このスパイスはどれぐらい入れればいいですか?」
そして今はカレースープの作り方を教えている。
「基本的にはこっちのスパイスが大きなスプーンでこっちは小さなスプーンで同じ分量入れてね」
用意したのはウコン、唐辛子、コリアンダー、クミンを各々の粉末状にしたものだ。
初めて異世界でスパイスを見つけた時はびっくりした。この三つに関してはアスクレ治療院に置いてあったのだ。
「ケント兄さんは何でこんなこと知ってるんですか?」
「んー、生きるための知恵かな? 一時期森でずっと生活してたからね」
決して前世の知識とは言えないため、適当に理由をつけたがロンは納得していた。
俺が一時期森で生活をしていたことを彼らは知っている。
「それでこのスパイスの量で味が少し変わるから、少しずつ自分で研究できるといいね」
今後はロンも働くことになるため、いつかはお店にもカレーが出せるように教えていた。
単純に俺が外でカレーが食べたかっただけだ。レシピが広がれば色々な物が食べられるようになるからな。
「あとは材料をそのまま置いておくから、少しずつ味の調整をしながら、他の子達にも教えてあげてね」
何かあればラルフに声をかけるように伝えて次はスキル【パティシエ】持ちの子ども達の方に向かった。
「あっ、ニチャ!」
声をかけてきたのはミィとそんなに背丈も変わらない少女のベールだった。
どこか舌足らずでいつも俺のことをニチャと呼んでいる。
「クッキー出来てきたかな?」
「うん! ビー助がすごいよ」
クッキーの作り方を教えているのはまさかのトラッセン街から付いてきたハニービーだ。
そのまま連れて行くのを申し訳なく思った俺はあれから医療ポイントを貯めてハニービーにビー助と名付けた。
「まさかビー助が先生になるとは思わなかったな……」
ビー助は俺の周りを飛びなからポコスカと叩いていた。
ハニー王国でも粉に魔力蜜を混ぜてから食べていたらしい。
何の粉かわからないがビー助はどこからか持ってきて、自分で作った魔力蜜と混ぜていた。
それを分けてもらい、焼いてみると蜂蜜の味がしっかりとしたクッキーになった。
そのためビー助にパティシエ組へジェスチャーで作り方を教えるように指示すると、どうにか教えることが出来ていたらしい。
うちの子達って実はめちゃくちゃ知能が高いのだろう。
「あとは焼くだけだからクッキーは完成で、パンケーキの作り方だね」
俺はふかふかなパンケーキを作るためにまずは卵を白身と黄身に分けてメレンゲを作った。
異世界に泡立て器が無いため、フォークを背合わせに紐で括り、簡易泡立て器を使った。
「ニチャこれ無理だよ」
「ベール頑張れ! これがしっかり出来ると美味しいほかほかなパンケーキが出来るよ」
「むむむ……ふかふか頑張る!」
ベールが必死に混ぜてるとスキルの影響なのかメレンゲが早くできた。
俺と同じタイミングでメレンゲ作りを始めたのに……。
「やはりこの世界はスキルの影響が強いな……」
「ただいま! 順調そう?」
俺はメレンゲ作りに疲れて休憩していると、依頼に出ていたウルとラルが帰ってきた。
この二人が帰ってくるのを待っていた。
「向こうはロンくんがいるからどうにかなるけどデザート組は若いからね」
料理組は年齢層が高めだが、ベールをはじめデザート組はまだ小学生に上がる前の年齢だ。
「ニチャ次はどうするの?」
「やっぱり子どもは元気だな……」
「ふふふ、ケントくんもまだ子どもよ?」
そんな俺を見てウルは笑っていた。いやいや、俺の心はそろそろアラサーだ。
「ニチャアアアアア!」
「ああ、すまない。そこに粉を入れて軽く混ぜたら焼こうか」
ここからは火を使うためウルとラルの出番だ。
「火の管理は二人かロンに任せるから、ベール達は火傷しないようにね」
「わかった。それにしてもこんなモワモワしたやつが美味しいのか?」
ウルは若干焼く前のパンケーキの姿に疑問を抱いていた。
「絶対びっくりするからね」
俺はベールに丸く置くように説明しながら焼いていくと、そこには膨れ上がったパンケーキが出来た。
お皿に乗せるとふわふわと動くその姿にウルは驚いていた。
「スライムか……?」
どうやら異世界のスライムはふわふわパンケーキのような見た目らしい。
今回はバター、魔力蜜、果物から作ったジャムの三種類を用意して味を楽しめるようにした。
正直値段は高くなるが、そもそも甘いものを食べる文化がないため食べたら虜になるだろう。
「ニチャ出来た? 食べていいの?」
ふかふかに出来たパンケーキにベールをはじめデザート組の子どもは目を輝かせていた。
「食べていいよ」
俺の一声にベール達はたくさん口に詰めてモグモグとしていた。
「おいおい、詰めすぎ――」
「うっ……」
「大丈夫か?」
俺は子ども達に声をかけるがどうやら詰まらせたわけではなかった。
「おいちー!」
あまりの美味しさに動きが止まっていただけだった。そんなところを遠くで見ていたラルフは近寄ってきた。
「オラたちの……」
「ちゃんと用意してるから出来るまで待っててね」
ラルフはボスよりもお預けされた犬のようになっていた。
「そういえばそっちは大丈夫そう?」
「ロンくんが回してくれてるから大丈夫だよ」
「なら、そろそろみんなを集めて試食会をしようか」
エイマーや医療組も呼んで始めた試食会は孤児院が揺れるほどの大騒ぎとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます