第149話 生誕祭?

 ガレインはあれから定期的に治療のために孤児院に来る回数が増えていた。


 ちなみにあの件からスキル発動が父親である王にバレたが、今は王の側近までで口止めをされて貴族達には伝わらないようにしているらしい。


 冒険者達もカタリーナの権限で口止めをされているが、貴族と関わりがある冒険者ってほぼいないに等しい。


 結局のところガレインの味方は貴族とかではなく冒険者だ。


「これで依頼は終わりかな?」


「今日の分は終わりだね」


 ガレインがいる日は様々な依頼が追加され、休みなく依頼をこなしている。


 例えば外傷の治療や以前から持っている病気の治療、ちょっとした診察もラルフ付きで行われていたりする。


 本当に医師としての役割が少しずつではあるができているのだ。


「そういえば生誕祭はどうするんだ?」


「生誕祭?」


 ケトの記憶を探るが特に生誕祭という言葉は出てこなかった。


「ラルフは知ってるか?」


「あー、家族がいた時は小さくお祝いしていたから知っているぞ。トライン街も賑やかになるけど、オラの家ではそんなに関係なかったしな」


「知らないのは俺だけか……」


 本格的に生誕祭を知らないのは俺だけだった。


「生誕祭って何をやるものなんだ?」


「基本的には新しい年が来るのを祝うのと成人を祝う祭りかな」


 いわゆる、正月と成人式を同時に行うような祭りらしい。


 また、この世界では誕生日という概念がなく、生誕祭を基準に年が変わったら年齢が一つ上がる仕組みになっていた。


「生誕祭が来たらオラ達も十二歳になるな。 あと、三年で大人の仲間入りだな。外れスキルも今じゃ外れじゃないし、ケントに出会えて良かったよ」


 急なラルフの言葉に俺は戸惑った。


「なんだよ。急に気持ち悪いな」


「ははは、ごめんごめん」

 

「それで、孤児院は何かやるの?」


「何かって?」


「せっかくだから何かやるのもいいかと思ったけどやらないものなのかな?」


 生誕祭のみ商業ギルドに所属していなくても、申請をだせば屋台などは出せる仕組みになっているらしい。


 だからガレインは孤児院でお金になることをやらないかと確認していた。


 せっかくたくさんいる子ども達にも協力させて、お金を稼ぐ経験をしても良いのかもしれない。


「んー、生誕祭をやったこともないですし、一度エイマーさんに確認してみようか」


 孤児院の責任者であるエイマーに確認をしにいくと、良い案があれば生誕祭に参加する方向性となった。





 そして、俺はエイマーと何をやるのか話し合うことにした。


「その前にケントくんに相談があるんですけど……」


「僕に解決できることがあれば相談に乗りますよ?」


「実は前スキルを見てもらった時に私にはわからないスキルの子がいまして……」


 以前ラルフとスキルを把握するために、全ての子にステータスを開示させてもらい、スキルが発動しているか確認したことがあった。


 その中にエイマー自身がわからないスキルの子がいて、どうすればいいのか困っているとの相談だった。


「あれ? 医療関係のスキル以外に外れスキルの子っていましたか?」


「この子達のスキルが聞いたことなくて、他の職員もわからないので、ケントくんに聞こうと思っていたのですが忘れてました」


 俺は一枚の紙を渡されると、そこには前世では普通に馴染みのある言葉が書かれていた。


――――――――――――――――――――


スキル【シェフ】

スキル【パティシエ】

スキル【ウェイター】


――――――――――――――――――――


「えっ? このスキルですか?」


「はい。スキルはどこかで発動されているので外れスキルでは無いと思うんですが、何に関係するスキルかわからないので、今後どうしようかと思ってまして……」


 エイマーの会話の内容に俺は驚いていた。


 まさか馴染みのある言葉がこの世界では使われていない言葉だった。


 スキルはどこかで発動しているが、何かわからないため外れスキル扱いになっているらしい。


 ひょっとしたら外れスキルって医療関係ってことではなくて、この世界になくて前世で使われていた言葉が外れスキルと言われているのかもしれない。


「スキル【料理人】ってありますか?」


「はい。お店をやるには必須のスキルですよね?」


 どうやら料理人は存在するらしい。


「それと扱いはほぼ同じです。シェフは料理人をまとめる人のことで、パティシエはお菓子を作る人のことを言います。ウェイターは食事を運ぶ人ですね」


 シェフはスキル【料理人】、パティシエはスキル【菓子職人】、ウェイターは【給仕】と概ね同じのようだ。


「だからスキルが発動していたんですね」


 孤児院の子達は自身で料理を分担して作ることもあるため、自然と調理に触れることはあった。


 だからスキルは発動していたのだろう。


「でもシェフもパティシエも結構多いですよね?」


「両方とも三人ずついます」


「ならその子達を中心に生誕祭で孤児院の食事処をやってみてはどうですか? ウェイターもいることですし、ちゃんとした食事処になりそうですよ」


 俺は食事処を生誕祭でやってみて、働く経験をしてみてはどうかと提案することにした。


 おいおい管理栄養士が見つかれば病院食も作れるだろうし、障害がある人の就労支援のサポートも視野に入れることができる。


 どんどん外れスキルの幅が広がる気がしていた。


「わかりました。では商業ギルドに登録をしておきますね」


「お願いします。僕は冒険者ギルドを使って宣伝しておきますね」


 俺達は生誕祭に食事処をやることになった。

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