第128話 畜産の街

 俺は食事を終えるとお風呂に入って就寝した。


 風呂も家族達には好評で水浴びの文化の中で湯は貴重なため、最終的には家族に俺一人はいると便利って認識になった。


 二日後も特に変わったことはなく、ついに畜産の街トラッセン街に到着した。


 トラッセン街は森に隣接しており、比較的自然と近い構造になった街だ。


 門を潜り抜けると広大な土地となっており、トライン街とは異なり街と言われている部分は商店などが密接しているが、住民が住む民家は離れている構造をしていた。


 完全に住居と商店が分かれているような感じだ。


「ケントくんよかったらうちに遊びに来てね」


「わかりました」


 一緒に馬車に乗っていた家族と別れ、俺達は数日泊まる宿屋を探すことにした。


 破滅のトラッセンは各々の実家に帰っていった。


「なんかどこも広大な土地ですね」

 

「俺もトラッセン街には依頼でしか来たことないが、建物は少ないけど王都並みに街の中は広いからな」


 マルクスは以前トラッセン街に訪れたことがあったらしい。


「この辺は森と近い分魔物の侵入が多くて、結構大変な街なんだよ」


 隣接する森から魔物が侵入しようとすることが多いのがトラッセン街の特徴でもあった。


 基本的に畜産として養蜂と養蚕をしているが、どちらも魔物でも認識は昆虫の扱いになっている。


 むしろ侵入しようとするのは、養蜂や養蚕を食べようとする、上位の昆虫型魔物が厄介な相手だ。


 人を襲う魔物が少ないのもその特徴だ。


 しばらく歩くとトラッセン街で一般的に知られている宿屋に着いた。


 以前マルクスも泊まったことがあり、混み合っていない穴場の宿屋らしい。


「いらっしゃい! 珍しい顔だね」


 宿屋はどこも恰幅が良い女性が定番なのか、ここの宿屋も体格が良い女性が受付をしていた。


「三人泊まれる部屋はあるか?」


「同じ部屋か別々どっちがいいかい?」


「じゃあ、三人同じ部屋で頼む」


 王都の憩いの宿屋では、マルクスのみ個室だったがせっかくだからという理由で三人一部屋となった。


「食事はどうするんだ?」


「夜と朝はなるべくここで食べるようにする」


「一食大銅貨5枚だが大丈夫か?」


 日本円にすると一食約500円と値段は中々リーズナブルだ。


「それで構わん」


「これが部屋の鍵だよ。部屋はここを使ってください」


 女性に案内されると、扉を開けた先には憩いの宿屋よりも大きな室内が広がっていた。


 さすが土地が多くあるだけ宿屋も大きいのだろう。


「やっと着きましたね」


「今日はゆっくりして明日から活動するか」


「そうですね。実際こういう依頼は初めてなので準備もしたいですしね」


 明日からのことを話していると、窓際にいたラルフが声をかけてきた。


「おい、ケントちょっと来いよ」


「ラルフどうした?」


 ラルフに呼ばれ窓際に来ると男性が犬みたいな動物と何かをやっていた。


「あー、あれが養蜂業に使われる蜂の魔物ハニービーだぞ」


 マルクスの言葉に俺達は驚いていた。窓から見ても、大きさ的には小型犬より少し大きめなミツバチなのだ。


 ボスの半分ぐらいのサイズだ。ちなみにボスは憩いの宿屋でお留守番している。今じゃ看板犬をしながら悪いやつが来たら追い払う番犬だ。


「比較的に温厚な魔物だから変なことしない限りは大丈夫だぞ? 行ってみるか?」


「行く!」


 俺は若干怖気付いていたが、どうやらラルフは気になっていたらしい。一人でいるのも暇なため俺も一緒についていくことにした。





「ちょっと見ててもいいか?」


 マルクスはハニービーの世話をしている男性に声をかけた。


「ああ、別に大丈夫だぞ」


 男性に許可を取ってから俺達はハニービー達の養蜂業を見ることにした。


 巣箱というよりは決められたとこに蜜を集めて、その後男性はハニービーの頭に手を近づけて何かを送っていた。


「何をやってるんですか?」


「ああ、これは蜜を集めて貰ったお礼に魔力を与えているんだ。こいつら魔物なのに自分で魔力を集める力を持っていないんだ」


 人間は魔法が使える人であれば、魔素から魔力を意図的に作り出すことができる。


 魔物も同様に魔素から魔力を作り出すことができるが、その過程に何か問題があるのか人間と違い知的な部分が薄れ凶暴になると言われている。


 ハニービーは魔物だが魔物特有の魔素から魔力を作り出せないため、魔物特有の凶暴性が失われている。どこから見ても犬にしか見えないのだ。


 今も魔力をもらって喜んでいるのか腹部を左右に振っている。


 ハニービーは魔物のため魔力がなければ死んでしまうらしい。集めた蜜と人間の魔力を交換に魔力を貰っていた。


 俺は養蜂業を見ていると一体のハニービーが近づいてきた。


 見た目も意外とフサフサしており、蜂というよりはもふもふ系の動物のようだ。


「少年も魔力を操れるんだな。しかも動物や魔物を懐かせるスキルも持っているのか」


 少し心当たりがあったため頷いた。


「よかったらそいつに魔力を分けてあげ――」


 俺は男性に言われる前にハニービーを触ろうとした。するとハニービーは自ら頭を差し出し撫でるように催促していた。


「へへ、ハニービーって可愛いね」

 ハニービーに触れると自然に魔力が吸い取られていた。その後自身の体をケントに擦り付けて、どこかへ飛んで行った。


「おおー、養蜂業に向いているな! 中々あそこまで好かれるやつも少ないから、よっぽど美味しい魔力を持っているんだな」


 俺の魔力に味があるのか気になったが、指を舐めても特に味はしなかった。


 最悪冒険者が続けられなくなったら、トラッセン街で養蜂業を家業にすればどうやら生きていけそうだ。


 スローライフに養蜂業も検討しておこう。

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