第113話 池の中

 俺はどこか視線を感じていた。そこに目を向けるとコロポが見ていた。


「ケントもやっぱ可愛い子の方がいいんじゃな!」


 緑色の妖精に見惚れていたところをコロポは見て拗ねていた。可愛い妖精が小さなおっさんで比べようがない。


「いや、決してロリコン的な趣味があるわけではなくて……」


「じゃあ――」


「でも、おっさんは対象外です!」


「ぐふっ!?」


 即答した俺にコロポは落ち込んでいた。すると姿を隠していた魔法は少しずつ効力が切れていた。


「ちょっと、魔法が切れかけてるわよ!」


「ケントはどうせ……」


「コロポ、好きとかじゃなくて俺はコロポがよくて一緒にいるんだぞ!」


「本当か?」


「ああ」


 このままでは危ないと思った俺はフォローすると魔法は持ち直した。


「あんた達せっかくスライムを飛ばしたのに早くしてよー!」


 スライムは徐々に池に戻って来ていた。


「緑の妖精さん、もう一度お願いします」


「仕方ないわね!」


 緑色の妖精はもう一度風属性魔法を発動させると、さっきよりスライム達は転がっていた。


 コロコロと転がるスライムは思ったよりも可愛かった。


「ありがとう!」


「もう今度はないからね」


 俺は池までたどり着くとすでにスライム達が近づいている。


 池に手を入れ異次元医療鞄を発動させた。発動させたケントの手元には少しずつ渦が発生し、池の水はどんどん異次元医療鞄の中に入っていった。


 異次元医療鞄は少し形が違うものに関しては別の元認識されるが、水などは収納枠一つで済む。


 作戦は単純に池の水を異次元医療鞄に収納し水がなくなったところで捨てられた物を取りに行くというものだ。


 池の水は数分で収納され中には石や綺麗に輝く鉱石なとが落ちていた。


「うわー、なんだこれ」


 鉱石を手に取ると単色のものあれば色が混ざったものも存在していた。


「ケント早く探すのじゃ」


 コロポに言われて俺は辺りを見渡すと妙にスライム達がある一定方向に向かっていた。


 そこに向かって走ると岩と岩の間に金色のものが挟まっていた。


「コロポあそこにあるよ!」


 スライムが集まっていたため俺では取りに行けなかった。そこであることを思いついた。


「コロポ頑張ってこい」


「えっ?」


 俺はコロポを掴むとスライムが集まっている方向に向かって体を向けた。


「おい、まさかそれは……。わしの扱いが雑なのじゃー!」


 投げる瞬間にコロポは何かを言っていたようだ。だが俺には聞こえなかった。いや、聞かないことにしたのだ。


 隙間を通り抜けるようにコロポを投げつけると、そのままスライムの間を通り抜け金色のアクセサリーの前に落ちた。


「ナイス、俺!」


「覚えておくのじゃー!」


 コロポはアクセサリーを掴むとそのままスライムの隙間を抜けて俺のところへ向かって走ってきた。


 妖精と違い羽がないから全力で走るしかないのだ。おじさんの全力疾走って中々見ることがないからどこか新鮮だった。


「おっ……コロポ止まれ!!」


「嫌じゃー!」


 コロポが走るとアクセサリーから溢れ出る魔素に引き込まれるようにスライムが追いかけていた。


 俺はすぐにスキルツリーを開いた。


――――――――――――――――――――


スキルツリー『Lv.2 異次元医療鞄』

 空間に異次元の医療鞄を出すことができる。


※医療ポイント100消費で必要医療器具および機器が解放可能。10消費で容量を増やすことができる。


1.打診器(テイラー式)

2.角度計(東大式)

3.池の水

4.


――――――――――――――――――――


 医療ポイント10を消費し容量を一枠増やした。


 スライムはコロポの間近まで近づいていた。


「コロポ早よ来い!」

 

「投げたのはお主じゃろー!」


 俺は池から上がりコロポの方へ腕を伸ばした。


 コロポが登った瞬間に異次元医療鞄から池の水を取り出した。


 そのまま水の勢いはスライム達を池の中へ押し戻す。


「コロポ大丈夫か?」


「作戦が違うじゃろ!」


「えっ? プランBだよ?」


「わしが聞いていなかっただけなのか……?」


 俺は適当にプランBと答えただけだ。特に作戦なんて考えていなかった。


「ここから魔素を凄い感じます」


 青色の妖精がコロポが持って来ていたアクセサリーを指差していた。


 そのアクセサリーにどこか見覚えがあった。


「ケントよ……まさかこれって……」


「ああ、多分強制進化の首輪だと思う」


 コロポが持って来たのは強制進化の首輪だった。


 今までのは魔物や動物が付けていたものを外して取っていたが、今回は誰も付けていない状態で手に入れた。


「ひょっとしてこの魔素を狙って魔物が寄って来たのか……」


「多分そうだと思います。ここから溢れ出る魔素には魔物を惹きつける力を感じます」


 妖精達は俺には感じない魔素もどこか感覚的に違いを認識しているのであろう。


 俺は魔物が寄って来ないように異次元医療鞄に強制進化の首輪を収納するとスライム達はキョロキョロと見回していた。


「私達を助けてくれてありがとうございます」


 妖精達も次第に飛んで消えていった。


「俺たちも帰ろうか」


「その前に何かあるじゃろ?」


 どこかコロポは苛立ちを隠せないでいる。俺は何かしたのだろうか。


「何かって?」


「プランBってなんじゃー!」


「やばっ!?」


 コロポについた嘘がバレたようだ。俺はボスが待っている入り口まで全力で走った。

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